昨日さぼった罪悪感のせいか、朝の爽やかな光景に引け目を感じる。それともただの寝不足なのかな。
朝方まで蛹室物語を読み進めていたけど、まだ何の手掛かりも得られない。本当に読む意味があるのかって思えてくる。でも今出来るのはそれくらいだし、やっぱり気にならないと言えば嘘になる。
今日は寄り道しないで帰って続きを読もう。
昨日さぼった罪悪感のせいか、朝の爽やかな光景に引け目を感じる。それともただの寝不足なのかな。
朝方まで蛹室物語を読み進めていたけど、まだ何の手掛かりも得られない。本当に読む意味があるのかって思えてくる。でも今出来るのはそれくらいだし、やっぱり気にならないと言えば嘘になる。
今日は寄り道しないで帰って続きを読もう。
ふぁ~ぁ、
やっぱり眠たいな。
ホームルームまで
時間あるからちょっと寝よ。
――ここは何もない場所。
視界に広がる風景は、どこを向いても何もない場所だった。そしてこの何もない場所から私は抜け出す方法が分からないでいる。
こんなにも広いのに閉塞感で締め付けられそう。無知で無力な私はただ怯えることしか出来ないでいた。
はっ!?
……夢か……
凄く嫌な夢。眠ってスッキリするはずなのに、別の何かがこの現実に纏わりつくような夢だった。
あれ?
もう12時?
大神さんどの先生が
注意しても
起きなかったんだよ。
よっぽど疲れてたんだね。
ごご、ごめん、
多分授業の邪魔しちゃったね。
恥ずかしい…………。やっぱり寝ないと駄目だ。午後からはちゃんと授業受けよう。あ、あれ?
ねぇ、アゲハはお休み?
そうみたいね。
もう卒業前だし、
来てない子も
ちらほら居るよね。
あと正木君もだね。
昨日もそうだったから
大神さんとデートでも
してるんじゃないかって
皆言ってたよ。
キャー♪
……ぇ
龍太郎も…………
二人とも昨日も休みって……………
私はすぐにクラスメイト全員に、龍太郎とアゲハに連絡を取ったか確認した。そして直ぐに電話を鳴らしてメールを送った。
男子が龍太郎にメールを送信したみたいだったけど、そっけなかったみたい。アゲハも同じ。そして私の電話にも反応はない。
二人とも今日も昨日も休み。龍太郎に限っては、日曜も家に来るって言って来なかったし、それじゃ三日間誰も会ってないってことに…………
え!?
大神さんごめん。
冗談、冗談だって。
…………
はあっ、はあっ
るりと一緒だ。ある日を境に、誰とも顔を合わさなくなってる。
メールでしか接触出来てない。
るりは先週の月曜の誕生日会を最後に誰とも会ってない。正木先生が扉を壊して部屋に入ったのは木曜日だったから、三日後。
お願い、龍太郎、アゲハ。私の勘違いでいて!
学生寮の部屋に龍太郎は居なかった。
鍵が掛かっていなかった部屋は、私の危惧を爆発的に増大させた。
私は考える前に警察に向かっていた。
頭がおかしいと思われてもいい。捜索願いを出すんだ。
はぁ、はぁ、
な、何?
ある廃屋の周りに人が集まってきている。人だかりの量からすれば只事ではなさそうだが、こちらもそれどころではない。
しかし、走りながら視線の端に飛び込んできたのは、人間の死体だった。
まさか……
自分でも不思議と思えるほどの直感。気が付けば身体は勝手に動いていた。群がる人を押しのけ、その死体を確認した。
このミサンガ……
それはるりの変わり果てた姿だった。
目の前のるりだった塊に嗚咽が込み上げる。
ガリガリに痩せこけたその姿はとても凝視出来るものではなかった。気を失いかけたけど、脳裏に龍太郎のことがよぎった。
あの箱……
あの箱……あの箱に触ってからだ。おそらく龍太郎とアゲハも同じ状態。るりとの時間差は、龍太郎が五日でアゲハが六日。
二人共まだ間に合う。
私は正木先生に連絡して、るりのことを伝えた。そして龍太郎とアゲハの事も話して捜索を任せた。
頭の中がぐちゃぐちゃになって何も分からない。るりの姿が思い出そうとしなくても脳裏を支配する。怖くて悲しくて寂しくて、涙は溢れ出して止まらなかった。
そんな私の足は、家に向かっていた。
『蛹室物語』を読むためだ。
次の日へ続く