路地裏に響く痛々しい音。
 足元には血が水たまりになりつつある。

足立 環奈

本当に違うのか?

ほ、本当だ。信じてくれ

 殴られたのは男子高校生。
 日御埼高校の生徒ではない、制服から他校生であることがわかる。
 環奈は容赦なく蹴り続ける。

足立 環奈

教えてくれてありがとう。
誰かに言ったらぶっ殺す。

 環奈は歩き去る。
 残された血だまりと、他校生の男子。
 それを見つめていた男がポツリつぶやく。

木原 悠月

……えげつない

 木原は環奈の跡を追った。

足立 環奈

雨か……

 足についた血を洗い流すのにちょうどいい。
 少し汗もかいていた。ちょうどシャワーを浴びたかった。

木原 悠月

あ、君……、濡れるよ

 突然現れた男に傘を差しだされる。
 環奈は驚いて顔を上げると、知り合いがいた。

足立 環奈

あ……ありがとうございます。

木原 悠月

こんなところで雨に濡れたら、お父さん心配すると思うよ。足立さん

足立 環奈

……

 傘を掴みかけた手が止まる。
 自分の正体をなぜ知っているのだろうか。
 誰にも話してないはずの家の事情を、この人は知っていた。
 木原先輩は知っていた。

足立 環奈

そんな、迷惑なんかじゃ

木原 悠月

いや、僕は放置するほどの心は持ってないよ。
君が風邪をひいたら、すごい心配だから

 木原は渋る足立を無理やり連れて、自宅のマンションに連れた。

木原 悠月

ここは、自宅というか、居候させてもらっているところなんだよね

足立 環奈

はあ……そうなんですか

木原 悠月

元々、俺は孤独というか、一人でね。
ここの人たち、みんな俺の家族なんだ。

 ここは孤児院を卒業した後の人のための、シェアハウスである。
 社会に居場所のない人達が集っている。

あ、悠月。お客さん?

木原 悠月

うん、人助けでね。あとから食事、適当にいいものよろしくね

了解

 木原はすれ違ったシェアハウスの家族に食事の用意を頼んだ。家族は木原の後ろを一瞥し、うなずく。

木原 悠月

着替えなどはあとで持ってくるから、ハイ、これ

 とタオルなどの風呂セットを渡される。環奈は礼を言って女子風呂に入った。

足立 環奈

はあ……

 返り血を流し、そしてゆっくりと湯船につかる。
 なぜ、こんなことになったのだろうと自問自答を心の中で繰り返していた。

足立 環奈

いつから、私の正体は露見されていたのだろうか

 元の色に戻した自分の髪を見る。染めたのはおしゃれでもしてみたかったというのもあるし、もともとの高校を卒業するつもりはなかった。
 退学して、自分はどっかにいったというカモフラージュをするためだった。

足立 環奈

平和ボケが多すぎて息ができなくなるわ

 この世界には小さな町での高校同士の小競り合いよりも大きなことがある。
 彼らは過去のことにとらわれすぎて、この世界がどんなに混沌としているのかを知らない。

足立 環奈

なんでついてきちゃったのかな。あの人に

 木原がなんとなく苦手だなと思っていた。何かを悟っているような目、自分と似ていて苦手だ。同族嫌悪っていうもの。
 ちーちゃんと仲良くなってからは防衛隊にも関わるようになったが、何かしら木原と目が合うのだ。

足立 環奈

ただの被害妄想だったらいいけれど

 その目は俺は君を知っているというような目をしていた。気にしすぎだろうと思うけれど、気にしてしまう。
 木原は優しい。みんなにも優しいし、危険でよくわからない私にも優しい。

足立 環奈

そろそろ出るか

 考えがまとまって浴場を出る。
 脱衣所で用意された衣服を着て髪を乾かす。

木原 悠月

あ、どうだったかな。ゆっくり休めたかな

足立 環奈

あ、はい。ありがとうございます。

 様子を見に来た木原と一緒に食堂に行って、先ほどの男子の手料理をいただく。
 とてもおいしくておかずのお替りをした。

足立 環奈

お世話になりました。私はこれで

 と帰ろうとしたのだが、夜遅いので一人で歩くのは危険だとかそういう理由で止められる。

木原 悠月

話をしたいんだ。足立さん

足立 環奈

話?何を話すのです、私たちはそんな話をする仲ではありませんが。

 と抵抗する。同じ高校の先輩と後輩という関係だけの私たちにどんな話があるというのだろうか。

木原 悠月

君にお礼をしたいんだ。今までうちの高校を守ってくれたお礼

足立 環奈

……わかりました。話をしましょう

 環奈はここに泊まることにした。
 二人は談話室に入り、向き合って座った。

素直になれない私にとっての不都合な展開

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