それは、
必然だったのかもしれない。

 何万分の、何億分の一の確率の出逢い。

 世界という視点から見れば、
そんな事は本当に小さな事なのだろう。

だがそれでも、





 
"彼ら"にとっては
大き過ぎる事だった――。

 ――地獄、だった。

 崩れた遺跡の瓦礫を踏み抜き、

のそりと異型が歩く。

 何故、そんな喩えが出来るのか。




 答えは単純。

異型の傍らには、

幾つもの頭が転がっているからだ。

 軽い水音と共に、
赤の水面が緩く波打つ。
 

模様のように点々と地を彩るそれは、
未だ生暖かさを帯びていた。

 異型の蹄に蹴散らかされた水が、
燦爛と爆ぜる。


 細かいガラス屑のような飛沫がまた、
崩れかけの壁を赤く塗り上げた。

―――――!

 少女の叫喚が広がる。

 しかしそれは、
異型に対してではない。
 

少女を護るように、
異型の前に立ち塞がる青年へ

向けられたものだ。

……っ

 青年は紫紺の短髪を風に揺らし、
奥歯を噛み締める。

焦燥、

憤怒、

悲哀、

憎悪、

様々な感情が入り混じった形相を浮かべて。

 琥珀色の双眸は、
しっかりと異型の顔を見据えていた。

それが気に食わなかったのか、

異型が猛烈な勢いで駆け出す。

 一歩踏み出す毎に大地が揺れ、
天井が崩れ落ち、

遺跡の崩落を進める。

 その刹那、

青年の表情が


決意に満ちたものへ変わり、

右腕を大きく天へと掲げた。

 崩れた天井から
   差し込む陽光が、

彼の手首に嵌められた腕輪を
鈍く煌めかせる。

 そして青年は拳を握り締め、

喉が枯れる程に

強く、

強く叫んだ。

―――『装着(スティール・オン)』ッ!!

 突如、遺跡全体を
覆い尽くす程の

光柱が降り注ぐ。

 それはまるで
地獄に墜とされた者達を
救い出すように、

穢れなき輝きを放っていた。

 その光は、”始まり”の光。

 神に魅入られた者達が築く、
果て無き物語のプロローグ。

悠遠のエクリプス

作者:片栗粉様

腕輪に触れると続きへ飛びます
(小説家になろうリンク)

以下、片栗粉様の
書いた紹介文です

その世界には、奇妙な『腕輪』の伝説があった。

なんでもその腕輪を身に付けた者には

強大な力が
与えられる代わりに、

逃れられぬ破滅が
待ち受けているだろう
――という伝説だ。


所詮そんなものは作り話だと、
伝説を信じていなかった無愛想な青年、
アベル・ランドールは

暴漢に襲われていた銀髪の少女、
アルヴィス・エリントンを
図らずとも助け出す。


運命か偶然か、その少女は
腕輪の持ち主だった。

ひょんな事からアベルは自ら
信じていないと言った腕輪を装着し、
力を身に付ける事となった。

しかしその腕輪は
一度装着したら外れないようになっており、

”腕輪を外す方法を見つける”という
ひとまずの目的を掲げたアベルは、

その方法を知っている人物に心当たりがある、
と語るアルヴィスと共に

故郷、バスティオンを旅立つ事となる。


これは真逆の性格を持つ
二人が紡ぐ物語。

それは日常の中に紛れた、
ほんの一かけらの異常。

その一かけらに
触れてしまった彼らの旅路とは、

果たして――

悠遠のエクリプス 作者:片栗粉

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