――アズール城からユベイル城への林道。

ギュダ

この林道はもうすぐ
抜けられるようです。
そしたらユベイル城は
目と鼻の先です。

レジーナ

ふむ、ワクワクしてきたな。

ギュダ

姫の仰る通り、
この無謀な行軍に志願してきた
兵達もそのようです。

レジーナ

僅か30騎で城を攻めるのだ。
どのような者であっても、
心踊らずにはおられまい。

ギュダ

私は気苦労しか
湧いてきません。

レジーナ

おお、
その気苦労が晴れるように
景色も広がってきたぞ。

ギュダ

微塵も気苦労は晴れませんが
林道は抜けれたようです。

レジーナ

よっし。
ならば突っ込むか。

ギュダ

逸る気持ちも分かりますが、
時間的に少し早いようです。
ここで少し馬を休めましょう。

レジーナ

そうか。

レジーナは珍しく

ギュダの進言を聞き入れ、

ユベイル城を目前に

馬を休ませることにした。







そこで今回の作戦が

兵にも公開された。

ギュダ

この本隊で真正面から
城を攻める。
しかも降伏勧告をする。

レジーナ

無論、そのような勧告は
相手にもされぬであろう。

ギュダ

だが本物のレジーナ姫と
確認すれば、
黙って見逃すわけはない。

レジーナ

多勢に無勢、
そこはやはり逃げる。

ギュダ

少ない兵と侮って
深追いしてくる敵を
そのまま引き込み、
後方からくるガンツ隊で迎撃。
更に既に内通している
東のサロディア城と
西のタキア城から攻めて
一気に包囲。
降伏勧告を再度行うものとする。

レジーナ

皆の者、
よろしく頼むぞ。

作戦内容が伝えられ

充分な休息を取り、

ついにその時が来た。







ギュダが静かに立ち上がり声を放つ。

ギュダ

そろそろ刻限だ。
出立するぞ。

レジーナ率いる30騎は

ユベイル城城門前まで一気に進む。

レジーナ

私はイシュトベルトの王女、
レジエレナ=ルター・
イシュトベルトだ。
恐れを知るならば、
我が勧告を受け入れよ!

降伏勧告文を巻き付けた矢を、

城内の壁に打ち込むレジーナ。



城内の兵は、

少数の隊によるこの勧告に

動揺した後、上官に伝達する。



レジーナとギュダ、

そして志願兵達は、

整然と馬を御し

敵の対応を待っている。

レジーナ

少し遅いのではないか?

ギュダ

いきなり現れた少数の敵に
降伏勧告を受けるなど、
絶対に経験ない事でしょう。
それにまだ姫の所在が
伝わってなかった
可能性の方が高いので、
戸惑っているのでしょう。

レジーナ

ただ待つ時間とは
つまらぬものだ。

ギュダ

おそらく我々を捕捉する為、
軍を差し向けているはず。
この後、嫌でも
必死に逃走せねばなりません。
しばしの時間です。
ゆるりと待ちましょう。

レジーナ

やはりつまらん。
この城はもうよい。

ギュダ

は?

レジーナ

更に北にある
城を攻めよう。

ギュダ

な、何を仰るのですか!
姫っ!
お戻りください!

レジーナは単騎で駆け出す。



城内の敵よりも面食らったギュダは

即座に追い掛けるが、

驚きと焦りの色を隠せない。







レジーナ達は

南から北上してきた。



作戦通りガンツ隊もアズール城から

出兵しているが、

それとは逆の北側に

レジーナは駆け抜ける。



目標だったはずの

ユベイル城を背にして、

更に北にある敵の城を

目指すと言うのだ。



軍略上絶対と言っていいほどの下策。



しかもたった30騎での行動だ。







もちろん兵達もレジーナを追い掛ける。

無謀な作戦変更と感じながら、

更なる死地に飛び込むと理解しながら、

レジーナに命を預けるしかなかった。

レジーナ

ヒィヤッホー♪

ユベイル城を背後に駆けるレジーナは、

敵の占領下である土地で

実に愉快な声を青空に放った。

pagetop