翌日。少し早めに登校すると、みんなを集めて職員室に向かった。

しつれいしまーす。

あら?早いのね。

富永先生は職員室入口近くの席でコーヒーを飲んでいた。

まあ、PC移動させるには少し早めにと思ったんですけど、どれくらい早く集まるか打ち合わせしてなかったですから、みんなちょっと早く来すぎちゃいました。

そっか。じゃあ私の車の中にまだ積んだままだから、みんなで部室に運んじゃおっか?
・・そうだ。左手コントローラも届いたから、誰か荷物が少ない人持ってね。


指さしたそこには大きな段ボール箱があった。琴絵が持ってみると大きさの割には結構軽かった。車のカギと、壁に掛けてあった部室のカギを取って先生を先頭に移動を始める。

あ。し、失礼しましたー!


その後授業が始まる前にと、部室と駐車場を全員で2往復して荷物を運び込む。

これで全部ね。・・・ところでこのPCは誰の?


麻衣子が見慣れないPCを見て問いかける。確かに昨日買ったPCやみんなの家から持ち出したPCとは違うものが一台。

あ、それあたしのよ。


富永先生が答える。

あれ?先生もプレイするんですか?


顧問といったらみんなのコーチをするか、名ばかりで部室には出てこないイメージだ。

まあたまにはね。それに今は部員が少なくて対戦相手にも困るでしょ。

部室のカギを締め、それぞれの教室に戻る。

先生もやっぱゲームやるんだ。

ん?ゲームCG科の先生でしょ。普通にやるでしょ。

麻衣子がつぶやいているところに、隣で歩いていた琴絵が答える。

いや~授業中の先生の話を聞いてるとゲームをプレイすることはあんまり薦めてないんだよね。
ゲームを作るのとプレイするのはまったく別の技術だから、ゲームで遊んでる暇があったらゲームを作るための技術を身につけなさい~~みたいな。

ふむ。まあ正論だよな。

それにゲームの話題やゲーム業界時代のエピソードとか振ってもあまり話題に乗ってくれないというか。ゲーム業界でいろいろあってゲームが嫌いになったのかな~とか思ってたよ

まあ、確かに好き嫌いはあるよな。あたしらだってゲーセンで格闘ゲームとかやってると変な目で見られてる意識あるじゃん?女性のゲーム開発者って少ないって話だし、なんか嫌な部分もあるんじゃない?

そっかな?

まあBlackllightってのも調べたら日本じゃ正式にサービスされてないみたいじゃん。日本人がほぼ居ないから気楽にプレイ出来るってのもあるんじゃない?

ああ、それはあるかもね。確かに先生がプレイしてるゲームを生徒にばらしたら、みんなやってきてめんどくさいかも。

だろ~。ま、プライベートで遊んでるかもしれないから内緒にしとこうぜ。

そだね。じゃあ放課後にね~

いや、昼飯にいくぞ。


そして放課後。とりあえずセッティング済ませた持ち込み組は、PCの組立やパーツ交換を手伝っていた。
そこに先生登場。

みんなPCの準備できた?

まだですよ。一から組み立てるマイコはOSのインストールもあるから夕方までかかりそうですね。

だよね~。じゃあ手の空いてる人はSteamIDのアカウント作成からしてもらおうかな?

SteamIDって?


一番ゲームには疎そうな沙織が聞き返す。

ゲームのダウンロードサイトのアカウントだよ。販売してるゲームも多いけど基本無料のゲームも多いのでID取ればゲームが遊べる。ほら。

友紀が答えながらSteamのサイトを表示する。

もしかしたら部活でゲームを購入して、歴代の部員で使いまわすかもしれないから新規のID作ってね。

IDの名称はどうするんですか?


さっそく登録画面になっている友紀がすかさず聞いてくる。

そうねぇ。まあ部活用のIDは連番でいいかな?ニックネームは後で変更できるし。

ニックネームの方は何でもいいの?

まあ、あんたたち未成年だからね。本名に近いものじゃなければ。ゲーム中にお互いを呼ぶ名前に近い方がいいかな?

コールサインですね。


にやりと友紀が答える。

そうだ。部活の紹介用ウェブサイト作るみたいだから、順番に写真撮ろうか?

え?

ああ・・・もちろん嫌ならいいわよ。

え、まあ学校がやることだし嫌ってことはないですけど、本名とかまでは載せないんですよね?

そりゃまあね~。

そしてちょっとした沈黙の後、続けて意外なことを言い出した。

あ。でもアイドルデビューしたときは本名も出るかも・・・

はぁ?!!!

部の全員がそれぞれ違った表情を浮かべて富永の方を振り返る。
友紀はジト目、麻衣子は驚き、琴絵はあきれ顔、沙織はキラキラとした期待の目だ。

あれ?アイドルデビューイヤ?まあ選ばれるとは限らないし強制じゃないから本人か親の反対があれば当然・・

嫌とかそういうことじゃなくて!!

いいじゃん。アイドル。流行ってるし。リアルラブライブって感じ?学校に協力しなさいよ。

ニコニコと気軽な感じに答える。

アイドルデビューと言ったって、サウンドエンジニア科の先生が楽曲作って、それを声優科の生徒を中心に歌わせて、CD作るってだけよ。

そんな計画が・・・。


沙織を除きあきれた表情で先生の話を聞いている。

でも実際のところ声優科の生徒で優秀な子を選んで、普通の恋愛がどうだのって歌詞の曲を歌わせるのは学校としては正直どうなのよ?って話もあってね。部活のテーマソング的なのはどうかってことになりつつあります。ハイ。

え~~~~・・・


きょろきょろと見まわし、一部を除きみんなのテンションが下がり気味なのを見ると、追い打ちをかけるようにこう切り出す。

そういえばウチの体育館、外側の出入りのすぐまえに使ってない門あるよね。

・・・・まさか。学校でライブでもする気ですか!?

ピンポーン!まあCD作るのだってタブン1年後ぐらい。校内イベントだってやる予定はまだ全然立ってないけどね。

ま、あんたたちが選ばれるとは限らないし、まあ学内でアイドル的な活動をさせようってのもあくまで学校でアイドル的活動して、それで芽が出ないならアイドルを目指さない方がいい、むしろあきらめさせるべきってのが校長の考え方だからね。

へ?校長が・・?

そ。アイドルなんてどうせデビューできたとしても20代の間だけだかね。むしろアイドルを餌に若い女の子に接近して性的搾取しようとしている輩が多いのが問題だと思ってるみたい。

まあ確かに。声優科の子ってアイドル的な部分に憧れてる部分が多いですわよね。

それまでキラキラとした目で聞いていた沙織が真剣な表情になる。

この学校で1番になったり話題にならないようなら、残念ながらそこまでじゃないかな?
夢をあきらめないというのは大切なことだけど、ゲームやアニメ学科のような技術を蓄積するタイプの夢と違って、少なくとも時間とともに魅力が落ちていくアイドル的な活動に関しては高校3年間頑張って有名になれなければあきらめた方が本人の為だと思うのよね。


沈黙と少し重い空気が流れる。

で、写真撮るの?


それを察してにこやかに先生が問いかける。

まあ、今の話聞いちゃったら声優科の私たちは取るしかないんじゃないでしょうかね?

まあな~。


沙織が琴絵の方をちらっと見てため息をつく。

いいですよ。私は。


友紀がそう答えると麻衣子も続く。

そうね。声優科のメンバーだけ顔出して、私たちがシークレットでウェブサイトで表示されるのもどんなブスなんだって勝手に想像されかねないしね。


そういってPCの組み立て作業などがない人から順番に先生のiPhoneで写真を撮ることにした。
何枚かホームページの素材になりそうなカットをと、あらかじめ構想があったようで、さくさくと撮影は済んだ。

とりあえずこんな感じかな。

それ、ウェブサイトにするんだよね?サイトは学校で作ってくれるの?

ん。うちの旦那がね。
どうせ暇だし。


そういった瞬間に先生のiPhoneの着メロが鳴る。洋ドラでよくある・・というか24のCTUの内線音・・アレだ。

う・・・ちょっといい?

そういうと電話に出る。

なによ。写真は自動的にアップロードされてるでしょ?・・なにもっと送れ。キワド・・・ふざけんな。


言い終わるか終わらないかのうちに、力いっぱい通話終了ボタンを押して電話を切る。

・・・ウチの旦那が一番危ないかもしれないわね。

その後、全員のゲームでのニックネームなどを決めてテキストで送信。夕方になってPCのOSインストールが終わる頃に、もうWEBサイトができたようでURLが通知されてきた。
それはまさにアイドルのファンサイトといったデザインになっていた・・・。

・・・eSportsの部活の紹介サイトなんだよね。これ・・・。


先生のiPhoneの画面をのぞき込んでいた全員だったが、無言で帰る準備を始めた。

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