……。
全ての時が止まったかのような城。人も、鳥も、火でさえも静止した世界で、一人糸を紡ぐ者がいた。
カラカラとなれた手つきで、しかし、表情は無く、糸を紡ぐ。
……。
……!
ピタリ、と手が止まる。同時に、たった今目覚めたかのように表情が戻った。
何をやっているんじゃ、きゃつらは!
……っ!
うっかり刺さってしまった紡ぎ針の痛さに悶えつつ、たった今届いた情報について考える。この世界の秩序を守る存在として、見過ごせない情報を。
うー、そろそろあっちもやらねばならぬし……。
早急に己が対応すべきだろうが、次の仕事が迫っている。それも長期拘束されるものだ。
直接己が出向いて問題を解決するとなると、確実に間に合わない。かといって後回しにすると大事になってしまう。
きゃつらの力も今は借りられぬようじゃし……ちっ。
自分達(正確には片割れ)で問題を発生しながら契約により童話の原型を保てと命じている(これも正確にはもう一人とのみだが)。管理人とは、それも世界の創造者が二人の世界は、大変なものだ。
うーむ……。
あ、あの居候に投げるか。
よし、早速通達じゃ。
名案だ、という顔をして再び糸を紡ぎ始める。
……。
彼女の顔からは、先ほどまでの表情は消えていた。針でできた指の傷も、何も無かったかのように消えていた。
じゃーん、アップルパイを焼いてみたの!
ふむ、美味しそうだな。そう思うだろ? 猟師。
今度のはきちんとしたやつなんだろうね。前のは僕、丸一日も昏倒していたよ!
本日は天気もよく、遠乗りをするかという事でシェーンの小屋にやって来たモルタニスとヴァイネ。
森を散策したりしているうちにちょうどいい時間となったため、シェーンの小屋で遅めの昼食をとっていた。
あー、あれは、うん。原材料をうっかりとしていたというか……。
毒リンゴだったな。まだあったとは思ってもいなかった。
毒だって!? そんなにも僕のことが……
愛おしいのかな?
あ、毒リンゴの残りがこんな所に。
……昔は可愛かったのになぁ。
ふふふ。
平和な、かつての友人達と過ごしたような日々。穏やかな笑みでそれを眺めていると、脳内で同業者の声が響いた。
モルタニス! これこれこういう所の小屋に住む強盗をひっ捕らえよ! 生死は問わん! ちなみに拒否権は無いのじゃ!
……。
あら、どうかしたの?
急用ができてしまってね。賊退治を頼まれた。
ふーん。……私はどうしたら? 囮でもする?
危ないよ! だったら僕がやる。
オルドヌンクから送られた情報から判断するに、戦闘力はそこまで無いだろう。女性だったら怪しまれずに入ることもできる。
わかった。……シェーン、女装しろ。
はあっ!? なんで僕が
そうか……。君になら任せられると思ったのだが……。
……任せたまえ!
ちょろい。
ヴァイネはこのリンゴでアップルパイを焼いてくれ。
ええ、了解したわ。
……眠っている時ほど無防備な者は無い。髪を全て剃られても気付かないからな。