リスの人形が私を見上げて首を傾げる。
ルーシー、かけっこ速いね
いつも、エルヴィンのこと追いかけていたからね
運動は得意よ
リスの人形が私を見上げて首を傾げる。
エルヴィン?
幼馴染よ
なるほど、恋人か
そっか、許婚か
モフモフとした二体の人形がクスクスと笑うと、私の顔は真っ赤に染まった。
な、何でそうなるのよ
エルヴィンはただの幼馴染。
恋人とか、ましてや許婚ではない。大事な大事な幼馴染なのだ。
否定の言葉を考えれば、考えるほどに顏が熱くなる。
側にいないから寂しいんだよね?
そんなこと
寂しくないの?
……寂しいわよ
恋人や許婚じゃなくても、会えないのは寂しい。
当たり前のように、彼は側にいたから。
お仕事忙しいから、ずっと会えていないし
………
とても悲しくなる。
会えない日が、時間が増える度に寂しくて仕方がなかった。
今日が大事な日なのに、全然覚えていないし
何だか私だけ舞い上がっていてバカみたい
それは違うよ
リスの人形が私の目の前にピョンっと現れる。
忙しかったのは君の為
………あなた
俺はいつも見ていたからね
君の部屋で、君たちが楽しく遊んでいる姿を
………
過去の風景が浮かび上がる。
私たちのお茶会を見守る、小さなリスの人形がいた。
あいつは君の為に無茶が出来る男の子だろ?
あなたは私の人形なの?
他の人形に混ざって、他人のフリをしていたけど。限界だな
あ……思い出した。あなた、クルミね
はい、正解
クルミは二―ッと笑う。
すると、モフモフした二体が口を尖らせた。
ルーシーの人形だったんだ、羨ましい
嫉妬しちゃうぞ
ってことは、あなたたちは違うのね
どうだろ
どうかな
あら、意地悪なのね
俺が断言する、そいつらは違うよ
クルミが呆れたようにそう言った。
答え教えちゃうなんて、意地悪だな
イジワル
それじゃ、ルーシーと遊べない
遊べない
フフフ、私の人形じゃなくても友達だから遊びましょ
私が手を差し出すと、二体のモフモフは驚いたように見上げてくる。
友達?
そうよ
やった!!
ピョンピョンと飛び跳ねる二体の物体。
可愛いけれど、やっぱり私の人形ではなかった。
ルーシーは、お人好しだな
俺のことも、そうやってゴミ捨て場から拾って来たんだっけ
そうそう、ママに内緒で持ってきちゃって……あの時は怒られたわ
奥様は怒ったけど、俺の事を綺麗にしてくれた
新しい人形はそんなに買えなかったから……でも、新しい友達が欲しかったの
奥様はモノを大事にするルーシーを誇りに思っていたね
へへへ
ルーシーは大事にしすぎだった。だから人形が壊れるととても泣いたね
………うん
その度に奥様は綺麗に直した
ママはお裁縫が上手だったから、みんな綺麗に直せたのよね
俺のことも、ほら、綺麗に縫い直してくれた
お、手術跡がある
縫い目が綺麗だから気づかなかった
クルミ、あなたのこと抱きしめても良いかな
もちろん
えへへ
炎は熱くなかった
熱かった。でも、それで君が成長できるなら我慢できた
そっか
離れるのが早かったけど
うん
取れかけていた目を奥様に直してもらった、次の日に火葬されるとは思わなかった
うん、ごめんね
謝らないで
罪悪感を抱けば、君はここから出られない
そうなの?
だから背筋を伸ばして、俺たちを乗り越えて君は成長したんだ
そうだね、外に帰らないと……エルヴィンが心配する
エルヴィン……か
?
ルーシーはエルヴィンのことが大事なんだね
もちろん
こ………恋人じゃないけど、大事な幼馴染だもの