私は、最低だ。

 眠っている彼女を見る。姉がいなかったら彼女は泣き叫び続けていただろう。姉に呼ばれてリビングに行く。

桐子ちゃん、眠っている?

うん。ぐっすりとだよ

よかった……

 ほっと胸を撫でおろす。姉がゆっくりと語り掛けてそして温かい紅茶をいれてくれたおかげで、キーちゃんは落ち着いた。姉に礼を言った。

姉さん、ありがとう。その、ごめん

何言っているのよ。当たり前のことをしただけよ、潤もお疲れ様

 潤も沙保里が入れた紅茶を飲む。暖かい温度と香りに包まれて沈んだ気持ちが少し和らいできた。

最低だな……私は

 きーちゃんを追い詰めてしまった。悩みを抱えていたきーちゃんの助けになろうと話しかけたのはいいが、その結果彼女の体調を崩させてしまった。

潤、あなたのせいではないわ。運が悪かった、それだけよ。桐子ちゃんは、やはり吐いた方が楽だったかもしれないわ。香奈実先生から聞いたの。あの子はたくさん抱えすぎるって

でも……

桐子ちゃんはね、相手が悲しむようなことを言わない主義なんだって。相手が悲しむなら閉じ込めておこうっていうほど優しいの

うん

桐子ちゃんが黙っていたのは、潤に負担をかけさせてくないっていうのもあったのかもしれないわね

負担?

 沙保里が言いたいことがなんとなくわかる。きーちゃんは優しい人だからこそなのだろう。あんなに頑なに口を開かなかったのは、言葉の重みを知っていたからなのだ。誰よりも、知っていた。

負担は……きーちゃんからだったら嬉しいけれどね

と潤が言うと、沙保里はそれよと手をたたいた。言いたいことが見つかったのだ。

もう、いっそ付き合いなさい。あなたたち。近い内、というかすぐなんだけど婚約者としての顔合わせがあるのよ

……

 香奈実が言っていたことを思い出す。そういえばそういうことがあったなあと潤は思った。自分ときーちゃんの出会いは運命だったのだろう。二度目の出会いもまた運命だった。

私は、なれるのだろうか。きーちゃんの負担を負える人に

 沙保里は黙って弟の独り言を聞いた。きっとなれるだろうと確信している。桐子のためならなんでもやるって。桐子が落ち着いたのは自分だけじゃない、桐子を優しく見守った弟がいたからだと沙保里は思った。

桐子……

 環奈から叱責された帰り、私はドラッグストアにでも寄って白がゆの元とほんの少しお菓子を買った。お見舞いしに行かなければならないと思ったのだ。

私、自分のことばかりだった。自分が弱いのを知っているけれど、桐子も自分と同じくらい弱いと思っていた

 環奈の叱責は痛いものだった。確かに、環奈の言ったとおりだ。

足立 環奈

自分はつらいってアピールして、頼ってばかりで何もしねえじゃねえか。桐子嬢様や潤様はがんばっているのに、あんたは、何やってんだ 

 私は、何をやっているのだろう。桐子に会う資格は、今の私にあるのだろうか。

でも、私はそれでも桐子のそばにいたい。いる。桐子を見捨てられないもの

 責任感強くて心弱いあの子を、だれが見捨てるのだろうか。瑞希との約束を心にとどめていたあの子を、守りたい。私が一番近くにいるんだ。だから……。

桐子に会いに行こう。そして、ゆっくりと桐子の話を聞いて

 会話おする。自分の中で自分の脳内の桐子と話をしてもらちが明かない。目の前の桐子に会って話をしなければ、私は桐子の本当の理解者にはなれない。

桐子……、あ、起きた?

 桐子に電話をかける。もうそろそろマンションにつくことを伝えた。桐子に伝えなければならないことを、考えながら詩音は歩く。あの角を曲がればすぐそこだと詩音は次第に歩みを速めていった。

それでも私はあなたのそばにいたい

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