8月某日・深夜。
 周囲の皆が寝静まっている頃だというのに大神家の一室では未だに電気が点いていた。
 部屋の中では長く艶やかな黒髪を結い、男物の着物を着ている明らかな男性が机上の書類を黙読している。
 彼こそが『fratelloプロダクション』社長、大神彩羽。
 しかしその男姿を知るのは彼の家族のみである。他の誰が見ても昼間の彩羽と同一人物であるとは思わず、その正体には気付かないであろう。
 書類を見ながら彩羽は思う。

大神彩羽(おおかみいろは)

やっぱ今年も来たか・・・


 彩羽の視線の先にあるのは『8月28日夢園港花火大会開催のお知らせ』という広告と『花火大会協力のお願い』という書類だ。
 特に彼が真剣に見ていたのは後者の書類だった。

大神彩羽(おおかみいろは)

花火大会の前座のステージのトリ・・・ね。地元住民だし来るだろうとは思ったが・・・


 大神家のある夢園町では毎年8月28日に地元の港で花火大会がある。
 そしてこの花火大会では花火の打ち上げ前に前座として地元民がステージパフォーマンスを行うのか恒例だ。
 その前座のトリを『Snow Wolf』のライブで占めて欲しい。書類にはそうあった。
 今年も声が掛かるというのは想定していた事である。地元住民には当然世話になっているし、彩羽も参加出来るならそうしたいと思っていた。
 しかし今年は一つだけ想定外の事があった。

大神彩羽(おおかみいろは)

Pちゃんも銀河も凄く嬉しそうに28日の約束の話をしていたんだよな・・・


 そう。想定外の出来事とは、28日にPと銀河が前以って約束をしていた事である。

大神彩羽(おおかみいろは)

まさかトリだとは銀河も思っていなかっただろうな・・・そうであれば花火大会に参加した所で時間は取れたし、ダンスの練習時間も短縮出来た。それなら確実に彼女と過ごす事は出来たから・・・・・・。
あの子にとっては彼女は初恋の相手。その相手と恋人同士として誕生日を過ごせる事を何よりも楽しみにしていただろうに、ついてない


 思わず嘆息する。

大神彩羽(おおかみいろは)

花火大会に参加した場合でも見に来て貰えば何も問題は無いんだろうけど、銀河の性格的に考えもしていないだろう。それに言った所で変に真面目で妙に頑固で思いやりだけは人一倍の銀河の事だし、イベントを優先したりPちゃんを気遣ったりしてそうしたい・・・とは絶対に言わない。
けど折角の誕生日。イベントを優先して彼女と過ごせないのは銀河の為にも祝いたがっていたPちゃんの為にも良くない

大神彩羽(おおかみいろは)

さて・・・どうしたものかな


 そう呟きながらも彩羽の表情に迷いは無い。

大神彩羽(おおかみいろは)

まぁ・・・考えるまでも無い。
俺は俺のやり方で子供の幸せを願い、誕生日を祝ってやる。それが親の務め

 そうして彼は悪戯っ子のような表情を浮かべ、とある番号に電話を掛けた。

 こうして彩羽の策略の許、Pと大神銀河の忘れられない誕生日が幕を開ける事となる。

『Fratello』【大神銀河誕生日番外編1/1】花火大会の誓い前夜

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