アダムスキー……分かるだろ?
分かってくれるだろ?

最期くらい、潔く終わらせてくれよ……

……お前が死ぬのは、ケリをつけてからだ

…………?

この音、まさか――

おいアダムスキー、今すぐ止めろ
それか、近づけさせないでくれ!

最期くらい潔くなれ

そういうつもりで言ったんじゃねぇよ!

クソ、覚えてろよ……

もうすぐ死ぬ奴が何言ってんだ?

ああ、そうだよな!

ショーマっっっ!!

……なんで、戻ってきたんだよ

だって、あれは貴方の優しさだもの……

……それでも、戻ってくんなよ……

だって……ショーマに何かあったらって思って……
でも、こんな……酷いことに……

うう……

チッ……毒が効いてるからか、大声が頭に響く……

好きな奴の声すら聴けねぇ、か。
これが俺の終着点か……

今……なんて、言ったの?

っ!

い、……今、あたしの聞き間違いじゃ……ないのよね?

今、本当に……

分かったから……もうちょい、声小さくしてくれ

あっ、ごめんなさい……

……

……

……聞こえたんだな?

……うん

……なら、忘れてくれ。
明日には、綺麗さっぱり忘れちまえ

ちゃんと、私に向けては言ってくれないの?

……薄々気づいてたんだろ?

……ええ。だから……

……だから、「これ」が俺達の終着点だ。
お互いに口にしたことが全て。
お互い感じてたことが、全てだ

でも……こんなのって、あんまりよ

ファイーナ!

お、大声出して大丈夫なの?

ファイーナ、こっちを見てくれ

見てるわ! あたしはここよ

もう、よく見えないのか……残り時間は少ないな

――お前は、捨てられる女になれよ?

なぁ、女が一番ものを捨てられないときはいつだと思う?

え……?

……あたし、なぞなぞなんて、してる気分、じゃ、ないの……

――例えば、太ったときだ

痩せてた時の服を取ってたところで着られねぇ、すぐに痩せられもしないのにな

……どういう意味?

それ、あたしのことを馬鹿にしてるの?

いや、別に?

ただ……

何故、「取り戻せるかもしれない」って希望を抱いちまうと、無駄なものまで捨てられなくなるんだろうな?

……

……なあ。

もう今はいない『かみさま』が戻ってくることを祈ってメソメソするより、これからの話をしないか?

あなたのことを……捨てろって、いうのね

どんなに泣いたところで戻ってこないのは同じだ。それなら、前を向けよ

あたし――それでも

 あなたが好きよ。

――これで満足かよ?

さあな?
それはお前が決めることだろう?

そうかよ

……ヘタレ

おっ、お前……言ったな……
それが死にゆく友に対する態度かよ……

最期くらい真面目過ぎない話をしたっていいだろ?

はは……昔言ったよな、お前、俺が死んでもニヤニヤしてそうだなって

そうだったか?

その顔だよ!

見えちゃいないけどな。

っつーか……

……流石に、もう限界だな?

そうだな。祭壇を壊したときに奪った魔力も注ぎ込んだが、もう

いや、これだけ話せりゃ十分だろ。
むしろこれだけの間保たせられるとか、お前人間止めかけてるぞ

お前こそ、最期に友に遺す言葉がそれか?

フフ……

お前に言わなきゃならねぇことは、もう無ぇよ

そんじゃ、あばよ、
アダームシュカ

……あぁ。
じゃあな、ショームシュカ

ショー、マ……

……これから、どうするの

セミョーン・モルチャリンは、行方不明のまま、次第にこの町から忘れられる

俺は、明日ここを発つ。そのうちここに居る奴らも引き揚げさせる

体はそうだな、ここに埋めておくか。もう祭壇も無くなった跡だ

……ずいぶん淡々としてるのね

生憎涙は切らしてる

樹海に入ったときには曇天だった空は

少しずつ晴れはじめ、

すっかり陽の落ちた後から

数日ぶりの月光が真っ直ぐに地面へ降り立つ。




そして、生死を問わず全ての影を

くっきりと浮かび上がらせた。

……あたし、このせいで、一生忘れられないのね。手をつないだことさえないのに……

つと視線を下ろせば、

なぜ今まで気づかなかったのか、

近くの開けた場所で、うっすら白むように

白い花がいちめんに咲き誇っている。

……良い天気だ

アダムスキーは、

その中から一輪の花を手折ると

無造作に放り投げた。

セミョーンが墓前に捧げたのと同じ花だった。

翌日のアダムスキーの静かな出立は、

誰にも気づかれることなく

誰にも見送られることはなかった。












そして、

この小さな樹海に面した町についても、

語ることはもうない。

……良かったのですか?

このようなことを、僕にお命じになって

――赤の女王様。

ああ、よくやった

本来、あの蛇の毒の利き目はもっと強いもの

その毒の回る「時間」の流れを遅くしろ、と……セミョーンとファイーナが対話するのに十分な「時間」を作れ、などと女王様がお命じになったのは少し意外でした

……てっきり、あの二人の仲がお嫌いだったのかと思っておりました

嫌いだぜ?

それではなぜ?

分からないか?

樹海は心を惑わすために。

臆病は手遅れを招くために。

朔風は全てを包み込むために。

そして……

言っただろう?
最高に美味いってな

アダムスキーさん!

……外でうるせぇ声を出すな

はい、あの、でも!

ついさっき、セミョーン・モルチャリンの墓が……祭壇跡が荒らされていた、と連絡が……

……遺体が、無くなっていたそうです

そうかよ

それから、失踪事件も起きていると……あのときの女です

どうされますか?

アダムスキーは、答えずに

眼を閉じる。

――馬鹿な女だ

……?

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