タキ

……

ミヤ

……あら?

タキ

あっ

タキ

ミヤちゃん……

ミヤ

おはよう、タキちゃん。

タキ

おはよう。

ミヤ

今朝はずいぶん早いのね。
なにか特別な日だったかしら?

タキ

ううん、特に。
ただ……

タキ

あの日から、もう三年も経つんだなあ、って。

ミヤ

……!

ミヤ

……そうね。今日で丸三年……

タキ

そう思ったら、なんか寝つけなくて。

タキ

ここに来てから……私達が出会ってから。
あの『学校』というプログラムを解いた日から。

ミヤ

忘れるわけないわよ……。
忘れられないわ。二人の大切な思い出だもの。

タキ

うん。それでね……
話があるの。

タキ

……

ミヤ

……

タキ

まず状況を整理しよっか。
ここはマナ……マナティリア・ノークツウォルヴの屋敷。
その内私達が入れるのは図書室と庭園、運動場。あとはこの廊下と、各自分の部屋のみ。

タキ

マナの実験室みたいなところには入れない。

ミヤ

……ええ。
毎朝庭園の野菜を世話して、昼は運動場で遊んで、夜は図書室で〝読書〟をする。
それが私達の日課。

タキ

……入れない、だけじゃないよね。
私達はこの三年、屋敷から一歩も出してもらえたことがない。

タキ

屋敷の周りは高い生垣で、窓から外は見えない。玄関の方にも行かせてもらえない。
私達に外の世界のことはわからない……

ミヤ

……何が言いたいの、タキちゃん。

タキ

……ここって、『学校』と似てる。

ミヤ

……!

タキ

様式が違うだけ、自由度が増えただけ。
私達はまたあれと同じ閉鎖空間にいるんじゃないか……って。

ミヤ

何を……考えすぎよ。

タキ

本当にそうかな。

タキ

〝今〟が〝現実〟である保証ってある?
〝見ている世界〟が〝正しい〟と判断するに至るだけの確たるものは、私達の感覚では捉えられない。

タキ

……そんなの、『学校』のときに嫌というほど経験したじゃない。

ミヤ

……

ミヤ

……タキちゃん。
落ち着いて聞いてほしいの……

ミヤ

それを追究して、追及して、言及して、糾弾したとして、何かが変わるの?

タキ

変わるよ。

タキ

『次』の世界に至る道を、ここが正しいか正しくないかを、確かめて進む。

ミヤ

……『次』が、今よりもっと良い世界だなんて保証もどこにもないのよ……。

タキ

そうだね。

タキ

でも、私にはそれしか能がないから。

ミヤ

……。
好きにしたらいいわ。ただし、マナに見つからないようにね。

タキ

うん!
ありがとう、ミヤちゃん!
じゃあまた夜に!

タキ

それじゃ、早速だけどもっと細かく整理しよう。
まとめておくとあとで楽だって『学校』の時にも……

タキ

あ、でもその前に庭園の水やりしなきゃだ。

タキ

来たばかりの時は見たことない野菜ばっかりで……家庭菜園の本片手に土まみれになったなあ。

タキ

懐かしい……
この世界も、結構好きなんだけど。

タキ

……でも。
私は見極めたい。
自分の〝違和感〟を。
この世界の〝正しさ〟を……。

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