お父さん、はい

おう


 俺が子供の頃から変わらぬやりとりが、今もそこにある。綻んだ作業着が、津軽の農業の厳しさを静かに語っているようだった。

 父は俺が帰ってから一日半、母を介してしか会話をしていない。

 俺がいない間に結人とも少しだけ言葉を交わしたようだったが、それも一言二言で、無反応に近い反応だったらしい。

 それでも結人は父と会話をしたと喜んでいる。わかってくれていると。

 これがあと一月近く続くのかと思うと頭が痛い。今更ながら、来たことを後悔していた。

 母が結人と仲良くしてくれていることがせめてもの救いだが、母も本当のところはどう思っているのか、確かめることは到底出来なかった。

ふふふ。本当におもしろいね、結人君


 母が結人の言った冗談に笑い転げていた。

息子が二人できたみたい

結人

そうですかぁ


 結人は相変わらずのボサボサ頭でのんびり応える。

ねぇ、お父さん


 母が、父に振り返って言う。

俺は心臓が跳ねる思いがした。恐る恐る父を見やる。

んだな


 父が、コーヒーを飲みながら言った。

 その津軽弁が、

たった三文字の言葉が、

俺の生き方が間違ってなんかいないんだと、

お前らしく生きていいんだと、

ずっと、

お前の味方だと、

伝えていた。

結人

善ちゃん?


 俺は泣いていた。

 結人が不思議そうに俺をのぞき込んでくる。

 母は何もいわずにティッシュを渡してくれた。

 この世に、生きていていいと言われた。

 俺は寒風の中白さを増す岩木山を見ながら、決意を固めていた。

最終話 「〇〇〇」

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