家族が嫌いだ。母親を除いた家族が嫌いだ。
 一見普通の問題ないような家族だけど、私は嫌いだ。自分さえ、我慢すれば回っていける家族が嫌いだった。心が届かない自分たちにとって都合のいい正論を使い、温かみなんてないというくらい奇妙で薄気味悪いそんな家族が嫌いだ。

野川 詩音

真由子さん、こんにちわ

 詩音は待ち合わせしていたかつての義母に会う。詩音が高校進学と同時に父親と離婚した彼女は詩音の味方だ。詩音の実母の知り合いであり、今はこうやって墓参りをする仲である。

野川 詩音

さあ、行きましょう

 その日の放課後は詩音にとって大事な日だったので桐子は一人ぶらぶらと歩いていた。そしてあまり会いたくない人に出会ったのだ。成り行きで仕方なく喫茶店で紅茶のストレートをおごってもらった。男は開口一番、捜査が進んでいないことについて謝罪をしてきたが桐子はそれを制した。

謝罪は不要ですよ。というより身の上話を聞くっていうのは初めてですね

そうだな。今まで君たちのことは俊樹から聞いていたからなんとなく知っていたが改めて話をするのは初めてだな

 詩音よりは嫌いではないけれど話をするなら俊樹の方がいい。ああでも、あの人は詩音にぞっこんというか私に対しては何気にひどい事を言うのよね。それを考えると、自分に対してはひどい事を言わないこの男を好ましいと思った。

私にも、君と一緒の高校に通っている娘がいてな。忙しくてなかなか会えなくてね

お仕事、大変なんですね

私もそうだが、娘も仕事をしていてね。まあ、私が原因なんだけどね

 娘さんがどんな人なんだろうと気になっていたら、喫茶店に新しい客が入る。そしてその客は桐子と男がいるテーブルの前に止まる。

お父さん、おっひさー!きーちゃん、奇遇だね

 お前が娘かと桐子は心の中で驚いた。なんとなくおせっかいでぐんぐんと迫っているところが親子そっくりだなあと思った。

きーちゃんとこうしてじっくり話をするのは初めてだね

そうだね。その、お父さんと別々に暮らしているってさっき聞いたけど

いろいろあってこうなってね、今は時間を見つけてお父さんに会いに行くのさ

 環奈は自分たちと違ってとても明るくて悩みなんてなさそうな人だと桐子は思っていた。なんとなく普通の事情を抱えていそうな環奈だが、話を聞いてみると大変だったことがわかった。小さいころに母親を亡くした彼女は、仕事で多忙な父親が育てられないということで知り合いに預けて後にそこの家の養子になったという。

はあ、そういうことがあったのですか

まあね、安立家の人にはお世話になっているからいろいろと役立ちたいところでね

 男の携帯電話が鳴って外に出たため、桐子と環奈の二人になる。少ししんみりとした空気が流れた。

あっちにいってよかったことあったよ。情報収集の方法を学んで世界の秘密についてたくさん知ることができたからね

 ここからが本題なんだけどと環奈は身を少し乗り出して言う。桐子も環奈に続いて身を乗り出して聞く。

きーちゃんとしーちゃんって、殺人鬼を追っているのよね。私もお父さんを助けるために調べものをしていてね

……つまりは情報提供をしたいと?

 桐子は環奈がどんな情報を持っているのか、その情報が信頼できるかどうか、試してみる。まずは、誰にも話していない自分の家のことである。

由緒正しき小邑家の一人娘、本家のことは傍系の方に任せるというか継がせたというのが正しいのかな。そして、過去に大変な事件に巻き込まれたことがあるっていうのが私が知っている情報だけど

……さすがだ。安立家って何者なんだ?

なんか、忍者だったとかそういう家系だったらしいよ。古くから続いているとか

そうなのか

 母親から聞いてみようかと思った。昔社交界に出ていた母だったらそういう話を聞いたことがあるかもしれない。もしくはまたは近くの小邑敬一郎、小邑家の現当主に聞こうか。麻希とひなと将也の様子が気になっていたところだったからちょうどいいかもしれない。

大事な情報だから、何か対価が必要なんだよね?

いいよ、そんなの。学生だから無料サービスサービス。

 環奈は少し声を落として大事な情報を言った。桐子はそれを聞いてああ、やはりと思う。
 自分が気になったことは当たっていたのだ。関係していたのだ。

ちーちゃん、彼女が殺人鬼を追う鍵だよ

 ちーちゃん。小牧千夏。自分は不幸の原因だと言っている彼女。その彼女の過去を、抱えている秘密を追えば、わかるかもしれない。そう、環奈は言った。

わたし、昨日見たんだよ。ほんの一瞬だったけど、ちーちゃんをね

 桐子は詩音に言わなかったちーちゃんを目撃したことを環奈に言った。

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