――DAY 3――
午後
ファイーナ宅
――DAY 3――
午後
ファイーナ宅
リーリヤの来訪と時を同じくして
ある教団の魔術師がサスリカを訪れていた
教団・魔術師の狙いはリーリヤであり
彼女をサスリカに呼び出したのも
教団の可能性が高い
教団の規模は小さく
人材や生贄を欲していたものの
問答無用で連れ去るほどの荒事は避けていた
リーリヤに対しても
まずは観察・対話を試みようとしていたようだ
その魔術師はセミョーンによって
リーリヤの到着前に
無力化されていた
魔術師以外に不審な人物が
泊まりに来た記録はない
サスリカは無神の地
様々な神話生物から介入されやすい
ねえ、もし5日前……セミョーンが来る2日前に連れ去られた、としたら、私が昨日の朝にリーリャちゃんを見たのって、変よね?
ああ、変だな
行方不明になったタイミングじゃこの町からは連れ去られてない?
……でも、あのとき、誰かに助けを求めようとしてるふうじゃなかったの!
ねぇ、本当にリーリャちゃんがいなくなったのってセミョーンが来る二日前の日で合ってるの?
私は昨日まで見てなかったけど、誰か見た人は……
他の町人の証言でも、同じだった
そう……
嬢ちゃんが、自主的に教団に協力してる
……そう考えてるか?
そんなこと……ない、と思うけど……
俺も、ないと信じたいな
セミョーンは頭を掻いた。
俺が調べた限りでは、教団にもあれ以上の怪しい動きは無かった。嬢ちゃんの目撃証言も噛み合わねぇ……
目撃証言がずれてる? ……タイムスリップする呪文でも使ったんじゃないかしら?
出来なくはないが、大勢で一時間以上唱え続ける呪文か、未来の人物と精神だけを入れ替える能力の……いや、あの教団にイースを利用できる能なんて無ぇな
難しそうなのね。
じゃあ逆に、その教団は何ができるの? どんな教団か言いたくないなら、それだけ教えてよ
……
セミョーン?
……ちょっと確認していいか
なあに?
お前、もう『かみさま』のことは……ノフ=ケーは、信仰してないんだよな?
今更?
ファイーナはひとり席を立つと
ステンドグラスの小さな飾り窓の前に立った。
ねえ、初めてあなたがあたしの家に来たときのこと、覚えてる?
ああ、もちろん。俺達が初めてまともに話した日だ
セミョーンは即答した。
あのとき、落ち込んでたあたしに言ったわね。『気休めを聞かせてやろうか?』って
家に上がり込めるとは思ってなかったけどな
何も危ないことされなかったけどね
そういや、あのときは今と逆の配置だったな
あたしが椅子で、あなたはこのステンドグラスの前。そして言ったのよね
「ここに映ってるのは『かみさま』じゃなくてキリスト神話だ」
って
ってね
ずっと異神拝んでたなんて、気が抜けちゃったわ
ファイーナはコロコロと笑う。
今は、『かみさま』のために死ぬなんて考えられないわね
……そうか
もしかして、その教団。
ノフ=ケー関係の神話生物の教団なのかしら?
……察しが良くて助かるぜ
ってことは、吹雪起こしたり……あんまり特殊なことはできないのかしら
……
……あたしは、別になんとも思わないわ。黙ってるくらいのこともできる
……お前、変わったな
変えた人が何言ってるのよ
ん、……じゃあ、お前はなんで、アダムスキーを嫌ってるんだ?
3年前の事、今は怒っちゃいないんだろ
……貴方の宿敵だから?
……冗談だよな?
あたしからも聞いていいかしら
何だ?
なんで、あたしにだけ神話生物のこと、深淵のことを教えてくれたの?
……知って良かった、みたいな言い方するなよ。絶望してもおかしくない裏の世界の話だ
セミョーンはわざとらしく明るい口調を続ける。
さっきも言っただろ。……見てられなかったんだよ
それに、お前なら、信じると思った。聞いても、この世に絶望しないだろうってな
……
お互いに目は、合わせない。
「なあ、女が要らねえもんを一番捨てられないのはいつか分かるか?」
……それ、あたしと初めて会った時にも言ってたわ
そうだったか?
答えに怒った記憶があるもの