魔導暦3056年…
マナの著しい減少によって、
イマジネーションガイアの魔法…
マジックは、衰退の一途を辿っていた。

世界のエネルギー基盤が
科学へ切り替わっていく一方で、
星の一族が治める『クロサイト王国』は、
代々受け継がれた魔石
『スタースフィア』の力を借り、
科学に頼らず栄えることに成功した。

しかし、科学エネルギーに移行して以来
著しい繁栄を見せた、
太陽の一族が治める『トロイメア帝国』は、
それをよく思わなかったーー

ステル

逃げなさい…アストル!!

三年後の魔導暦3059年…
クロサイト王国繁栄の鍵となっている
スタースフィアを狙い、
トロイメア帝国は戦争を仕掛けた…

いや、あれはそんなものでは無かった。
当時まだ六歳だった僕にもわかるほど、
二つの国の戦力差は歴然としていたのだ

アストライア

母様!!イオ、放して!母様を置いていかないで!!

戦争は、当然トロイメア帝国の勝利に終わり、
スタースフィアは帝国に奪わた。
五つに分割されたそれは、
帝国の新たなエネルギー補助具
『マザースフィア』として
使われることになった…

敗戦の恨みをぶつけられることを
危惧した帝国は、
生き残っていた星の一族も
根絶やしにしようとした…

本当に、悍ましい虐殺だった…

ステル

生きなさい、アストライア!私の、可愛い子…

開戦から、虐殺に至るまで半年…
一年と持たずに、クロサイト王国は滅亡した

薔薇の天秤
~Rosy Libra~

カストル

アストルぅー!!おーきろー!!

アストル

るっさい!!

カストル

ぅおっ!?……っぶねぇ…おい!時計は投げるなっていつも言ってるだろ!?

アストル

お前がうるさいのが悪いんだろ!今何時だと思ってるんだ!!

カストル

もう昼の十二時だよ馬鹿野郎!店もとっくに開店してんだ、早く起きてこい!!

アストル

……ちっ…

アストル

………おはよ

イオ

アストル!ようやくお目覚めですね…ああ、まだ髪も梳かせてないではないですか…カストル!ブラシを持ってきてくれ!!

カストル

髪くらい自分で梳かさせろ!!つーかキッチン離れんな!オムレツ2種追加だ!!

イオ

しかし…!……オムレツ2種承りました!

アストル

イオ、髪はどうでもいい。モーニングティーを用意してくれ。今日はローズヒップの気分だ

イオ

アストル…申し訳ございません、少々お待ちを…あまりお客様を待たせると、店の信用が…

アストル

オムレツは僕が受けるから、お前は先にローズヒップティーだ。早く

イオ

しかし…

アストル

二度はないぞ

イオ

……承知いたしました…しばしお待ちを…

カストル

イオ!あんましアストルを甘やかすな!!

イオ

殿下のご命令は絶対だ…それに、殿下が注文を受けてくれるというのならば、尚更応えない手はない…!

カストル

おまえ…本当アストルバカだよな…

イオ

執事が主人に忠義を尽くして何が悪い

カストル

あー、すげー、尊敬するぜそういう所(棒)

アストル

カストル!オムレツ上がったぞ、持ってけ!

カストル

はぁ…あいよー!

カストル

はぁ…落ち着いたぁ…

アストル

……うん。香りも味も格別だ…また腕を上げたな、イオ

イオ

勿体なきお言葉…

カストル

そういや、兄貴おせえな…どこまで買い出し行ったんだ…?

イオ

少し前に、小麦粉がなかなか見つからないと連絡があった…もうじき豊饒祭だから、ほとんど菓子屋やパン屋に流れているのかもな

カストル

なるほどねぇ…でも、天気なんかやばくねえか?外真っ暗だぞ?

アストル

一雨くるかもな。水のマナが強い…迎えにいくか?

イオ

降ってきたら…その方がいいかもしれないですね。傘は持っていませんでしたから

カストル

あっ、じゃあそん時は俺行くわ。午前中頑張ったし、午後はアストルに丸投げ出来るし

アストル

させないぞ

カストル

お?やるか?

イオ

おやめ下さい殿下…ただでさえ狭い店内で、危ない事をされてしまってはたまりません…それに、そろそろ本題に入りませんか?

カストル

あー…そうだったな。今日はローズヒップ…次のターゲットが決まったんだな?

アストル

…ああ。できればポルックスもいる場で話したかったが、いないなら仕方が無い。夜にでも話を合わせよう

イオ

休憩時間は限られていますからね…さて、ライブラ…今回のターゲットは、やはり…?

アストル

ああ…僕たちの、真の目的を達成すべく…スタースフィア奪還作戦を始動する

カストル

やっとか~!待ちくたびれたぜ!!で、で!?最初はどれを狙うんだよ?

アストル

最初は近場から攻めていこうと思う…伯爵…アベンチュリン家が所持している、地のマザースフィア……『アイナリス』だ

イオ

いきなり伯爵ですか…ここは順当に、男爵から攻めた方がいいのではーー

ポルックス

たっだいまー!もーぅ、スコールなんて聞いてないわよ~!!

カストル

おかえり兄貴!ってうわ!?ずぶ濡れじゃねえか!!……タオル用意すっから待ってろ!!

アストル

ああ、ポルックス…丁度よかった。実は今、次のターゲットについてーー

イオ

(被せるように)お待ちください、アストル…ポルックス、その方は?

アストル

ん…?

ポルックス

ああ、そうこの子!!お店の前で雨宿りしてたのよ!でも、こんなびちょびちょな状態で外にいたら、風邪ひいちゃうでしょ?……あー…タイミング、最悪だったみたいだけど

イオ

お前というやつは…よりによって今…

アストル

……はぁ…別にいい。ポルックスにもちゃんと聞いてほしい話だったし…でも次はやめてくれ

ポルックス

ごめんね、アストルちゃん!…さぁて、アタシはホットミルクでも用意してきましょうか…ちょっとまっててね、すぐ妹がタオル持ってきてくれると思うから!

デメテル

は…はい……

イオ

全く…ホットミルクより先に暖炉だろうに…すみませんね、お客様。すぐに薪をくべますので、少々お待ちを…

デメテル

ありがと、ございます……

アストル

…………

デメテル

…………

アストル

……はぁ…そんなところ突っ立ってないで、適当なところに座ったらどうだ?休憩中とはいえ、入口にずっと誰かが立ってるのは、印象が悪くなる

デメテル

はい…えっと……

アストル

……ああもう…めんどくさい……

アストル

ここなら、暖炉も近くて暖かいはずだ。ここに座れ

デメテル

はい……

アストル

それにしても…傘とか持ってなかったのか?お前……

デメテル

ひっ…!

アストル

ひどい身なりしてるつもりだろうけど…上層階級だろう?

デメテル

あ、ああ…ご、ごめんなさ…

カストル

アストル!

アストル

……何をする

カストル

それはこっちのセリフだ!そいつ、女の子だろ…何怖がらせるようなことしてんだよ!!

アストル

うるさい……そいつは上層階級…しかも、アベンチュリン家の人間だ…!

デメテル

っ……!

カストル

は…?そいつが…?

イオ

何の騒ぎです?大声など出して…

ポルックス

なになに~?まぁた喧嘩してるの?

カストル

兄貴、イオ…それが…

アストル

ポルックス、どういうつもりだ?あろう事か、敵を入店させるなんて…

ポルックス

敵?…どういうこと?

アストル

チッ……よく見ろ!

デメテル

きゃっ!?

イオ

殿下!!……!それは……

カストル

…森林の盾…!

ポルックス

ってことは、もしかして……

アストル

そう、森林の盾だ…知っているだろう、この紋が、アベンチュリン家の家紋だってことくらい…

デメテル

ち、違うんです!!あ、いや、その…確かに、私はアベンチュリン家の人間ですが…!あなた達の敵なんかじゃないです!!

ポルックス

そうよ、アストルちゃん!何も事情を聞かずに…あのアベンチュリン家の子だってだけで、決めつけるのは良くないわ

アストル

五爵家は違わず僕らの敵だ…それがまだ分からないほど、お前は無能じゃないだろう?

ポルックス

アストルちゃん…

アストル

不快だ。開店時間までに出ていけ

イオ

殿下ーー

アストル

(遮るように)寝る!付いてくるな!!

イオ

…はぁ、参ったな

デメテル

……ごめんなさい…今すぐ、出ていきます…

ポルックス

待って…大丈夫よ。少なくともまだ、開店まで一時間以上あるわ。それに、あんなこと言ってたけど、アストルちゃんも本気じゃないから…ね、イオちゃん?

イオ

ええ…申し訳ございません、お客様。彼は…ちょっと、昔色々ありまして

デメテル

…………

カストル

なあ、良かったらなんが…どうして上層階級のアンタが、こんな辺鄙なところにいるのか…教えてくれねえか?

ポルックス

アタシ達、何か力になれるかもしれないわ…ねえ、話してみない?

イオ

お前達…アストルの許可もなく勝手なこと…

ポルックス

いいからイオちゃん…聞くだけよ、ね?

イオ

……はぁ…聞くだけだぞ

デメテル

…私……家族を、殺されたんです…

カストル

殺された…?アベンチュリン家の?そんな大事件あったっけか?

ポルックス

アタシは聞いてないわね…

デメテル

ええ、無理もないです…私の家は、アベンチュリン家の中でも、地位の一番低い家でしたから…一族に忘れ去られていたと言っても、過言ではありません…

イオ

……末家か…

デメテル

…たまたま、私の代までアベンチュリンの姓が残っただけで、分家にも相手にされないような家柄でした…でも…半年前のことです…アベンチュリン家の、先代当主が亡くなりました

ポルックス

あったわねぇ、そんな事…

イオ

帝国民からの信頼も厚い人物だったそうですね…いい当主だったと聞いています

デメテル

…いい人だったかは、私には分かりませんが…でも、民が言うのなら、そうだったのでしょう…

カストル

…ん?って事は、今のアベンチュリン当主は違う人がやってるってことか

ポルックス

カストル…あなた、もっと人事ニュース見なさい?今は、先代当主の長男が当主を務めているそうよ

カストル

ふーん…

イオ

ただ…あまりいい噂は聞かないな。先代当主が有能すぎたというのもあるのだろうが……ああ、申し訳ございません、お客様。あなたの血族を貶した訳では無いのです

デメテル

……いえ、その通りです

ポルックス

…と言うと?

デメテル

あの人は…悪魔です…!

カストル

悪魔……

デメテル

あの人には、まだ奥方がいないのです…だから、跡継ぎが作れない…五爵家の当主は、同じ五爵の血を引く純血の当主を強く望みます

イオ

貴族の家系だと、良くあることですね…遠縁の相手と結婚し、その子どもを当主にするというのは…

カストル

今考えると…ちょっとありえねえよな…

ポルックス

貴族はそれだけ、血を重く考えているって事ね

デメテル

……私は、その候補に挙げられました

カストル

マジか!?

ポルックス

きっと、改めて系図を洗い出したのね…あなた美人さんだし

デメテル

そ、そんな事…!ない、です……

イオ

……見えてきましたね…あなたは、アベンチュリン伯爵に求婚されたのですね?

デメテル

……はい

カストル

で、返事は…?

デメテル

お断りしました。急にそんなこと言われたって、困りますし……怖かったんです…あの人の、私を見る目が…すごく、気持ち悪くて…

カストル

……最低だな

ポルックス

女の敵ね!

デメテル

でも、あの人は諦めませんでした…ずっと、家臣に家の周りを張らせて、暇さえあれば私に会いに来て……体の関係を求められたこともありました…

ポルックス

まあ!!

カストル

うわ…

イオ

………

デメテル

……一ヶ月前のことです…しびれを切らしたあの人が、遂にお金を積んできました…両親も、私も、断り続けました…そして、一週間前……

イオ

…実力行使に出た…と

デメテル

…父も母も、最期まで屈しませんでした…私を守ってくれました…なのに…私、何も出来なくて…ただ、逃げて…!

ポルックス

可哀想に…辛かったわね…

デメテル

私が何をしたっていうの…!何で…どうして、お父さんとお母さんが死ななきゃならなかったの…!こんなの、あんまりよ…!!

ポルックス

………イオちゃん、カストル…

カストル

……決まったな、イオ。アストル呼んでこい

イオ

ああ…はぁ…骨が折れそうだ…

ポルックス

あなた、アベンチュリン家が憎い?

カストル

そうでなくても、ちょっと痛い目にあってほしいって思うか?

デメテル

……憎い、です…あの人は、まだ、私を探しています…あの人だけが、幸せになるために……そんなの、許せない…許したく、ない…!

ポルックス

なら、それで十分…アタシ達に任せてちょうだい

デメテル

へ…?

カストル

どーんと構えていいぜ!俺たちに…怪盗団エトワールに、失敗の文字はない!

デメテル

怪盗団…エトワール…!?

イオ

殿下、入りますよ

アストル

……帰った?

イオ

いえ…聞いていたのでしょう、全て…もう後には引けませんよ

アストル

……馬鹿なのかあいつは…正体勝手に明かすとか…僕たちは便利屋じゃないんだぞ…

イオ

ですが、そう思わせるような働きをして見せたのは私たちです…知っていますか、世間での私達…怪盗団エトワールの評判を…

アストル

…『正義の味方』だろう。帝国民は気楽でいいな

イオ

…殿下…

アストル

反対だ。ターゲットも変える

イオ

………

アストル

大体、あの話一つだけで、あいつを信用するのか…?あいつは帝国民だ…僕らの国を滅ぼした、帝国の民だぞ!?しかも、上層の…次のターゲットの…タイミングが良すぎるとは思わないか?

イオ

殿下…あなたが帝国民を信用出来ないのは知っています…ですが、それも捨てたものではないと…この数年で分かったはずでしょう?…彼女も、その帝国民の一人です

アストル

……………

イオ

アストライア王子…どうか…

アストル

…………はぁ…お前達は本当にお人好しすぎる…いつか身を滅ぼすぞ

イオ

殿下…!

アストル

あいつの為じゃないぞ!いつかは盗りに行く予定だったし、それに……あー!もう面倒臭い!!…すぐに作戦を立てるぞ!

イオ

はい!お待ちしておりますね!!

アストル

……帝国内部でも、潰し合いが始まっているのか…世も末だな

ポルックス

それじゃ、まずは改めて自己紹介からね!アタシはポルックス=トルマリン…コードネームは『ジェミオス』よ。よろしくね!

カストル

俺は、その妹のカストル=トルマリンだ。コードネームは『ジェミニ』!

イオ

私は、イオ=クリソプレーズ…コードネームは『オックス』だ。よろしく

アストル

………

イオ

……殿下

アストル

チッ……アストル=インカローズ…コードネーム『ライブラ』

デメテル

ほ、本当に…エトワールなんですね…!

ポルックス

そんなに目をキラキラさせられると…ちょっと照れるわね!!

デメテル

だって…!怪盗団エトワールといったら、悪徳貴族を懲らしめる正義の味方!抜群のチームワークで、どんな獲物も逃さない…素敵です…!!

カストル

毒されてんなぁ…一応犯罪者なんだぜ、俺たち…

アストル

今はそんな話に花を咲かせている場合じゃないだろう…やる気あるのか、お前

デメテル

ひいっ!?ご、ごめんなさい…

ポルックス

もう、隙あらば噛み付くんだから…ほら、こっちにいらっしゃい!えーっと…

デメテル

あっ…名前……私は、デメテル…デメテル=アベンチュリンです

ポルックス

デメテルちゃんね!よろしく!

カストル

豊穣の女神の名前か…いいじゃねえか!

デメテル

えへへ…

アストル

(咳払い)

デメテル

はわっ…ごめんなさい…

イオ

……殿下、計画の方は?

アストル

獲物は、アベンチュリン伯爵家が守護するマザースフィア『アイナリス』…これはさっき話したな?

ポルックス

ええ、カストルからあらかた聞いたわ

デメテル

マザースフィア……って、あの、エネルギージェネレーターを動かしているっていう…核の…?

カストル

ああ、そうだ

デメテル

そ、そんなことしたら、マナエネルギーの供給バランスが…!

アストル

文句があるなら今ここで消えろ

デメテル

ひっ…!!

イオ

デメテル…済まないが、これは決定事項なんだ。ちゃんと理由もある…必ず話すから、今は信じてほしい

デメテル

イオさん……

カストル

……で、配役はどうなってんだ?

アストル

そうだな…イオが現場指揮を執り、ポルックスが足を確保…

カストル

俺は陽動か?

アストル

……いや。今回カストルは、イオたちと待機していてほしい

カストル

はぁ!?

イオ

……成程、相手は伯爵家…警備は厳重なはず。戦闘要員を残しておきたいのですね?

アストル

ああ、そうだ。確率は限りなくゼロに近いが、万が一にも僕が手こずった時にお前を呼ぶ

カストル

そういう事な…分かった

ポルックス

んでも…それじゃあ、今回は陽動はナシなの?

アストル

いや?今までも陽動抜きで犯行をしたことはあったが…今回のターゲットは、今までのヤツとは訳が違う。陽動はしておくに越したことは無い

カストル

じゃあ、一体誰が…

アストル

お前がやれ

デメテル

………へ?

ポルックス

ちょ…アストルちゃん、本気!?

イオ

殿下、幾ら何でもそれは…

アストル

その程度の覚悟もなく、『許せない』なんて抜かしていたのか?なら今すぐやめてしまえ。さっさと帝国から出て、どこか知らない村にでも身を隠すんだな

デメテル

…………

カストル

…デメテル、よく考えろよ。この作戦に参加するってことは、お前もエトワールの手の者になるってことだ…犯罪者になるってことだ

ポルックス

あなたは依頼者でいいのよ…こんな危険なこと、嫌々しなくてもいいの

イオ

……どうするんだ?

デメテル

………私……やります

アストル

ふん…決まりだな。今回限り、お前のコードネームは『ゴーヴァ』だ。その麗しい女神の名に見合った功績を残せ…いいな

デメテル

はいっ…よ、よろしくお願いします…!!

ポルックス

デメテルちゃん……なにか心配なことがあったら、なんでも聞いてね。力になるわ!

カストル

無茶はすんなよ。それで失敗が一番悲惨だからな

イオ

それだけで瓦解するほど、エトワールは落ちぶれてはいないがな…そうでしょう、殿下?

アストル

当たり前だ…予告状は既に用意してある。今から出せば、明日の昼にはターゲットの許に届くだろう…決行日は明後日!それまで気を引き締めておけ!!

イオ

イエス、マイロード

カストル

イエス、マイロード

ポルックス

イエス、マイロード

デメテル

は、ふぁいっ…!

ジェミオス

はぁい、ライブラちゃん!守備はどう?

ライブラ

ばっちり。でも警備が一人もいない…どういうことだと思う?

オックス

大方、マザースフィアに警備を集めて袋叩きにしよう、という魂胆でしょうね…行けますか?

ライブラ

ああ、そういうこと…僕達も舐められたものだな

ジェミニ

あーったく…頭沸いてんじゃねえの?怪盗ターゲットの部屋に入れたら、万事休すだろっての…

ジェミオス

ライブラちゃんなら大丈夫だと思うけど…やばくなったら、いつでもジェミニを呼ぶのよ?

ライブラ

分かってる

ゴーヴァ

こっ…こちらっ、ゴーヴァ!ポイントB、準備できました!!

オックス

ん…良くやった、ゴーヴァ。そのまま戻ってこい

ゴーヴァ

は、はいっ…ゴーヴァ、戻りまっす!!

ライブラ

大丈夫なんだろうな?本当に、ちゃんと起動するのか?

ジェミニ

問題ねえよ!兄貴が作った装置なんだ。動かねえはずがねえ!

ジェミオス

そうよ!起動実験もクリア済み…あの子に死角はないわ

ライブラ

そっちじゃなくてーー

オックス

集中してください、ライブラ…もう間もなくですよ

ライブラ

わかった……

ゴーヴァ

お、お待たせでしたぁぁぁ!!ゴーヴァ、もっ…戻りました!!

ジェミニ

うっし…やれるじゃん

ジェミオス

良くやったわ、ゴーヴァちゃん!さあ、あとは一発…どっかーんと、やっちゃって!

ゴーヴァ

は、はいっ…!いきますよぉ……

オックス

ーー五秒前…四、三、二、一……

ゴーヴァ

どっっっっかあぁぁあぁぁん!!!

ジェミオス

(口笛)かぁんぺき!

ジェミニ

ライブラ!!

ライブラ

分かってる…!!

ライブラ

ウィンディウム・マジック…ソニックウィング!

アベンチュリン伯爵

来たな…怪盗ライブラ!後衛部隊、放て!!

魔法部隊

はっ!!

ライブラ

……チッ…邪魔だ!!

ライブラ

ウィンディウム・マジック…クロスウィンド!!

魔法部隊

ぐああああ!!

ライブラ

……上流階級の豚が…

アベンチュリン伯爵

なっ…!!アイナリス部隊!!

魔法部隊

はっ!!

ライブラ

図に乗るな!!

アベンチュリン伯爵

撃てぇぇぇぇ!!

ライブラ

舐めるな!!

ライブラ

フレイヤ・マジック…リビンフレイム!

魔法部隊

うわああああ!!

アベンチュリン伯爵

二属性使い…!?そんな…まさか!!

魔法部隊

伯爵!!ダメです!!敵いませんよこんなの!!撤退命令を!!

アベンチュリン伯爵

ならん!!ここだけは…マザースフィアだけは…盗ませるわけにはいかん!!盗ませてしまえば…アベンチュリン家は…私は…!!

ライブラ

……聞いていた通りのクズだな

アベンチュリン伯爵

なに…!?

ライブラ

………予告通り、マザースフィアは戴いていく。何も出来ないなら、今後地べたに這いつくばって生きていくことになる事を…嘆きながら見ているといい

アベンチュリン伯爵

させるか!!お前達!!なにをしている!!やつを引きずりおろせ!!逃げるなああああ!!!

ライブラ

悔い改めろ……

ライブラ

ルーメシア・マジック…クルーシファイ!!

アベンチュリン伯爵

あああ…やめろ!!やめーー

ライブラ

ジャッジメント!!

ゴーヴァ

…すごい…

オックス

ライブラは、マジックの源…エレメントの力を宿した『エレメントリング』の力を借りて、どんなマジックも使うことが出来るんだ

ゴーヴァ

そうなんですか…!ライブラさんは、すごいマジシャンなんですね…!!

カストル

制約はあるが…あれさえあれば、相手も対策のしようがねえからな!エトワールは今まで負け無しってことだ!!

ジェミオス

うふふ、さて…ライブラちゃんの電池が切れないうちに、車を回しましょうか

アベンチュリン伯爵

ああ…あああああ…

ライブラ

地のマザースフィア…『アイナリス』…確かに頂戴した

アベンチュリン伯爵

私は…ああ…もうダメだ…おしまいだ…あああああ…

ライブラ

………

アベンチュリン伯爵

これから…どうすれば…ああ…私の地位は…遺産は…名声は…?ああ…

ライブラ

……いいことを教えてやろう、アベンチュリン伯爵

アベンチュリン伯爵

ああ…ああああ…

ライブラ

これからお前が行く道は、絶望しかない…希望は持たない方が身のためだ…なあ…伯爵サマ?

アベンチュリン伯爵

あああ…あああああああああ!!!

アストル

…………なんでお前がまだいるんだ?他のやつはどこへ行った?

デメテル

アストルさん!!やっと目が覚めたんですね!!

アストル

質問の答えになってないぞ…

デメテル

他の皆さんは、諸用があるとかで外出中です…私は店番を…あと…正式にエトワールのメンバーに誘われました。みなさんのお話も、聞かせてもらいました…

アストル

………

デメテル

アストルさんたちは…10年前、帝国が滅ぼした『クロサイト王国』の生き残りなんですね…マザースフィアを盗むのも、元々自分たちのものだったから、それを取り戻すため…

アストル

……同情でもしたか

デメテル

…それも、あります…でも、それ以上に…謝りたくて…

アストル

謝る?お前が?

デメテル

10年前のことは…私、あまり覚えていないんです。大きな革新があったのは、覚えているのですが…あの時の私は、幼すぎました…今までも、何も知らずに過ごしてきました。あなた達、星の一族の犠牲の上に、帝国が成り立っていること…私は、何もわかってませんでした…

アストル

ああ…そうだな

デメテル

でも…私はそれを知ることが出来ました。知らなければいけない事実を、教えてもらうことが出来ました…だから…

アストル

…………

デメテル

…私が謝っても、どうにもならないことは分かっています。でも…それでも、その恩恵を受けている身として…一帝国民として、謝らせてください…本当に、申し訳ございませんでした…!!

アストル

…………お前になんの得がある?

デメテル

え…?

アストル

僕らはお前達の敵だ…それに協力して、お前になんの得がある?同情や罪悪感だけで出せる答えじゃない…ここまで僕らに肩入れするなんて…それは、相当なお人好しのすることだ

デメテル

………じゃあ…私は、お人好しなんです。相当な、お人好しです

アストル

………デメテル…だったか

デメテル

はい…

アストル

………ヘマをしたらすぐに切り落とす。それまでせいぜい役に立ってみせろ

デメテル

!…はいっ!よろしくお願いします、アストルさん!!

ポルックス

……酷い…

カストル

ステル、さま…っ……兄さん…!!

ポルックス

カストル…

カストル

…なんで…私達は、ただ…!!

ポルックス

…一番泣きたいのは、アストライア王子だよ…僕達が泣いちゃダメだ

カストル

でも…でもぉ…

イオ

……殿下…

アストライア

……イオ、僕、決めたよ…でも、僕一人じゃ無理だ…手伝ってくれる…?

イオ

……殿下の命とあらば、私はなんだって致しますし、どこへでもお供いたしましょう…ポルックスも、カストルも、同じ気持ちのはずです

アストライア

イオ…ありがとう…

アストライア

トロイメア帝国……復讐してやる……いつか、必ず……!!

0等星 薔薇の天秤

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