――DAY 3――

午後

ファイーナ宅

ファイーナ(ファーヤ)

……リーリヤちゃん……じゃあ、もしかして

セミョーン(ショーマ)

その教団の者に連れ去られた……可能性はあるな

ファイーナ(ファーヤ)

大変じゃない! 早くなんとかしないと……

……

セミョーン?

セミョーン(ショーマ)

……分からねぇんだよ

ファイーナ(ファーヤ)

何が?

子供一人ごときに執着する必要があるのか分からない

俺が追い返した……いや、ちょっと再起不能にしといたあの魔術師に、その後嬢ちゃんを攫うのは無理だ

だが、あんな小さな教団が、一人あたりに何人も人手を割く余裕があるとも思えない

ファイーナ(ファーヤ)

……リーリヤちゃんが、ただの女の子じゃないって言いたいの?

セミョーン(ショーマ)

だから分からないんだよ。アトラック・ナチャのひと噛みを耐えきったってわけでもねぇのに……

ナチャって何?

お前には話したことなかったな……件の教団には一切関係ないと思っていてくれればいい

そう……

ファイーナは考えこんで手を合わせた。

ファイーナ(ファーヤ)

ねえ、魔術師ってことは、やっぱり瞬間移動とかできるのよね?

リーリャ、もうサスリカにいないんじゃ……

セミョーン(ショーマ)

それはどうだろうな?

え? あいつらって何でもできるんでしょ?

「何でも」ってなぁ……

セミョーン(ショーマ)

何でもできるなら、こんなまどろっこしいことをする必要すらないんだよ

ファイーナ(ファーヤ)

まどろっこしいかしら?

セミョーン(ショーマ)

前にも言ったよな。サスリカは今、何の神話生物の影響も受けていない、まっさらな土地だ

誰かさんが元からいた神話生物をぶっ潰したからな

そうね

セミョーン(ショーマ)

教団の本拠地がバレないように、あるいは儀式の場として使うには絶好なんだよ。好き放題やっても、元からいた神に邪魔される心配がないからな

ファイーナ(ファーヤ)

ええ……それは、聞いたことあるわ
ここによく来てくれるのも、心配してくれてるのよね

ただ、僻地であることには変わりない。こんな場所に呼び出されて、警戒ひとつしない奴がいると思うか?

慎重すぎるんだよ、痕跡を残さないことに関して。
……瞬間移動させられるなら、攫っちまえばいいんだからな

ファイーナ(ファーヤ)

あ……そうよね。手紙で呼び出せるなら住所は分かってるでしょうし

それにしても、「慎重」とか、そんなことも気にするのね

相手の規模と性格は俺ら情報屋にとって重要な情報だからな

……あれ?

ファイーナ(ファーヤ)

住所知ってたら、連れ去るのなんて、魔術がなくても簡単じゃないの?

その、あんまり言いたくないけど、人さらい、みたいに……

セミョーン(ショーマ)

あぁ……分からないが、本人と話す必要があったんじゃないか?

本当に見込み通りの人間か確認する必要があったとか、危険だから、とか

……そういうものなの?

セミョーン(ショーマ)

もし嬢ちゃんが、襲われた時に返り討ちにする魔術を掛けてたら?

ファイーナ(ファーヤ)

……人間だからって安心できないのね

ちょっと慎重すぎる気はするがな

セミョーン(ショーマ)

だが、嬢ちゃんの前後に正面切ってこの町に来た人間はあの魔術師だけだったはずだ

気づかれずにこの町に入り込みでもしないと、連れ去れない

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