オルドヌング

……。

 全ての時が止まったかのような城。人も、鳥も、火でさえも静止した世界で、一人糸を紡ぐ者がいた。
 カラカラとなれた手つきで、しかし、表情は無く、糸を紡ぐ。

オルドヌング

……。

オルドヌング

……!

 ピタリ、と手が止まる。同時に、たった今目覚めたかのように表情が戻った。

オルドヌング

何をやっているんじゃ、きゃつらは!

オルドヌング

……っ!

 うっかり刺さってしまった紡ぎ針の痛さに悶えつつ、たった今届いた情報について考える。この世界の秩序を守る存在として、見過ごせない情報を。

オルドヌング

うー、そろそろあっちもやらねばならぬし……。

 早急に己が対応すべきだろうが、次の仕事が迫っている。それも長期拘束されるものだ。
 直接己が出向いて問題を解決するとなると、確実に間に合わない。かといって後回しにすると大事になってしまう。

オルドヌング

きゃつらの力も今は借りられぬようじゃし……ちっ。

 自分達(正確には片割れ)で問題を発生しながら契約により童話の原型を保てと命じている(これも正確にはもう一人とのみだが)。管理人とは、それも世界の創造者が二人の世界は、大変なものだ。

オルドヌング

うーむ……。

オルドヌング

あ、あの居候に投げるか。

オルドヌング

よし、早速通達じゃ。

 名案だ、という顔をして再び糸を紡ぎ始める。

オルドヌング

……。

 彼女の顔からは、先ほどまでの表情は消えていた。針でできた指の傷も、何も無かったかのように消えていた。

ヴァイネ

じゃーん、アップルパイを焼いてみたの!

モルタニス

ふむ、美味しそうだな。そう思うだろ? 猟師。

シェーン

今度のはきちんとしたやつなんだろうね。前のは僕、丸一日も昏倒していたよ!

 本日は天気もよく、遠乗りをするかという事でシェーンの小屋にやって来たモルタニスとヴァイネ。
 森を散策したりしているうちにちょうどいい時間となったため、シェーンの小屋で遅めの昼食をとっていた。

ヴァイネ

あー、あれは、うん。原材料をうっかりとしていたというか……。

モルタニス

毒リンゴだったな。まだあったとは思ってもいなかった。

シェーン

毒だって!? そんなにも僕のことが……

シェーン

愛おしいのかな?

ヴァイネ

あ、毒リンゴの残りがこんな所に。

シェーン

……昔は可愛かったのになぁ。

モルタニス

ふふふ。

 平和な、かつての友人達と過ごしたような日々。穏やかな笑みでそれを眺めていると、脳内で同業者の声が響いた。

 

モルタニス! これこれこういう所の小屋に住む強盗をひっ捕らえよ! 生死は問わん! ちなみに拒否権は無いのじゃ!

モルタニス

……。

ヴァイネ

あら、どうかしたの?

モルタニス

急用ができてしまってね。賊退治を頼まれた。

ヴァイネ

ふーん。……私はどうしたら? 囮でもする?

シェーン

危ないよ! だったら僕がやる。

 オルドヌンクから送られた情報から判断するに、戦闘力はそこまで無いだろう。女性だったら怪しまれずに入ることもできる。

モルタニス

わかった。……シェーン、女装しろ。

シェーン

はあっ!? なんで僕が

モルタニス

そうか……。君になら任せられると思ったのだが……。

シェーン

……任せたまえ!

ヴァイネ

ちょろい。

モルタニス

ヴァイネはこのリンゴでアップルパイを焼いてくれ。

ヴァイネ

ええ、了解したわ。

モルタニス

……眠っている時ほど無防備な者は無い。髪を全て剃られても気付かないからな。

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