……

……中に何も、ない?

……

分からねぇか?
俺がさっきから話そうとしていることの意味、その意図が

……分かってたまるか

イリヤの魂と話したと言い出し、俺の視点を探る。

かと思えばいきなり、デコイがどうのと言い出し、機械を壊してみせる――そんな神経が……

――――

――いや、機械というより、これは……

ただの、円い箱だ

言っただろう? これはデコイ。
真実から目を避けるための……な

どっ……どういうことだ

まさかお前の狂言なのか?
何か怪しげな機器を用いて監視されている、そう思わせるために……?

おいおい、落ち着けよ。

落ち着くためにちっとばかし、さっき考えてたことの続きでもやってみたらどうだ?

クソッ……考えが読めねぇ

機械がハリボテだったなんて言って考えを邪魔したかと思えば、また考えてみろと言う……

そもそも、「考えろ」ってことは、やはり俺の言ったのは正解じゃねぇのか?

しかし実際、矛盾はないはずだ……セミョーンも実際、夜には鍵を盗まれたと言っていた……

夜には。

……そうか

あの日、イリヤは見ていた

そうだな

あの、空き家で……

――DAY 1――

「もう一人の男」

ああ、言い方が悪かったな

これって、宿屋の鍵?
家がないんですか?

そういうことだ

……つまり、あの時点ではまだセミョーンは自分の鍵を持っていた

しかも、その後しばらくイリヤと話をしていた……

その後イリヤと別れた後のセミョーンから鍵を盗んで、シャルロッタが帰ってくるまでに犯行を終わらせた?

ありえないこと、とまでは言わないが、シャルロッタが連れ出されていたのはイリヤが飯屋「ミラ」にいた昼時だ。それからしばらく経ってる

シャルロッタがいつ戻って来るか分からないのに、そんな危険なタイミングでことに及べるものか?

そこそこ早い時間に落としたのなら、セミョーンは空き家に探しに戻るはずだ。つまり、あの後すぐとも考え辛い……

混乱してるところ悪いが……

コレの話は終わっちゃいないぜ

……また邪魔するか。
それどころじゃあ……

……いや、無関係ではないと言いたいのか?

どうだろうな?

だが、聞けばきっと、さっきまでの疑念なんかどうでもよくなるぜ

……大した自信だな

自信? お前は面白いことを言うな

自信なんかじゃない

確信さ。

――DAY 1――



宿屋『サスリカ』前




あの夜。



注文通り、だな

アダムスキー・アバルキンが

あの奇妙な機械──

──に見せかけた、ただの仕掛け箱

の中から取り出したのは、

2号室の鍵だった。

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