真由子からの質問に俊樹は、数秒待ってから答える。

ええ、愛せますよ

……

 真由子は詩音の過去を語ろうとしたのだが、俊樹の返事を聞いて思いとどまる。恋に対して勇気がなくてヘタレな俊樹が、不確かな事を自信もって答えるとは思わなかったのだ。

なんか、俊樹くん変わったわね

そうですか?

だって、普段の時とは違ったもの。さっきの俊樹くん

詩音ちゃんのことについては自信もっていきたいと思いましたからね。真由子さん、もしかして詩音ちゃんのことについて話そうとしたのでしょう?

 俊樹が真由子に質問する。真由子は首を縦に振った。詩音の過去は避けては通れない話なのだ。

詩音ちゃんの事情は、仕事で聞きましたからね。普通じゃなかったってこととか、あまりいい環境ではなかったとか

ええ。あの子の気持ちは、殺されていたから。亡くなった母、恵梨香さんの教えが唯一の心の支えだったの

 理想の姿であればいいのだ。自分たちの思い通りにならないと、全力で否定をし理想の形にさせようとする。詩音の母親恵梨香と真由子は彼らにとって都合のいい存在だったのだ。

話を聞くと、気が狂いそうですね。信じられないですよ

そうね。あの家はああいうことが普通だったの。恵梨香さんはそれに気づいたから、詩音に色々と伝えたのよ。ああいう人になってはダメって

 表に出ない見えない静かな狂気がそこにあった。あの家にたった数年住んだ真由子は、詩音が毒に侵されないように支えた。

でも、私が心配する必要はないわね。なんか安心したわ

そうですか

でも、結婚は早くとも高校を卒業してからよ。いいわね?

 と母親として釘をさす。詩音の自立を少しは認めつつもまだまだ見守るつもりだ。

ええ、そこはわきまえていますよ。ご心配なく

 二人は帰路につく。晴れ晴れとした気持ちを抱えて車に乗り込んだ。

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