颯太は詩音の告白を聞いて最初に思ったこと。

秀俊がいなくてよかった。

 秀俊は容赦ない。自殺は秀俊にとってのトラウマであり、禁止語でもある。初対面だろうが、知り合いだろうが首を絞めてくる。野川と小邑が危ない人であるのは知っているが、二人は可愛い方だと思う。秀俊の方が危険だ。もしこの場に居たら秀俊を止めるのに必死になっていただろう。

なあ、野川はうちの兄貴が人格が良いとか思っているのか?

野川 詩音

ええ。私たちよりは優れていると思います。大人だし、落ち着いていますし、なにがあっても大丈夫そうなところがいいなあって

 自分が今できることは、野川の死ぬ気を減らすことだと思う。自分が取る解決方法は、一つ。話をすることだ。

兄貴さ、ああ見えて実は怖いの苦手なんだ

野川 詩音

そうなんですか

家ではホラー映画見るの禁止されているんだ。あまりにも兄貴が怖すぎるし、ダメって必死に訴えるから禁止令が出てな

 実は兄貴はそんなできた人間ではないというのを野川に聞かせる。過大評価をなくして、野川が複雑でどうしようもない自分だけど生きてもいいんだと思わせる。

だけど、なぜかゾンビ映画は好きなんだよな

野川 詩音

えー、ゾンビって怖い映画だと思いますけれど、違うのですか

ホラー映画は実際に起こりそうだけど、ゾンビは起こらなさそうだからいいってさ

 その他にも俺が知っている兄貴の話をする。ピーマンが苦手でこっそりと俺のさらに移すとか、そういう些細なもの。野川は次第に笑みを浮かべるようになった。

まあ、兄貴はとんでもないヘタレだけど、いい人だから。野川、よろしく頼む

 締めは兄貴へのほめ言葉だ。そろそろ帰ってくるだろうかと思っていい言葉で締める。もし、兄貴の恥ずかしい話をしていたことがばれたら大変な事になるが、それはそれで仕方ない。

野川 詩音

あ、颯太先輩

 野川が、俺の後ろを気にする。おろおろし始めた。俺は後ろを振り返ってみる。

颯太……いい話をしてくれたな

 まるでオレンジ色の着物を着た落語家が座布団運びの赤い人をネタで言っていたら、ひっそりと立っていてこれから突き飛ばすかの如く、兄貴はそこに立っていた。

 結果、どうなったかと言うと、俺は兄貴に思いっきり絞られた。そして今、真由子さんと一緒に喫茶店の二階、真由子さんの居住スペースにて待機していた。

そういうことがあったのね。ありがとう、颯太君

 兄貴は実は俺の話を聞いていたらしく、途中からとても怖い顔をしていたそうだ。真由子さんに出されたお茶を飲みながらくつろぐ。

そんな、大したことはしてませんよ

ううん。とても大きなことよ。私も、詩音ちゃんを追い詰めてしまったわね。詩音ちゃんを救いたいとおもうばかりにひどいことをしたわね

 と自分を責めている。野川を救うどころか、自殺の原因というのを作り出してしまったのだ。

真由子さん、野川は感謝していますよ。真由子さんのおかげで自分は様々な価値観を見るようになったとか言ってましたから

 野川の事は、誰のせいだとか責めるものではない。思いが先走っていったのだろうと自分なりに考える。俺が言えるのはそれだけだ。

そう……。詩音が戻ってきたら話をするわ。じっくりと

 兄貴と野川は今、話をしている。大切な話だ。二人がどんな話をしているのかは気になるが、兄貴の名誉のため、俺は大人しく待つことにしよう。

違うようで実は同じ、人間だもの

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