長いようで短い4月を終えて休暇がやってきた。毎年楽しみにしている休暇だが、今年の休暇は憂鬱だ。自分の不確定未来に関わる出来事があるからだ。

野川 詩音

楽しみね、桐子。お見合いだって

詩音はいいよね、見てるだけだもん

 気になる相手に思いを伝え、見事に両想いになった詩音の機嫌がいいのに対して私の心は悪くなっていく。気が楽でしょうね、見てるだけの人は。

野川 詩音

あらあら、すねちゃって。かわいい

激辛のお菓子で私の機嫌は直りませんから

 つんと私は突っぱねる。本当は喉から手が出るほど欲しいけれど、ニヤニヤしている詩音に餌付けされるような気分がして今回は拒絶する。

 ゴールデンウイークなど長い休みの際は別荘がある軽井沢でゆっくりするのが私の家のきまりだ。普段会えない分、顔を合わせて過ごしたいという家族の願いと私が詩音と共に生活をする条件の代償というもの。

野川 詩音

桐子、本当に機嫌直してよ。不機嫌でも可愛いわよ

むう。詩音の幸せ者め!

 詩音はすごく機嫌がいい。片思いをしていた少年課の俊樹さんとついに恋人同士になったのだ。せっかくの長い休みだからゆっくりとデートしていけばいいのにと思ったけれど、俊樹さんは忙しくて時間が合わなかったようだ。

野川 詩音

私がいないと桐子、逃げそうだからっておばさまから頼まれたのよ。あと、いつものお礼と言うこともあって招待されたの

逃げませんよ。逃げたいけれど

 詩音に可愛がられながら桐子はふんっと別荘の外を眺める。到着してすぐお見合い相手に会う予定が入っている。実はお見合い相手は隣の別荘の人であり、度々交流していたみたいだが桐子自身は覚えてない。

野川 詩音

お隣さんだけど、あまり記憶にないのね

うーん、あの頃はずっと別荘にいられたらいいなあって思っていたからね。学校に行きたくないときだったからそれでいっぱいだったもん

 一番印象に残っている思い出は森の中で美しい少女に出会ったことだ。その少女と出会ったのはほんの昔で、数えて3回くらい。また会いたいなと思っても会うことはなかった。

野川 詩音

へえ、そんな思い出があったんだ

 詩音は桐子の話を聞きながら、以前潤先輩から聞いた女装という罰ゲームのことかなと思い出す。この後潤先輩は桐子に告白するのだろうと思うとわくわくした。

詩音、にやけすぎ。ふん

 表情を引き締めろと言われても無理だと詩音は思う。今日の桐子はかわいい。エメラルドグリーンを貴重としてパーティードレスを着ている。詩音も桐子の家から借りて青色のドレスを着た。

野川 詩音

もうそろそろかしらね。ちょっと遠くから見守るからね

 詩音は桐子に耳打ちして離れる。桐子は薄情者と詩音をジト目で睨んだが来客を知らせるチャイムで気持ちを切り替える。

 執事が扉を開けて約束の人が入ってくる。桐子はじっとその場から動かずに静かに待つ。これから会うのはどんな人なのかとごくりと唾を飲み込む。

薄墨潤です。本日はお招きいただきありがとうございます

 その相手は知っているも何も、いつもお世話になっている人だ。桐子は言葉が出なくて少し焦った。

小邑桐子です。本日ははるばるありがとうございます

 いったん深呼吸してやっと口上を述べることができた。桐子は潤としばらく見つめあって何も言えずにいた。

きーちゃん、驚いたよね。ごめんね、黙ってて

い、いえいえ。そんなことは……ないです

 桐子はドキドキしながら潤と話をする。今日はいつもどおりにはいかない。まさか潤先輩がお見合いの相手だとは考えもしなかった。結婚するなら潤先輩みたいな人だったらいいなあとひそかに思っていたが、まさかこんなことになるとは思わなった。

近くの森で散歩しながら話をしようか。ずっと謝りたいことが他にもあるから

え、はい。行きましょう

 謝ることってなんだろうかと思いながら桐子は潤の差し出された手を握って扉の外に出た。

突然ですが、お見合いします

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