7月。『fratelloプロダクション』の社員は事務所アイドルが総出で出演する夏の大イベント『fratelloシーサイドフェスティバル』に向けて忙しい日々を過ごしていた。
 静かな事務所に響いているのは私の電話の声だけだ。

・・・はい、その件につきましては後日マネージャーから連絡が行く予定です。
はい、申し訳ありません。早急に対応させて頂きます。
失礼致します

 受話器を置いて一息吐く。
周りを見渡せば衣装作りに勤しむ恋人の小野寺蓮と、その弟で同じ『風光明媚(ふうこうめいび)』ユニットで男の娘姿で活躍する小野寺蘭君の姿があった。
 しかし2人ともが集中しているようで、一言も発さない。

今回は蓮の衣装案提出まで時間がかかっていたから・・・ギリギリなんだよね

 『fratelloシーサイドフェスティバル』は7月23日で蓮の誕生日と同日。
 その為蓮のバースデーライブも兼ねており、『風光明媚』の衣装の他に蓮のソロ用の衣装も別に用意する必要があった。
 『風光明媚』の衣装は蓮が衣装案を描き、蘭君が主に裁縫を担って完成する。他のグループの何倍も時間が掛かるのだ。
 それをわかっている事務所の社員達は蓮のソロ用の衣装については市販やプロによるオーダーメイドで頼むという提案もしていた。しかしそれには蓮が『大変になるからと言う理由で妥協したくない』と納得しなかったのだ。
 結果的に衣装案完成までの時間を通常の倍要し、作業の進みが遅くなっていた。

そういう所も良い所だし私も手伝いたいんだけど・・・全員参加型のイベントとなると全然仕事が終わらないんだよね・・・・・・

 すっかり冷め切った珈琲を飲んで小休憩を取りつつそう思う。

この後は書類の作成と確認、広告デザインも確認したら届いた衣装も見てこないと・・・この分だと今日も残業かな・・・・・・

 思わず出そうになる溜息を堪え再びパソコン画面に向かおうとした時、事務所のドアが開いた。

大神彩羽(おおかみいろは)

今戻ったわよ。ただいま

 入ってきたのはフェスに合わせて泊まる旅館側との打ち合わせで出張をしていた女装社長、大神彩羽さんだ。
 一端作業の手を止め、それぞれ挨拶を返す。

お帰りなさい、お疲れ様です

小野寺蓮(おのでられん)

お疲れっす

小野寺蘭(おのでららん)

お疲れ様です

 そんな私達の様子を見ながら彩羽さんの表情が曇っていく。

大神彩羽(おおかみいろは)

出掛ける前も同じような光景を目にしていた気がするのだけど・・・3人とも大丈夫?

時々休憩も取っていますし平気です

小野寺蓮(おのでられん)

衣装を妥協したくないって言ったのは俺だ。
これ位大した事じゃねぇよ

小野寺蘭(おのでららん)

作業自体は普段やっている事と何にも変わりませんから・・・大丈夫です

 3者3様に返す。
 だけど彩羽さんの次の質問には全員が答えられなかった。

大神彩羽(おおかみいろは)

じゃあ訊くけど・・・30分~1時間程度の休憩を取ったのは何時かしら?

・・・・・・・・・・

小野寺蓮(おのでられん)

・・・・・・・・・・

小野寺蘭(おのでららん)

・・・・・・・・・・

 何も言えない私達に彩羽さんは溜息混じりに言う。

大神彩羽(おおかみいろは)

大変な時期なのはわかっているけれど・・・身体を壊したら元も子も無いわ。適度な休憩は必須よ。
それに休憩しないと作業の能率も落ちるでしょう?

・・・・・・・・・・

小野寺蓮(おのでられん)

・・・・・・・・・・

小野寺蘭(おのでららん)

・・・・・・・・・・

 的確な言葉に再び私達は沈黙してしまう。

大神彩羽(おおかみいろは)

・・・もうしょうがない子達ね。
まぁその為に今日、打ち合わせがてらある交渉をして来たのだけど

交渉・・・ですか?

 不思議に思って尋ねれば彼は頷いた。

大神彩羽(おおかみいろは)

フェス前日である22日の夜に泊まる予定だったのを21日の夜に早めて貰ったわ。そして22日の昼間はオフにする

小野寺蓮(おのでられん)

・・・何でそんな事を・・・・・・

 渋面で言う蓮に彩羽さんが厳しい表情で応じる。

大神彩羽(おおかみいろは)

そうでもしないと休憩取らないでしょう貴方達。
だからこっちで調整する事にしただけよ

3人

・・・・・・うっ

 そう言われてしまえば誰も何も返せない。
 そんな私達を見ながら彩羽さんが指揮を執り始める。

大神彩羽(おおかみいろは)

そういう訳だから作業の速度を速めてもらうわ。
アタシも手伝うし空いている社員にもお願いして間に合わせるわよ。
・・・良いわね?

3人

はい・・・・・・

 彩羽さんの勢いに押されるように私達は頷いた。

 数分の作業の後、このままやると作業能率が落ちると言う事で休憩を貰った私と蓮は2階にあるカフェスペースで揃って休憩を取る事にした。
 彼と向かい合って座りながら話を振る。

相変わらず彩羽さんは凄いね・・・・・・

小野寺蓮(おのでられん)

まぁあれでも敏腕社長だからな。
そういうもんだろ

 溜息交じりに蓮が応じる。

小野寺蓮(おのでられん)

ってか折角の休憩なんだ。仕事の話は辞めねぇか

あ、うん。
そうだね・・・・・・

 頷いて返しながらも話題になりそうな事が浮かばない。
 そんな私に気付いたのか、今度は蓮が話を振って来る。

小野寺蓮(おのでられん)

おいアンタ、22日は空けとくつもりだろうな

 唐突な問いに思わず声を漏らす。

小野寺蓮(おのでられん)

折角のオフだ。アンタが付き合うのは当然だろ

 続いた言葉と照れたような表情で彼の言いたい事に気が付く。

素直じゃないけど・・・一緒に過ごしたいと思ってくれてるんだ

うん・・・そうだね

 言いながら笑みが零れる。

小野寺蓮(おのでられん)

・・・何だよ

ふふっ別に?
相変わらず素直じゃないなって

小野寺蓮(おのでられん)

俺を笑うなんて良い度胸だな。
まぁ良いだろう。アンタには元々拒否権なんてねぇんだからな

 相変わらずの彼に更に笑みを深くしながら問い掛ける。

ふふっ・・・わかってるよ。
どこ行こうか?

小野寺蓮(おのでられん)

・・・んなの聞くまでもねぇだろ。近くに外せねぇ場所があるじゃねぇか

 そう言いながら蓮も笑みを浮かべた。

うん、そうだね。
当日海に行けるように頑張って・・・仕事を終わらせなきゃね

小野寺蓮(おのでられん)

誰に向かって口を利いている。
そんなの当然だろ?すぐに片付けてやるよ


 自信に満ちたその笑みが頼もしいと感じる。
 それに笑顔を返しながらふと思う。

23日はイベントで忙しくなるし、誕生日を祝うならその日かな。蓮の誕生日プレゼント・・・どうしよう

 しかし幾ら考えてみても良い案は浮かばなかった。

『Fratello』【小野寺蓮誕生日番外編1/4】熱い夏1

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