嗚呼、悲劇でも喜劇でもないのですわ

そうだよ、でも僕は、
これを謳わなければいけないんだ

それを、貴方が望むのなら――

頷かないなら撃つけど?

そこまでしなくても…

是非、聞きたい…?

奇特な奴だな?

ですが、私は嬉しいです

では、謳いましょう
何かを成し遂げたはずの物語を――

知ってしまった

15年後、世界は滅ぶ

なんてことだ・・・

かのファウストが「天才」とは
実に飽き飽きするものだと謳っていて、

それに賛同していたが
今ここで、否定をしておきたい

機械工学、天文学、哲学、錬金術……

それを欲しいままにしているはずの
俺は、今絶望に駆られている。

嗚呼、聞こえるかファウストよ
この絶望をくれてやるから、

世界を蹂躙させてくれる悪魔の
一人や二人と交換してくれ

兎角、これを止めなければ――

数ある資料の中から、防衛に長けた書物、
地下で住むための書物、機械の身体になる書物
不老不死になる為の書物、過去に戻る書物…

全て御伽の本にさえ思えるそれらだが、
世界が滅ぶことに比べたら、

現実的なそれだ


理論が崩壊している頭が悪文が
多く混ざっている書物から、本物を探すために

読んで、読んで、読んで…

やっと、いくつかの本物を見付け、
それの為に、旧友の元へ訪れることにした

土足で悪い

今さらですよ、どうぞ?

どうしました?

世界が滅ぶことは知ってるよな

そうですね、それなりに

それで、手を貸して欲しい

嫌ですが!!!
何か!!!

………おう、

あっ、もしかして、
箱舟の再来ですか?

世界救おうとか
思っちゃってます?

機械の身体とか?

地下シェルター?

ああ、それとも、それとも?

……どうした、いきなり

いいえ、いえ、いえ、いえいえいえ、
―――ただ、

愚かだな、と

黙れ

……計算上は、お前の力さえあれば

人間50年が丁度いいと思いますよ

嗚呼、哀しい人

では、お引き取りを

世界が
どうなっても
いいのか

……なんで、そうなるのですか

死ぬのなら、
生きる事を考えたいのです

言ってる事が矛盾している

世界が滅ぼうとも、滅ばないとも、
人は死ぬ、それは決まっているのです

何が言いたい

どうせ死ぬのに、
懸命に死なないことを考えている

それは、哀しいじゃないですか
生きる為に、生きるだなんて

なら、お前は何の為に生きている?

美味しいご飯の為!
ふかふかお布団の為!
あと信者があがめてくれるの、たのしー!

思いっきり低俗だな

生き物ですから、低俗な本能こそが
最大の真理ですよ

しかし、
少なくとも「生きる為に生きる」ような
生き方は自己犠牲が過ぎます

……自己満足ではなく自己犠牲?


生きている意味は自身で見出せずとも


生きたい意味は自身で見出せるのです。


しかし、「生きる」ことが
生きる意味だと思い込む生き方は、

――余りにも、つまらなくないでしょうか?

襖、お前が閉めろ

はい、わかり合えないことを
わかって頂けたようで!!

世界滅亡という結果に囚われた人生、
それは果たしたとしても――

それが、友人と会った最後だった

俺は研究をつづけた
一人で、どうすればいいのか、模索した

地下シェルターを作れば
世界が滅んでも生き延びれるらしい

作った

まだ、研究をつづけた

機械の身体になれば
世界が滅んでも生き延びれるらしい

機械の身体になった

ノアの箱舟の作り方を知った

信じるのは俺と数人しかいなくて、
それだけが乗った

友人には電話越しで、
「愚かだ」と笑われてた

何故か、分からなかった

果たして、世界は滅んだのだろうか?

それさえも、分からず、
ただ、研究を続ける

――滅ぶ世界に備えて、

世界は、

久々に聞いた自分の声
酷く機械的で無機質で、崇高なものだ

それで、此処は何処だろう

研究に没頭し過ぎて、何もかもが分からない

ふと、研究室に立てかけてあった

随分古びた写真で、
年老いた女性の写真だ――

なぜか、それが懐かしく感じる
――ひどく温かく、感じる

瞬間、悟った

―――っ!

分かってる

この写真は古びている
ひどく、ひどく、古びている

………悲しいのは、どっちだ…

なんて馬鹿な奴だったんだろう!
なんて愚かな奴だったんだろう!!

結局、お前は死んで、
俺は生き残っている!!

生きるとは、生物において
いちばん崇高なことだ!!

生きるとは優れているという証だ!!

なのに、なのに、なのに、なのにだ……!!

なんで、
お前はそんなに幸せそうで、

俺は、こんなにも、


―――こんな、にも……?

――俺は、

俺は研究をつづけた
一人で、どうすればいいのか、模索した

成功したはずなのに、
何かが間違っている研究をやり直す

誰もいない
だれも温かさも、思い出せなくなって、

でも、それでも、
また聞きたい声がある気がして、

それは、生きているだけでは駄目だった
この研究は失敗だ

誰かと、生きて、それで、誰かと死ぬこと

その全てが生きることだったなんて、
死が恐怖だった俺には、分からなったことだった

俺は研究をつづけた
一人で、どうすればいいのか、模索した

俺は研究をつづけた
一人で、どうすればいいのか、模索した

俺は研究をつづけた
一人で、どうすればいいのか、模索した

俺は研究をつづけた
一人で、どうすればいいのか、模索した

俺は研究をつづけた
一人で、どうすればいいのか、模索した

俺は研究をつづけた
一人で、どうすればいいのか、模索した

一人じゃ、無理だと分かった

けれど、滅んだ世界には――

俺しか、いない

聞いてくれ。
絶望は終わった

この研究の解は出た

つまり、俺は生きる為に生きていたのではなく

死なないために生きていたのだ

最高の解だと、思わないか?

世界は滅亡した

俺だけが救われた

それで、気づいた解に

「やっとか、」と微笑む声がして、

それでも、俺は研究が食う寝るよりも
好きだったから

次は、世界滅亡に囚われず、
永遠に見えて、いつ消えるか分からない命で

それでも、それに囚われず、
好きな研究でもしようかと

――ああ、少し、胸が躍る

遅すぎたけど、ありがとう


君のおかげで、
俺は今、生きたいと思えたんだ

それが生存者の初めての息継ぎだった

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