あの日の空は茜色。
あの日の空は茜色。
私の目の前で
炎が真っ赤に燃え上がる。
私は
大事な友達が
灰になるのを
泣きながら見ていた。
灰になった友達は、そのまま空に還っていく。
パパとママが言った。
これは、大事な儀式なのよ
ルーシーが友達と別れて、大きくなるために必要なんだ
この儀式をやらないと、ルーシーはずっと子供のままだから
友達との時間は思い出へと変貌。
灰になってしまった友達の顔も
感触も忘れていく。
友達の死を乗り越えて、
私は大人になる……
哀しい出来事は、連鎖する。
私が友達と別れて、
暫くしてパパとママが天国に旅立った。
幼馴染のエルヴィンの両親も一緒だった。
家族ぐるみで仲が良かった。
仲良く子供を置いて旅立ってしまった彼らを幼い私たちは恨んだものだ。
どうして、一緒に連れて行ってくれなかったのかと。
どんなに恨んでも彼らは生き返らない。
どんなに恨んでも私たちは彼らと一緒には死ねない。
彼らは、私の友達と同じように炎で焼かれた。
友達と違い、土に埋められる。
友達と違い、お墓が建てられた。
私たちは彼らの死を受け入れる。
同じことだから。
友達の死を乗り越えたように、パパとママの死も乗り越えなければならない。
そうしないと、私たちは大人になれない。
私とエルヴィンが教会の孤児院に引き取られてから数年が過ぎた。
さて、お仕事しなきゃ
エルヴィン、お弁当持って来たわ
お仕事、お疲れ様
ありがとう、ルーシー
今日は私も手伝ったのよ。だから、きっと美味しいよ
そうだな、期待している。ちなみに胃薬は持ってきた?
むー
ほとんどシスターアンナが作ったから安心して
ハハハ……シスターアンナだったら安心だ。これから仕事だから、これは夜食にでもするよ
このところ、忙しそうだよね。空腹で倒れないようにね
ありがとう
それと、これ……今日だよね。おめでとう
これ……
運び屋の仕事は汗をかくでしょ、だから手拭よ
ああ、ありがとう。毎日使うよ
どういたしまして
でもね、エルヴィン毎日じゃなくて洗って使いなさいよ
はいはい……行ってくるよ
今日の配達量も多いから、急がないと
え?
どうしたの?
何か忘れてない?
忘れ物なんてないよ
本当に?
本当だよ。心配性だなぁ
……そう……行ってらっしゃい
行ってきます
笑顔で走り出すエルヴィンの背中を睨みつける。
大事なことを忘れている。
今日が何の日か忘れてるのね、あのバカ
仕事を理由に、一週間も帰ってこない甲斐性無しは何を考えているのだろう。
いや、帰ってはいるのだ。
私の仕事中に。
なんで、私を避けているのだろうか。
おーい、エルヴィン!
エルヴィンだったら、さっき配達に出て行ったわ
ルーシー、来ていたんだな
ええ。エルヴィン働きすぎじゃないの?無理してない?
無理は一週間前の怪我の時ぐらいだよ
え? 怪我なんかしていたの?
あいつ、言っていなかったのか? 一日寝込んでいたんだよ
知らなかったわ
ルーシーには心配かけたくなかったんだろ
余計に心配するわ
それで、エルヴィンに用があったのよね? 引き止めてしまったけど大丈夫?
あー、エルヴィンの奴……忘れて行ったからさ。配達物を。
あらまぁ
最近、多いんだよな。配達忘れ……今まではそんなことなかったのに
それは困ったわね
私が届けようか?
うーん。お願いしようかな……………っと、その必要はないかな
?
ほら、ルーシー宛だから
私に?
(差出人が書いていないけど、誰からかしら?)
ありがとうございます
どういたしまして……それにしても、ルーシーもエルヴィンも頑張っているよな
そうかな?
ルーシーだって、食堂の看板娘じゃないか
私もエルヴィンも孤児院では年長者になるからね。孤児院の運営費を稼いで今までの恩返しをしなきゃ~って思うの
でも無理はするなよ。それと、最近のエルヴィン、何だかおかしいいからな。気を付けて見てやってくれ
わかったわ
エルヴィンったら、うっかりさんにも程があるわ。私宛だから良かったけど、他人様宛の手紙だったらどうするつもりだったのかしら
この手紙……何が書いてあるのかしら
見ても良いよね?
親愛なるルーシー様
御両親からの預かりものをお渡ししたいので、人形の火葬場までお越しください。
パパとママの知り合いかしら……
人形の火葬場?
あの教会のことかしら……行ってみましょう
久しぶりだなぁ
友達と別れた教会。
友達の顔を思い出すことは出来ないけれど、私はここで彼らと別れたのだ。
ここは人形の為の火葬場。
子供が大人になる為の儀式が行われる。
人形たちは灰となり、空に還る。
最近も使われたらしく、焦げた臭いが漂っている。
ここで、誰かの友達が空に還っていったのだ。
そう思うと手を合わせて静かに祈る。
………
……
ルーシー
はい?
ルーシー
ルーシー
ルーシー
誰が私を呼んでいるの?
ルーシー
ルーシー
!!
ひぃ
火葬場から黒い無数の手が伸びてきた。
そう思ったときには、意識は途切れていた。