部室の外の階段に呼び出された左山歩夢(さやまあゆむ)は、部員の一人に呼び出されていた。
琴絵もボーイッシュな印象の美少女だったが、眼鏡をかけ腰まで届くロングヘアを赤く染めた彼女はそれとはまた違ったクールな印象の美少女だった。

僕と付き合ってください!

嫌だ!

・・・即答。

これで部員全員だな・・。まったく。なんでこんな奴ら誘っちゃったんだろうな・・ホント。

そりゃないぜ。ほむほむ~・・・

ほむほむ言うな!まあ俺が誘っておいてなんだが・・・この部活やめるから・・あとはよろしく。

え~・・。そんないきなり・・。

まあちょっと前から考えてたことなんだけど・・・ごめんな!

そういうと彼女はくるりと振り向くとすたすたと歩いていった。
速足だったその歩みは、スタスタからツカツカといった印象に変わっていった。

そしてその足は職員室に向かっていった。

失礼します。

職員室に向かった彼女はノックをして入室すると、周りを見回した。
富永先生を探すと同時にあることを確認した。

先生・・・退部届ってどこにありますかね?

退部?・・・あんた部長でしょ。

たった今やめてきました!

・・・理由は?あなたの両親からは学校に寄付金ももらってるし、部活に関しては便宜を図ってやってくれと言われてるけど。

部員全員にコクられました。

・・・あ~。そりゃ居づらいか・・でも誰かと付き合うという気はないわけ?

先生・・わざと言ってます?それ。

彼女は怒りをにじませながらそういった。
だがその原因は自分にもある。

彼女が作った部活はゲーム研究部。
ゲームで遊ぶだけのような部活は富永にとっては反対の立場ではあったが、校長からいわれていたこともあって彼女の申請を渋々承認していた。

~~それが夏休みになる前に部長が辞めるといいだすのだから、富永先生としても嫌味の一つも言いたくなるのもわかる。

しかし・・・美少女がゲームの部活に誘ったんだから、ゲーマーラノベの主人公みたいにゲームに一生懸命になってくれるんじゃないかと期待したのだが、まさかいきなりコクってくるとは。
考えてみればゲーマーラノベなんて全2巻打ち切り~!!みたいなのばかりだから超展開を期待したのかも・・。

そんなことを考えながらもやっとした気分と表情を浮かべていると、富永もそれを察してあまり強くは言わないでおくことにした。

ふう。まあいいわ。
で次は生徒会のアユム様やるの?初年度の生徒会長は立候補から先生が選んだだけだし、みんな内申目当てな感じだから今からでも融通聞くわよ?生徒会長になったら校内での摸造刀の所持ぐらい認めてあげるわよ?

座ったままの先生は彼女の表情を見上げながら、ニヤニヤした表情を浮かべていた。

なんですかそれは・・・確かにこの特別感全開の制服のせいで、”会長”とかあだ名になってますけど・・そんな気全然ないですから。

そういって自分の胸に手をやると苦々しい表情を浮かべていた。
彼女の制服はほかの制服とは違っていた。真っ白のセーラー服はスカートではなくスボンになっており、デザインのもとになった海軍の制服のようだった。
冬服も白い学ラン。ほとんど海軍将校といった印象で、彼女のあだ名は入学当初から”生徒会長”だった。

でもそれだってあなたの両親からの要望に応えたものよ。ジェンダーフリーの観点から男女兼用の制服を通常の制服以外に作ってほしいって。まああなたしか着ないとは思わなかったけどねぇ~。名古屋は灰色があるから白でも行けると思ったんだけど・・・。

まあ制服のこととかに関してはいろいろ感謝してますけどね。学校にも親にも・・・。

少しうつむいてそうつぶやいた。
まあ彼女なりに悩みはあるんだろう。ほかの人にはわからない悩みが・・・。

はぁ・・とりあえず退部届はこれね。
名前だけ書いといて。

そういって棚から退部届とかかれた小さな紙を取り出すと、自分の横にペンを添えておいた。
それを見て歩夢は屈んですぐに自分の名前を書いた。

そういえば・・先生?ゲームする部活ってほかにもあるんですよね。女子だけの部活が。

何?eSports部の事?・・・確かにあるけど・・・あなた・・

その言葉を口に出す前に、職員室の中を確認した。
・・・ほかに生徒はいないようだった。

中身、男でしょ?


でもキョトンとした表情のまま、返事をする。

でも外見は女ですよ?もちろんノンケです!

いや・・・女の子には”ケ”があるんでしょうに。

ありますね~


にやにやと笑みを浮かべる。

(だめだ・・こいつ。)

ふう。それじゃあダメね。うちは女子部ですから。中身は男の生徒を入れるわけにはいきません!

それはないんじゃないの?一応女子だし、男子になりたくてもそもそも18才未満じゃいくら望んでもホルモン注射さえ出来ないんだし。

そう彼女はGID。性同一性障害と呼ばれる症状を生まれつき持っていた。
精神は自分は男だと認識しているのに女性の体に生まれる症状。
法律改正により性別は変更できるようになったが、そのための要件・・性別適合手術を受けるなどを満たすための”治療”の道は現状では未成年には閉ざされているのが実情だ。

確かにそうね。ただ入部に関しては顧問である私の独断で判断できます。トラブルを持ち込んでほしくないの!

正直な気持ちだ。それに自分自身、彼女を純粋な女性として扱えるか自信もなかった。
ゲーム研究部に比べて比較的指導もしているからなおさらだ。

さっきも言いましたが先生や学校や親には感謝してます。特にお金に融通が利くのは運がいいと思ってます。成人になったらすぐに手術だって受けられるだろうし、スカートを穿かないで済む高校に通わせてもらった。でも夢だってあります。この学校に入ってからできました!

夢?どんな?

GIDとして有名になる事!

はぁ?

先生!eSports部でアイドル活動をするそうですね?!

まあそうだけど・・・アイドルになりたいわけ?

正確には女性の見た目を持った自分をできるだけ露出させたい。そして高校を卒業した後に男性になった自分も有名にしたい・・・そういうのが夢です。まあ今はアイドルだと思ってくれていいです。

でもほかにもアイドルデビューの予定はあるわよ。チア部と軽音部と・・・

それ私に向いてます?

検討している部活名をすべて挙げる前に言葉をさえぎって聞いてきた。
確かにゲーム研究部に所属していたこの子ならばeSports部が一番合っているのだろう。
それにDirtybombをプレイしていくならチーム戦においてもう一人必要になるというのもある。

でもなぁ・・。

富永としては先生として反対だった。
現状でも特殊な制服を彼女だけが着ていることでGIDやレズビアンなのではないかという疑いが生徒の中で出ていることは感じていた。
当然それは本人も感じているだろうが、スカートを穿くことに比べれば大した我慢ではないと・・・。
つまり”我慢させている”・・ということだ。

GIDとして彼女が有名になることを目標にしているならばなおさらだ。
より好奇な目でみられることになるだろうし、それはどんな結果になるかわからない。
それにアイドル活動といっても所詮は地下アイドルレベルの活動になるだろう。つまりはファンをどの程度獲得できるか?にかかっている。
中身が男のアイドルなんて自分を絶対に恋愛対象としてみてくれないということだ。
まあそれがいい方向に向くこともありえるが、富永にはそうは思えなかった。

ふう・・・わかったわ。ただし条件があります。

条件?

女の子として通しなさい。
部員にも当然秘密。ボーイッシュなキャラは足りてるから女の子を演じきってみなさい!それが条件。
つまり部員に中身が男とバレたら退部してもらう・・・これでどう?

・・・・一つ質問が・・

何?

こういう制服を着ている理由付けが・・レズビアンを演じろってことになるのか?

う・・確かにそうなるかな?ただレズビアン演じてる子もすでにいるから・・

人材豊富ですね・・その部活。

顎に手をやり少し悩んでいる様子だったが、すぐに決心したようだ。

わかりました。じゃあレズビアンしてみせます。本意ではないというか、まあ実際に女の子好きですけど。

あの・・・バレちゃだめなのよ?


心配そうな表情で念を押す。

大丈夫でしょ。普通の人はLGBTの違いも判りませんよ。

彼女・・いや彼にはもう一つの目標があった。
性適合手術を受けても・・・つまり子供が産めない体になっても自分を好きになってくれる女性を探すこと・・。

・・自分の本質を見抜いてくれる人が現れるならそれはそれで・・・

そう小さくつぶやいたのだった。

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