ルーシー

ルーシー

あなたは!!

縦ロールの髪型がステキなお人形が私の前に現れた時、胸の奥が締め付けられる思いがした。

脳裏に浮かぶのは幼い私の姿。




いつも抱きしめていた大事な人形。
確か名前は……

ルーシー

エマ? エマなの?!

あら? 私のことを覚えているの?

ルーシー

私の人形

エマ

そうよ。貴女が生れたときに買って貰った人形

ルーシー

わぁ……懐かしい

私は思わずエマを抱きしめる。


あの頃は大きいと思っていた彼女の身体はとても小さかった。



私は、この子をギュッと抱きしめて、

エマ

一緒に寝たわね

ルーシー

うんうん

エマ

泣き虫だから、ヨダレと鼻水で汚されたわ

ルーシー

う……

エマ

奥様がその度に洗ってくれたわ

エマ

それなのに、一緒にお食事とか言って今度はソースまみれ

ルーシー

ははは……そんなこともあったね。ごめんね

エマ

それは、あなたから愛されている証拠だったから嫌ではなかったわよ

そして、この子はあの日に火葬された。
他の人形たちと一緒に。
エマの姿が黒くなって小さくなって消えていく姿を思い出す。

ルーシー

火葬されるとき、熱くなかった?

エマ

熱かったけれど、貴女が大人になるのだと思ったら

エマ

とても嬉しく思ったわ

ルーシー

………

エマ

この子は私がいなくても、一人で眠れるのねって思うと


エマの小さな手が私の目元に触れる。
知らない間に涙が零れていたのだ。

エマ

泣き虫なのは昔と同じね

ルーシー

赤ちゃんの頃からずっと手放さなかったんだよね

エマ

旦那様と奥様が私を火葬したことは、必然よ

エマ

むしろ遅いぐらいだったわ

ルーシー

………


エマはニコッと笑う。
あの日の火葬はとても悲しかった。

エマ

ただ、少し衝動的だったわね

ルーシー

………家中の人形を放り込んだから

エマ

手当たりしだいにかき集めてね

エマ

一体の人形を火葬するために、全てを火葬するなんて

ルーシー

エマ

ルーシーは他の人形のことは覚えている?

ルーシー

覚えていないよ

ここには、エマ以外の私の人形がいるのかもしれない。

エマ

ルーシー、気を付けなさい

ルーシー

え?

エマ

人形たちの中には、火葬に納得していない者もいるの

ルーシー

………

エマ

そんな彼らはあなたを恨んでいるでしょう

エマ

きっと、あなたを帰さない

ルーシー

そんな……

エマ

あなたが好きだからこそ引き止める者もいるでしょう

ルーシー

………

エマ

ごめんなさい、私には判断できないわ


エマは申し訳なさそうに眉を下げる。

ルーシー

私は大丈夫だよ。エルヴィンが待っているんだし、帰れるように頑張る

エマ

エルヴィン?

ルーシー

幼馴染の男の子よ

エマ

あの男の子ね。覚えているわ。昔はしっかり者の男の子って感じだったけど、今も?

ルーシー

今もしっかり者だよ!
だけど、最近は何だかおかしいの

エマ

おかしい?

ルーシー

そうそう今日は大事な日なのに、そのことを忘れているみたいで……困った子だわ

エマ

大事な人なのね

ルーシー

そ、そういうわけじゃ


エルヴィンは大事な人だけど、誰かにそう言われると何だか恥ずかしくなる。
顔を赤くする私をエマは微笑ましそうに見ていた。

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