明日は10時でいいんだよね?

サヤは覗くように顔を横にやる。
 

うん

同じく横を向いて、縦に頷くアヤ。

2人は濃紺のスクールバッグを肩にかけ、

 セーラー服を揺らしながら
自宅への道を歩んでいた。

黒を基調とした上下の中に襟や袖に白の線が、
胸元に赤いセーラースカーフという


最近では
あまり見ることの少ない古風なセーラー服。

前みたいに遅れないように、今日は早く寝なよ

 白い歯を見せながら茶化すアヤに、

余計なお世話だよ〜だ

とサヤは赤い舌を少し出して
顔をクシャリと歪めた。

 互いに変顔になり、

フフッと笑いあった。

十字路に差し掛かり、2人は立ち止まり、



 
互いに向き合う。

じゃあね、サヤ

うん! バイバーイ

 アヤは右方向、

サヤは左方向。

フッフフフッフッフー

それぞれの自宅へ向かって、2人は歩き出した。

 1人になり、
しばらく歩いているうちに
自然と口ずさんでしまう鼻歌。

サヤの癖である。

 曲はバラバラだ。


好きなアーティストの既存曲であったり、

音楽知識は皆無だが
適当に作った即興曲だったり。


 そして、ハッとする。

誰かそばにいるかも、と。

 気づかなかっただけで近くに、
みたいなことがあるし、

そもそも以前に身をもって体験してるので、

外では少し自制しなければいけないと
自身に忠告している。

そのはずなのだが、


癖というのはなかなかすぐには直らず、

~♪

ふと気を許した瞬間に戻ってしまう。

 家でも気をつけていかないと
直らないのかもしれないが、それは嫌だった。

プライベート空間まで
邪魔はされたくなかったのだ。

 街灯が少なく少し暗めではあるが、

今は立夏が過ぎて1ヶ月経過した6時。

時間的に仕事や
学校帰りの人がいても全然おかしくない。


 左肩にかけたスクールバッグをかけ直してから、

確認しようと辺りを見回そうとするサヤ。

だが、しなかった。

というか、

できなかった。

顔を、











背後から気配を感じたからだ。

 距離はあるとは思われるが、

明らかな何かを感じており、

それが背に悪寒が走らせている。

サヤがこんな気配を感じるのは2回目だ。

実は、以前、ストーキング被害を受けていたのだ。

 その時も、背後からの
異様な気配を感じていた。

 だが、ちょっと違う。

ちょっとどころじゃない。

かなりだ。


 何が違うのか?
 

——足音が
少しも聞こえないのだ。

気付かれぬよう歩くのだとしても、
多少は聞こえるはず。

なのに今回は聞こえない。

前進にしろ
後進にしろ
左右に隠れるにしろ、

歩む行為で発生する
物音的なものさえも

一切。

怪異妙奇譚伝

作者:Kt

剣に触れると、続きが読めます
(小説家になろうリンク)

以下、Kt様の書いた紹介文です

古の時代からこの世には、
幽霊でも妖怪でもない「何か」が存在している。


名前のない「何か」の中には人間に危害を加え、

最悪の場合死に至らしめることもあるのも。

だが、不思議な特異性から
限られたものにしか知られていない。

その限られた中には


「何か」らと戦い、
滅することができるものが稀にいる。

この、特殊な“刀”を操る少年と

不思議な“本”を持つ青年のように。


これは、誰も知らない物語——

怪異妙奇譚伝 作者:Kt

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