鬱陶しい梅雨も終わり、
暑い夏がやってきた。

 町を歩くサラリーマンは
半袖でも暑いらしく、
ハンカチで汗を拭いてる。

白い肌の女性は
日焼けしないようにと傘をさし、
汗の匂いを消すために香水を付けている。

 ーー比較的温暖な静岡県。


この県の西部にある浜辺市は、

夏の風物詩でもある生物……

が他のどの県よりも
多く生息している事で有名であった。

その浜辺市の中心地区は
蝉町と呼ばれていて、
蝉の生態に研究を注いでいた。

 ある初夏の日中の事。

浜辺市の区役所付近では
渋滞が続いていた。

おいっ!
何してんだ!

信号青だろ!

 トラック運転手が窓を開け、


全く進まない車を睨む。

先頭が見えぬ程に長く続いており、

トラック運転手は渋滞に加え、




この暑さで苛立ち始めていた。

ったく。

ただでさえ暑いってのに
渋滞かよ。

もう30分近くは
待ってんぞ!?

 これはまだ時間が掛かりそうだと思い、

サイドブレーキをかけギアを
Pパーキングへと切り替える。

助手席に置いてあるタバコを口に加え、
ライターで火を点ける。

彼は他にやる事がないのか、
大きなため息を吐いては

背もたれに寄りかかる。

――――。

――――ッ


 そして備え付けのラジオに手を伸ばし、


地方番組のチャンネルを変えては
数秒聞いてを繰り返す。

あー。
くだらねーのしかやってねー。

ん?

 ラジオを消そうとした時、
ノイズが走った。

不思議に思ったトラック運転手だったが、

電波が悪ければそうなる時もあると
自分に言い聞かせる。

しかしーー

…………さい!

……繰り返し……浜辺…………方は、逃げ……


 ノイズが走ってはいるものの、

何とか電波を拾えてはいた。

けれど問題はそこではなく、
聴こえてくる台詞だ。

………………繰り返します。

浜辺市にいる方は逃げてください!

もしくは、

頑丈な建物や
二重ガラスになっている建物へと
避難してください!

 繰り返し………逃げ……あっ!

やめ……!

いやっ!

 悲鳴を最後にプツリと音が途絶えてしまう。

残ったのはノイズだけで、

トラック運転手は驚いて
食わえていたタバコを
落としてしまう。

は、はは。

な、何だ、こりゃ。

何かの企画と……か

……あ、れ?

ーーその時、トラック運転手の視覚に
異変が起きた。


空が縦に真っ二つに割れ、
木々や今まで見えていた物全てが
アシンメトリーとなったのだ。

お……れ……

 そんな彼の瞳に焼き付けられたのは

ーー前方位に見えている車や建物。

風に揺らされて落ちる葉であった。

しかしそれは不思議な事に、ぼやけている。



『…………』

 

微かに何かが動いていはいる。

けれど彼はそれを特定する事が
不可能となっていた。

何故ならば既にトラック運転手の全身は

左右に引き裂かれ、

おびただしい血の噴射を
始めていたからだ。

そしてその返り血を浴びた何かは、
ぼやけていた体をスッと元に戻す。
 

するとそこから現れたのは、
血塗られた脚と魁偉な大きさのーーーー

 ーーーーであった。

焰夏(エンカ)ノ蝉

作者:スラ猫様

以下、スラ猫様の紹介文です

 20××年の夏、
人類は新たな局面を迎えようとしていた。
 

静岡県西部の浜辺市にある蝉町。
そこは蝉の研究が盛んな町であった。

ある初夏の朝、葵東夕耶(あとうゆうや)は
図書館で寝入ってしまう。

そして目が覚めた時、

世界は崩壊を始めていた。

蝉という夏の風物詩である昆虫が、
突如として人々を襲う。

蝉は人間のように知能を持ち、
喋るようになる。

食われた人間は1度死に、

再び甦った時には
手足が蝉の羽や脚のように変貌していった。

それは〈セラミック感染〉と呼ばれ、
次々と人類を滅亡へと追いやっていく。


 ーーこれは蝉の暴走からの

1ヶ月間を生き抜く、
SFパニックホラーである。

焰夏(エンカ)ノ蝉 作者:スラ猫

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