……お、落ち着きまし、た……ぐ、す

……

……こ、このためだったんですね、すぐにリーリヤのことを、言わなかったの

何の話だ？

「蛇人間は、殺した人の魂を従属させる」

……落ちこんだままじゃ駄目だ、って言いたいんでしょう？

……さあな

まだ、リーリヤは魂を囚われたまま、苦しんでる。
絶望で無気力になるより、まずはそれを救ってやれって、ことなんですよね？

どうかな。俺は、そこまで優しくないぜ

……アダムスキーさんは、偽悪(ぎあく)的というか……悪者になろうとするんですね

……そんな大層なもんじゃないさ

……今度こそ、教えてください。どんな根拠で、誰が犯人なんですか

……そうだな

潮時……いや、我慢の限界だ

いくら俺でも、これ以上こんな会話を続けてたら、気が狂っちまいそうだ

え？

たかが組織の犬にできることなんて限られてる。全ての人間を思い通りに動かせるわけでもねぇ……

ずいぶん辛抱強く生きてきたつもりさ。逆鱗に一度や二度触れられるくらいなら耐えられる

……だが、三度はないぜ

え、

お前はどうだ？

……

……よく、分かりません

……そうか
お前はまだ、大丈夫なんだな

……

……アダムスキーさん？

……あ、ああ。まだ大丈夫だ

……アルセニー・エリコヴィチ・ロバチは、俺の古くからの知り合いだった

え？

名義の「親」は確かにシャルロッタだが、サスリカで生まれ育ったわけじゃない。それどころか、若くしてこの町に来たと見せかけて、そこそこ年を誤魔化していたのさ。そんな様子、この町じゃ一度も見せたことはなかったがな

……知りませんでした

もちろん知らないだろうな。アルセニーも俺も一切ボロを出したつもりも無かったし、予想もできなかっただろう

……どんな人だったんですか？

簡単に説明するのは難しいが、優れた魔術師で、俺の師匠でも友人でもあった

親がいるとはいえ、サスリカなんて辺鄙で特に力もない町で余生を過ごすことにしたと聞いた時は驚いた

じゃ、じゃあ３年前は……？

俺をサスリカへ呼んだのはアルセニーだった

静観していたが、儀式でこれ以上の犠牲者を出さないために動くことにした、力を貸してくれ……と

アルセニーさんも止める側……神話生物を追い出そうとしていた側だったんですか？！

……俺はアルセニーを助けるつもりだったが、アルセニーは俺を助けるつもりだった。
師匠を身をもって救うのが弟子の務めだと思っていたのを、諭されたのさ

…………

……あの男が町人を恨むことも、こんな幼稚な手段で事件を起こすことも、考えられなかった。
アルセニーに誰かが化けてることは、確信してたさ

アルセニーの死を汚したこと

これが第一の逆鱗に触れた

……どうして、今この話を？

ちっとはアルセニーが犯人じゃないって根拠になるかと思ってな。お前は納得できる理由も欲しいんだろ？

……でも、この紙のことが気になってて

……その紙か

確か表にアルセニーの似顔絵、裏に「助けて」と文字があったんだったな？

そうだな、まず、紙が見つかったタイミングで嬢ちゃんはすでに、助けを呼べる状況ではなかった。嬢ちゃんが隙を見て落としたわけではない

それは、はい

そして、吹雪の中無事だったことからも、置かれてから間もなく拾われたと考えられる

……夜だぞ？　都合が良すぎないか？

そう、でしょうか

まあ、そこは置いておこう。少なくとも、この紙を落としたのは犯人の可能性が高いことは変わらない

この助けを求める言葉は嬢ちゃんが人目を盗んで書いたものか、あるいは、嬢ちゃんにわざと書かせたか。
どちらかだ

……どっちにしろ、なぜこんな似顔絵が？

嬢ちゃんは蛇人間に捕まる前、行方不明になった町人の顔を真似ていた

写真なんて上等なもの、あるはずもないこの町で、行方不明者の顔をどうやって知ったか？

きっと、町人に顔の特徴を聞き、似顔絵を描いたんだろうな

そしてそのついでに、シャルロッタに聞いた息子の顔も描いた

……

蛇人間に囚われたものの、なんとか隙を見て、たまたま手元にあった落書きの裏に、文字を書いた。だが、それを誰かに届けることは叶わなかった……

まあ、確かめてはいないが、可能性は低くないだろ？

……

ここの根拠は多少曖昧だが、『犯人が犯人で間違いないという根拠』は確たるものが揃ってるぜ

……聞きたいです

じゃあ、前座は終わりだ。
なぜ「犯人」が分かったのか、丁寧に教えてやるよ