神母坂 黎佳

おや、浮かない顔だ。せっかくのイケメンが台無しだぞ?

藍美 輪

…………僕はこれが普通なんですけど。

神母坂 黎佳

あら、それは悪かったね!
しばらく一緒にいるのに君はよくわからないねえ。

僕が彼女……神母坂 黎佳(いげさか れいか)に誘われ、
猫に〝正式加入〟してからもう半年は経つ。

彼女はことあるごとに僕の事を〝よく分からない〟と形容するが、僕には〝何が分からないのかが分からない〟。

藍美 輪

僕はとても簡単な人間だと思うんですが……?

神母坂 黎佳

んー、臆病ってことについてはたしかに君の言う通り『簡単』なのかもね。

でも輪君は簡単なことが複雑になっている気がするなあー……端的に言えば変わり者。
なんてね。

彼女はそう言う。

それでも僕にはそれがどういう事だかさっぱり分からなくて、虚空に大きな疑問符が浮かぶ。

田地 葵

たしかに。
狗になんの恨みもないやつをそばに置くなんて、最初はお嬢がおかしくなったのかと思ったよ。

割って会話に入ってきたのは、ベテランボディーガード、もしくはベテランのヤクザのような風貌の大柄の男。

浅黒い肌に、黒いスーツ。

そしてたまに真っ黒のサングラスを掛けた時の彼は、豪快な口調と強面も相まって、
完全に危ない人間に思われがちだが、
田地 葵(たち あおい)という名の立派な猫の構成員のうちの一人だ。

そして意外な事に豪胆な性格の裏には繊細な一面もあり、自然とムードメーカーのような役割を担っている

藍美 輪

たしかに狗に恨みはないですけど……でも、それでも猫に入ってからは嫌というくらい分かりましたよ。

お国の立派な仕事をしていても、
高尚な聖職者でも、
どれだけ善人に見える人間だろうと、
悪い人というのは、常に仮面を被り続けているだけで実はどこにでもいるんですよね……。

藍美 輪

それになによりあなた達を敵に回す方がよほど恐ろしいですから。

そう言った僕に「そうだろう」とケタケタと声をあげて笑った七人は全員能力犯罪組織〝猫〟の構成員だ。

一般常識では猫は、

「法外な値段で罪のない人間の殺しを請け負う、能力を使った殺し屋」

とされている。

が、僕自身この組織に入ってみて分かったが猫は警察や政治家、あらゆる隠蔽された悪を……法で裁き切れなかった犯罪者達を捕まえているという事実だ。

それになにより僕がここに居続ける理由は――

彼らが好きだということ、それこそがきっと一番の理由だ。

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