ぼろぼろの衣類を纏った男が汚物の山からそれを掲げていた。黄ばんだティッシュにこびり付いたソレを。
み、見づけたぁぁ!
ぼろぼろの衣類を纏った男が汚物の山からそれを掲げていた。黄ばんだティッシュにこびり付いたソレを。
細胞ぉ! 他人(ひと)の細胞ぉぉ!
時は2033年。街の桜は皮を剥がされ、葉も持ち去られている。その枝が花を咲かせる時はもう2度と来ないだろう。荒廃したこの街で生きるには食糧とただただ資金が必要だった。
街を歩く生活困難者は、アルミ、スチールの空き缶ではなく新鮮な『ゴミ』を集めた。ゴミに付着した『DNA細胞』を彼らは他人(ヒト)へ売るのだ。
不思議に思うかもしれないがそれは流通としてまかり通った。その買い手の1グループがボク達、
――『化け物クリエイターズ』だった。
ボク達『化けクリ』は動物のDNA細胞から命を作り出した。
それは犬だったり、猫だったり、そしてその大半は、
――変異体(ばけもの)だった。
出来たよ『みれい』。さっさと命を吹き込んでやってよ。
採取された細胞の核をボク達は弄る。遺伝子情報を書き換え、ベースとなった生き物と同じ種の卵細胞に組み込みそれを培養、加速度的に成長させる。けれどこの生命体(にくかい)に知識は無い。誰もが彼らにソレを持たす事が出来ないし、やろうともしない。
けれど、――ボク達は違った。
口が多い。さっさとやるから黙れ。
おお、こわっ。
肩をすくめるボクを追い払うと、その子はおもむろに培養液前のモニターに座る。話しかけ、PCから連動する電気パルスを培養タンク内の細胞へ打ち込んでいく。
彼女は、細胞から生まれたモノに知識を吹き込む『生命付与者(エンチャンター)』。
名を『言霊(ことだま)みれい』という。
ボクらは、彼女のチカラによりこの世界でカネを得ることが出来た。知識持つ化け物を使って、世界(よのなか)で戦う事が許された。
イバラキの街『ヒタチナカ』は多くの瓦礫に溢れている。桜の並木は倒れ、地に在った根は食われた。砂場で遊ぶ幼子はこの『ヒタチナカ』に残っていない。
世界が『ホーム』と呼ばれた4人の家族に支配された時代。
ボク達は何も持ちえなかった。
父も母も、土地も金も、苗字も。
父が居た過去があるとするなら、父はアソコ、前方の集積所でゴミを漁っている。鬱々と呟きゴミ拾う『アレ』は、自分が信じた患者に財を食い尽くされた道化だ。
命を救う! と世に立ち上るも、疲弊し債務を抱えこの時代に負けた『ゴミクズ』だ。
母は他所の男とこのあばら屋を出て行った。
元の苗字はいい値段で軍の男に買われていった。
ボクに残ったのは何十もの借用書と、たった1人の姉だけ。
苗字を持たないボクは自身をこう名乗った。偉大なる父を謳い、
――『ヒト腹(はら)創(つくる)』――と。