ハール

やめてっ!

 目が覚めたのは奇妙な、赤黒いオブジェの並ぶ小屋。ハールはベッドで仰向けになった状態で拘束されていた。

ウンアンリッシュ

やめてと言われてやめるお人よしではないのでねぇ。

 男は、けたけたと狂ったように嗤い、大きな鉈を取り出す。あれで、どんな恐ろしいことがなされるのだろう。嫌だ。怖い。嫌だ!

ウンアンリッシュ

我に永遠の美貌を。知恵を。富を。力を!

 服が乱暴に脱がされる。抵抗しようにもできない。厚着してたのが幸いだが、そのぶん恐怖の時間も延ばされる。

ハール

お父様……狼さん……!

ハール

え、

ウンアンリッシュ

あっぶねぇなぁ。

 銃声。男の頬に赤い線ができる。入り口には、一人の女性が猟銃を構えて立っていた。

シェーン

あら、うららかな春の陽射しに誘われてお散歩をしていたら、こんなド畜生の元まで来てしまいましたわ。

 訂正、女装をした男性だ。

ウンアンリッシュ

ちっ。こいつがどうなってもいいのか!

ハール

……。

 鉈が首元に突きつけられる。女装した男は「ちっ」と舌打ちをし、動くに動けない状態だ。

ウンアンリッシュ

ははは! そのまま銃を捨て、両手を挙げろ!

シェーン

っ、卑怯な。

 カチャン、と銃を床に置き、両手を挙げる。停滞した状況。「そのまま去りな!」と男は言う。

シェーン

く、そ……

シェーン

ぐえっ!

 唐突に女装男が前へつんのめる。その背後には、こんな場所が似合わないような、高貴な格好をした男女が立っていた。

ヴァイネ

金を出せっ!

モルタニス

我ら、霜の盗賊団!

ウンアンリッシュ

……はい?

ヴォルツヴァイ

(とうっ!)

 するりと入ってきた狼が、状況を把握できていない男に体当たりをする。

モルタニス

ほーら、とっとと出しな!

 高貴な男が投げた槍が拘束具を切断。槍はブーメランのように彼の手元へ戻る。

ウンアンリッシュ

強盗の家に強盗とか、なんなんだよこいつら……。

ウンアンリッシュ

……ん?

ヴァイネ

ウンアンリッシュ

姫様ではないですか!

モルタニス

知り合い?

ヴァイネ

あー、お母様の所にいた大臣よ。

 新たに高貴な血を持つ者が増えた。これはなんと幸運なのだろう。後はあの男と狼さえ始末さえできればいいのだ。それに、こちらには必勝の一手もある。

ウンアンリッシュ

鏡よ鏡、こいつらをぶちのめす方ほ

 片腕を槍が貫いていった。血が流れる。肩が痛い。腕が無い? 持って行かれた。腕が。え、腕が? 無い。肩のあたりからごっそりと無くなっている。

ウンアンリッシュ

腕が! 俺の腕をどうした! 

モルタニス

大騒ぎしないでくれよ。狼に腕を食われてもそこまで騒がない。床の上にあるじゃないか。ああ、色々と散らかっていたから気付かなかったのかな? きれいに片付けないと、ダメだよ。

モルタニス

さ、続きを始めようじゃないか。

 殺気。純粋に、命の取り合いを常としているかのような、己を殺すという意思。

ウンアンリッシュ

止めてくれ! 命だけは!

モルタニス

蘇りか。いいよ。僕の世界の残骸に送ってあげる。毎日僕と遊べるよ。やったね。

モルタニス

さぁ、第一戦といこうじゃないか。

ウンアンリッシュ

……

モルタニス

あれっ、もう終わり? 早いなあ。

 それは、あまりにもあっさりとしていて、この世界には不相応な者であった。なんでもないように、思うことも無く、次の行動へ移る。

モルタニス

オルドくーん、これヴァルハラに送っていい?

……好きにするのじゃ。

ヴァイネ

……少し、外の空気を吸ってくるわ。

シェーン

……うん。

シェーン

待てよ。一歩間違えていたら僕もああなっていたんじゃない?

ハール

……あの時の。

ヴォルツヴァイ

わん(助けに来たぞ)

ハール

……

ハール

怖かった

ヴォルツヴァイ

……

ヴォルツヴァイ

しばらくは、こいつの傍にいてやるか。

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