その翌日。
授業が終わるとすぐに友紀は旧実習棟のコンピュータールームの前に来ていた。
まだ誰もいないようで部屋には鍵がかかっている。

この学校は以前は普通の工業高校で、実習をするための実習棟があった。
だがアニメやゲームなどの専門学科が中心になって、ライトテーブルやタブレットコンピューターがあれば通常の教室でほぼ対応できるようになった。

声優科の防音のレッスンスタジオだけは元自動車科のガレージ部分の実習棟が改装されて設置されたが、従来の大部分の実習施設は生徒の部活動に対して開放されるようになったようだ。

(こんな部活だけの部屋があるなんてアニメだけの中の話だと思ってたけど・・・)
そんなことを考えながら友紀はぼーっと教室の前で待っていた。

あら?e-sports部の部員さん?話は聞いてるわ。面白いこと考えるわね~

背後から声をかけられてびっくりする友紀。
声の主は富永恵だった。
友紀としてはまだ部活に入ると決めたわけじゃないので返答に困ったり、学科が違うので初対面の教師にどう返事をしたらいいのか戸惑ってしまった。

あれ?違うの?

戸惑っている友紀をみてとりあえず自己紹介する。

私は富永恵。CG科の教師よ。
一応e-sports部の顧問も請け負っちゃったのでよろしくね?

あ、はい。私は森友紀。アニメーター科です。まだ部活に入るって決めたわけじゃなんですけど、一応・・・

(ふーん。ヤマトのキャラのイメージと随分違うわね。無口ジト目キャラ?)
(顧問の先生だったんだ・・・なんか先生っぽくないなぁ・・)

お互いこんな失礼なことを考えていると麻衣子と琴絵がやってきた。

ゴメーン。先生と森サン!
マイコの掃除当番終わるの待ってたら遅くなっちゃった

ん。今日は鍵を持ってきてあげたケド、次からは職員室に取りに来てね。

は~い

富永が彼女たちに一応注意しておく。

じゃあ入るわよ

鍵を開けて中に入ると大きなプロジェクターのスクリーンと、アナログモニターが埋め込まれたコンピューターテーブルが全部で40台、整然と並んでいた。

おお~

琴絵たちは感嘆の声を漏らす。

なんか司令室って感じです!

だな!

確かにそういった雰囲気がある。
窓がなくプロジェクターの為に劇場のような照明になっているので、独特な雰囲気がある。少なくとも麻衣子たちにとっては初めて見る雰囲気の部屋だ。

ココ使っていいんですか?っていうか何でこんなゲームで遊ぶような部活がOKなの?

何でって・・・

この際なので麻衣子は先生に疑問をぶつけてみる。
CG科の麻衣子にとっては担任の先生なので、割と話しやすいようだ。

一つにはゲーム系の学科ではタブレット端末を自分で購入して使うことで、以前のコンピュータールームが使われなくなったことと、こういうアナログモニターやプロジェクターの設置されたこの部屋の改装するだけの予算がないからね~

実習棟の各教室は実習用の機材やそれらの保管場所もあり一部屋ごとはかなり広い。
各クラブの部屋として解放するにあたって新たに壁を設置して部屋を増やしたわけだが、このコンピュータールームだけは構造上、手つかずのままだった。

それと校長先生がかなりノリ気みたいでね~

苦笑いするような表情で富永はポソリとつぶやく。

校長先生が?

なんでといったような表情。麻衣子たちにとってはただゲームで遊ぶための部活なのだから。
その表情を察してか、富永は説明を補足する。

私立なのでできれば甲子園常連の野球部みたいな部活をしてほしいみたいなんだけど・・・

運動は苦手な感じだよね・・

言葉を濁す富永に麻衣子も察した。
確かにこの学校はオタクばかりで体育会系の生徒は本当に少ないって印象はある。実際に生徒会が活動していない初年度は部活申請すればすぐに認められそうだが、そういう部活を作ろうと話し合ってる動きは少ないようだ。
以前先生もSOS団(○○な奉仕団体)とかごらく部とか帰宅部とか手探り部とか申請するのやめろっていってたし。

だから日本で始めてで来年以降の受験者にアピールできそうな部活に期待してるみたいなのよね~

なるほど。よくわかった。
確かにこのアニメにしか出てこないような部活用の元実習棟もそうだけど、確かに部活で選ぶってところはあるもんねぇ・・私達。

この学校が受かってなかったら、アニメ同好会とかはこの近辺に学校にはなかったから少なくとも漫画研究部のある学校を選ぼうと思ってたし。
私の場合セーラージャケットの制服が変わってて可愛かったというのもあるけど。

でももう三人も集まってるのね。わりとハードル高いと思ってたけど。
あなた達が3年生になるころには、もしかしたらこの部屋の40席埋まるかしらね?

なんかすでに森さん、部員にカウントされてるよ。
まあ多分大丈夫だと思うし、私達が彼女のゲームの趣味に合わせれば続けてくれるとは思うけど。

あと最低2人か・・・大会とか考えると実力重視だけどそもそも大会がないからなぁ

校長先生の真意はともかく、e-sports部でメジャーになれるのかしら?私達・・そもそも男子にゲームで勝てるようなメンバーが女子だけで集まるとは到底思えないけど。
そんなことを考えているとしらっと富永先生がとんでもないことを言い出した。

まあ声優科のコをテキトーに誘えばいいんじゃない?
面接重視でカワイイ生徒を選んだって言ってたし。校長。

え~っ!あのウワサ本当なの?!

いや・・・それって実力で大会を勝ち進んで名をあげるってわけじゃなく、女の子がゲームで戦うところを重視してるの?
いわゆる戦って歌えるラブライブな部活なの?私、そーいうの自信ないんですけど。
・・・ドユコト?

でもまあこれでひとつわかった。

なるほどね。まあ”バカ”でも入学できるみたいだし。

おい!

コトチンの方を見てぼそりとつぶやく。
まあ私立とはいえこういう学校なので初年度なのに意外に受験者は多かった。
私は元々そこそこ勉強できたが、おバカでゲームばっかりやってたコトチンが私が受けるからって受験してあっさり受かってたのが腑に落ちない・・というか納得行かなかったんだよなぁ~。

・・・えっと。いや、女の子はバカでもカワイイほうがいいですよ。

黙ってみていた森さんが珍しく発言を。
でもそれ・・それあんまりフォローになってないから。というか森さんの中ではコトチンはお馬鹿なコと認識されちゃったみたいだ。まあ事実だけど。

そりゃどうも。

複雑な表情をするコトチン。
でも校長の思惑から言うと可愛くてゲームが上手いコトチンがあきらかにエースなんだよね。私達お邪魔なんじゃないかしら?

まあそんな贅沢は言ってられないね。これだけ立派な部室があるならまずは部員を増やさなきゃ。

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