ルーシー、かけっこ速いね

ルーシー

いつも、エルヴィンのこと追いかけていたからね

ルーシー

運動は得意よ

リスの人形が私を見上げて首を傾げる。

エルヴィン?

ルーシー

幼馴染よ

なるほど、恋人か

そっか、許婚か


モフモフとした二体の人形がクスクスと笑うと、私の顔は真っ赤に染まった。

ルーシー

な、何でそうなるのよ

エルヴィンはただの幼馴染。


恋人とか、ましてや許婚ではない。大事な大事な幼馴染なのだ。


否定の言葉を考えれば、考えるほどに顏が熱くなる。

側にいないから寂しいんだよね?

ルーシー

そんなこと

寂しくないの?

ルーシー

……寂しいわよ


恋人や許婚じゃなくても、会えないのは寂しい。
当たり前のように、彼は側にいたから。

ルーシー

お仕事忙しいから、ずっと会えていないし

………


とても悲しくなる。
会えない日が、時間が増える度に寂しくて仕方がなかった。

ルーシー

今日が大事な日なのに、全然覚えていないし

ルーシー

何だか私だけ舞い上がっていてバカみたい

それは違うよ


リスの人形が私の目の前にピョンっと現れる。

忙しかったのは君の為

ルーシー

………あなた

俺はいつも見ていたからね

君の部屋で、君たちが楽しく遊んでいる姿を

ルーシー

………


過去の風景が浮かび上がる。
私たちのお茶会を見守る、小さなリスの人形がいた。

あいつは君の為に無茶が出来る男の子だろ?

ルーシー

あなたは私の人形なの?

他の人形に混ざって、他人のフリをしていたけど。限界だな

ルーシー

あ……思い出した。あなた、クルミね

クルミ

はい、正解

クルミは二―ッと笑う。

すると、モフモフした二体が口を尖らせた。

ルーシーの人形だったんだ、羨ましい

嫉妬しちゃうぞ

ルーシー

ってことは、あなたたちは違うのね

どうだろ

どうかな

ルーシー

あら、意地悪なのね

俺が断言する、そいつらは違うよ

クルミが呆れたようにそう言った。

答え教えちゃうなんて、意地悪だな

イジワル

それじゃ、ルーシーと遊べない

遊べない

ルーシー

フフフ、私の人形じゃなくても友達だから遊びましょ

私が手を差し出すと、二体のモフモフは驚いたように見上げてくる。

友達?

ルーシー

そうよ

やった!!

ピョンピョンと飛び跳ねる二体の物体。
可愛いけれど、やっぱり私の人形ではなかった。

クルミ

ルーシーは、お人好しだな

クルミ

俺のことも、そうやってゴミ捨て場から拾って来たんだっけ

ルーシー

そうそう、ママに内緒で持ってきちゃって……あの時は怒られたわ

クルミ

奥様は怒ったけど、俺の事を綺麗にしてくれた

ルーシー

新しい人形はそんなに買えなかったから……でも、新しい友達が欲しかったの

クルミ

奥様はモノを大事にするルーシーを誇りに思っていたね

ルーシー

へへへ

クルミ

ルーシーは大事にしすぎだった。だから人形が壊れるととても泣いたね

ルーシー

………うん

クルミ

その度に奥様は綺麗に直した

ルーシー

ママはお裁縫が上手だったから、みんな綺麗に直せたのよね

クルミ

俺のことも、ほら、綺麗に縫い直してくれた

お、手術跡がある

縫い目が綺麗だから気づかなかった

ルーシー

クルミ、あなたのこと抱きしめても良いかな

クルミ

もちろん

ルーシー

えへへ

ルーシー

炎は熱くなかった

クルミ

熱かった。でも、それで君が成長できるなら我慢できた

ルーシー

そっか

クルミ

離れるのが早かったけど

ルーシー

うん

クルミ

取れかけていた目を奥様に直してもらった、次の日に火葬されるとは思わなかった

ルーシー

うん、ごめんね

クルミ

謝らないで

クルミ

罪悪感を抱けば、君はここから出られない

ルーシー

そうなの?

クルミ

だから背筋を伸ばして、俺たちを乗り越えて君は成長したんだ

ルーシー

そうだね、外に帰らないと……エルヴィンが心配する

クルミ

エルヴィン……か

ルーシー

クルミ

ルーシーはエルヴィンのことが大事なんだね

ルーシー

もちろん

ルーシー

こ………恋人じゃないけど、大事な幼馴染だもの

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