4、術者は化ける相手の記憶や癖を引き継ぐことはできない。
蛇は煙草や刺激物を嫌う……
誰でも知ってることだ。もっと気をつけるべきだったな
……
おかしいと思ったのはそこだけじゃないぜ。もっと前から、随分とボロを出してたからな
4、術者は化ける相手の記憶や癖を引き継ぐことはできない。
イリヤは、妹のことを『リーリヤ』と呼び捨てることはほとんどしなかった。ほとんど親称の『リーレニカ』で呼んでたぜ?
……一方お前は、泣き崩れてみせたときですら『リーリヤ』だったな。
随分と寂しいじゃねぇか
これはファイーナにも怪しまれてたぜ?
――DAY 5――
「紫煙2」
…………?
さっきの間に、何故かすごく違和感を覚えたんだけど……何かしら
私は愛称ってことで「リーリャ」って呼んでたけど、イーリャは……
……まあ、つまり、こういう時の犯人捜しは、魔術や神話生物、謎に惑わされず、化けている相手のボロを探せってことだ
……
それから、細かい話をすれば
『すみません』
『ごめんなさい』
……お前の言い方はいつもそうだ
一方、イリヤの口癖は
『すいません』だった
――DAY 0――
「24時半の来訪者」
はあ、寒かった……
すいません、予約していたイリヤです。
イリヤ・イリイチ・パヴロフ
――DAY 1――
「『かみさま』」
……面倒臭い
すいません、でも
――DAY 1――
「もう一人の男」
いえ……僕こそ、すいません。さっきはありがとうございました
――DAY 3――
「樹海と邂逅」
あっ、アダムスキーさん……
すみません、でも、リーリヤがここを通ったんです!
あの日あの時からだ、イリヤに違和感を覚えたのは
……
よくお互いを知ってる町人ならともかく、来たばかりの少年なら多少癖や性格にズレがあっても気づかれないと踏んだか?
いや、入れ替わったときにはそんなこと考えちゃいなかったか
あのときは焦ってたんだろ? 隠蔽工作を徹底する余裕もないくらいにな。
なんせ、あのときに入れ替わったんだからな
!
森小屋で見えなかった言い訳も苦しかったが、それよりもまず、お前の髪だ
あれだけ寝相の悪いイリヤが不安定なところで居眠りして全く髪が乱れてない、ってのは不思議で仕方なくてな
暖炉にこじつけて現場を見に行ったら、机上には鉛筆の似顔絵だ
まあ、「頬にひとつも鉛筆の跡が写ってない」ってのは、根拠としては薄いが、きっかけとしちゃ十分だろ?
……
イリヤが森小屋に来てから、俺が来るまでの間。
そこで入れ替わったんだろ?
そして、まだ痕跡が残ってる樹海奥へ俺を入れさせないために、イリヤの姿で引き留めたってわけだ。
「リーリヤを見た」って口実でな
……なぁんだ、そんなすぐに気づかれてたのか
イリヤの顔をしたそれは、
気の抜けたような声で言う。
でも、薄い
その程度なら全部、『たまたま』で説明はつきますよね
僕の発言も、聞いたって言ってるのはアダムスキーさんだけ。
この町じゃ一番信頼性の薄い人だ
それに記憶違いかもしれない!
そうだな
アダムスキーはあっさりと引いた。
?
で、似顔絵はどうした?
……あー……
まさか『イリヤ』が、あれから何日も経って完成させてないはずがないよな?
イリヤは画家を目指していても不思議じゃない腕だったが、お前は手本もなしにそれを真似て完成させられたのか?
なんなら今から描いてくれてもいいぜ。記憶じゃなくてモノなら証拠になるんだろ?
……やっぱり駄目かぁ。
……それで、約束は果たしてくれるんだろ?
?
答えろ
何故お前は俺の話に乗ってノコノコと樹海に来た?
そして何故、今までこんな演技を……茶番を、続けていた?
あぁ、そんなこと。
今まで、そんなにバレたことなかったんですよ、だから知りたいと思って
どこでミスをしたのか、後学のために?
あ、もう敬語使わなくていいのか
……そんなことだろうとは、思ってたけどな。
お前にとってはただの餌だったんだろう、俺にとってもある町でたまたま出会った少年ってだけに過ぎない
だがな、それでも許せることと許せないことがある
……イリヤの姿でリーリヤ嬢ちゃんのことを心配だ、なんて抜かしたとき、お前は俺の第二の逆鱗に触れた
ふーん。それで?
……
敵でも討つ気で呼び出してたり? ひょっとして、僕を
いや、俺を殺す気で?
ああ、さっき、蛇人間を4種類に分けたって言ってたっけな?
たしか、退化種・ドリーマー・スリーパー・潜伏者?
で、あの話の先、何を言おうとしてたって? 結局俺の正体は分かったのか?
正解は「潜伏者」。
解説の時に『強者』って言ってくれたよな?
人間の魔術師ごときが勝てる相手と思ったのか?