目が覚めたのは奇妙な、赤黒いオブジェの並ぶ小屋。ハールはベッドで仰向けになった状態で拘束されていた。
やめてっ!
目が覚めたのは奇妙な、赤黒いオブジェの並ぶ小屋。ハールはベッドで仰向けになった状態で拘束されていた。
やめてと言われてやめるお人よしではないのでねぇ。
男は、けたけたと狂ったように嗤い、大きな鉈を取り出す。あれで、どんな恐ろしいことがなされるのだろう。嫌だ。怖い。嫌だ!
我に永遠の美貌を。知恵を。富を。力を!
服が乱暴に脱がされる。抵抗しようにもできない。厚着してたのが幸いだが、そのぶん恐怖の時間も延ばされる。
お父様……狼さん……!
え、
あっぶねぇなぁ。
銃声。男の頬に赤い線ができる。入り口には、一人の女性が猟銃を構えて立っていた。
あら、うららかな春の陽射しに誘われてお散歩をしていたら、こんなド畜生の元まで来てしまいましたわ。
訂正、女装をした男性だ。
ちっ。こいつがどうなってもいいのか!
……。
鉈が首元に突きつけられる。女装した男は「ちっ」と舌打ちをし、動くに動けない状態だ。
ははは! そのまま銃を捨て、両手を挙げろ!
っ、卑怯な。
カチャン、と銃を床に置き、両手を挙げる。停滞した状況。「そのまま去りな!」と男は言う。
く、そ……
ぐえっ!
唐突に女装男が前へつんのめる。その背後には、こんな場所が似合わないような、高貴な格好をした男女が立っていた。
金を出せっ!
我ら、霜の盗賊団!
……はい?
(とうっ!)
するりと入ってきた狼が、状況を把握できていない男に体当たりをする。
ほーら、とっとと出しな!
高貴な男が投げた槍が拘束具を切断。槍はブーメランのように彼の手元へ戻る。
強盗の家に強盗とか、なんなんだよこいつら……。
……ん?
あ
姫様ではないですか!
知り合い?
あー、お母様の所にいた大臣よ。
新たに高貴な血を持つ者が増えた。これはなんと幸運なのだろう。後はあの男と狼さえ始末さえできればいいのだ。それに、こちらには必勝の一手もある。
鏡よ鏡、こいつらをぶちのめす方ほ
片腕を槍が貫いていった。血が流れる。肩が痛い。腕が無い? 持って行かれた。腕が。え、腕が? 無い。肩のあたりからごっそりと無くなっている。
腕が! 俺の腕をどうした!
大騒ぎしないでくれよ。狼に腕を食われてもそこまで騒がない。床の上にあるじゃないか。ああ、色々と散らかっていたから気付かなかったのかな? きれいに片付けないと、ダメだよ。
さ、続きを始めようじゃないか。
殺気。純粋に、命の取り合いを常としているかのような、己を殺すという意思。
止めてくれ! 命だけは!
蘇りか。いいよ。僕の世界の残骸に送ってあげる。毎日僕と遊べるよ。やったね。
さぁ、第一戦といこうじゃないか。
……
あれっ、もう終わり? 早いなあ。
それは、あまりにもあっさりとしていて、この世界には不相応な者であった。なんでもないように、思うことも無く、次の行動へ移る。
オルドくーん、これヴァルハラに送っていい?
……好きにするのじゃ。
……少し、外の空気を吸ってくるわ。
……うん。
待てよ。一歩間違えていたら僕もああなっていたんじゃない?
……あの時の。
わん(助けに来たぞ)
……
怖かった
……
しばらくは、こいつの傍にいてやるか。