それは運よく死体を見つけたときのことだ。桐子と詩音は日課である死体探しで死体を見つけた。死体を見つけたらすぐに俊樹にかけるようにしている。詩音が電話をしている間、桐子は死体をじっと観察していたが満足に見たためふと視線を逸らすと視界の端にっ知り合いが見えた。

千夏……?

 あんな可愛くて真面目そうなちーちゃんがこの深夜に歩き回ることはないだろうと思った桐子は詩音に言わないでおこうと思った。他人の空似の可能性もあるし、詮索しないでおこうと思ったのだ。

でも、なんかすごく思いつめていた顔をしていたなあ

 気にしないでおこうと思ったが、さきほどの表情が気になる。無表情だが、罪を抱えている人が懺悔をしに来たと決意した顔にも見えた。

野川 詩音

どうしたの?桐子

 じっとちーちゃんのいたところを見ていたら詩音に声をかけられる。桐子はなんでもないと言って詩音を見る。詩音は電話を終えたところだった。

 さて、いつもだったら俊樹が来るところだったのだが、今回は違った。桐子と詩音があまり好まない刑事が来たのだ。

よう、よく見つけたな、ご苦労さんだな

……あなたでしたか

野川 詩音

……

 男は桐子と詩音を初期の頃に補導したという経緯を持つ。男は二人に警察に任せるように、子供がこんな危険なことに首を突っ込んではならないと言ったりして余計に火に油を注いでしまった。

はあ……

 詩音は男を視界に入れないようにスマホを触っている。桐子は男を無言で睨んだ。警察が頼りにならないから私たちがいるのだ。偉そうに説教しやがって、自分たちの心配をするなら、ちゃんと結果を出しやがれと桐子は心の中で毒づいていた。

まさか続けていたとはな、本気だったんだな

本気ですよ。たかが子供と侮ってはいけませんよ。刑事さん

 俊樹はどうしたと聞いたら、たまたま他の用事があるらしい。少年課としてのパトロールの日なのだろうか。

まあ、事情は聞いても聞かなくても死体を見つけたという事実だけなんだろう?犯人は見ていないってことか?

ええ、私たちは早く見たいのですけどね。本当にいつになったら犯人は見つかるのでしょうか

 気持ちを理解せずに、一方的に押し付ける大人なんて嫌いだ。こんな男が果たして犯人を見つけられるのだろうか。何度も聞き込みをしているようなのだが犯人が見つかる気配なんてない。

まあ、そうか。もう遅いから帰りなさい。パトカーで送るから

いえ、ここから近いので大丈夫です。ね、詩音

 と声をかけると詩音の姿は近くにない。少し探すと遠くに詩音の姿が見えた。こっちを見て立っている。話が終わるタイミングでここから離れたのだ。

野川 詩音

……

失礼します

 桐子は律儀に礼をしてその場を去った。

野川 詩音

ごめんね、桐子。面倒くさい役割を引き受けて

いいよ。あのままだったら詩音、あの人に殴りかかるところだったんでしょ?

 桐子と刑事の関係はまだいい。一応最低限の話はできる。しかし、詩音と刑事の関係は最悪だ。家族とうまくいかない詩音に男は無難に家族が心配しているぞと地雷を踏んだ発言をしたのだ。

野川 詩音

あの人は、正しい事を言っていることは間違いないけれどね。あの人の正論は私を壊す破壊兵器だから

……

 どんな時でも、悪人と正義のヒーローがぶつかると正義が勝つ。正論も勝つ。正義は素晴らしい。正論はかっこいい。 

詩音が救われるのはいつになるのだろうか

 大切な人を2人亡くした詩音が立ち直るのはいつになるだろうか。正論とは程遠い今までを歩いていた詩音が救われるには何が必要なのかと桐子は考えていた。

野川 詩音

……瑞希がいない世界なんていらない

 瑞希が殺された後、詩音は一度自殺しようとしたことがあった。

野川 詩音

すごく悲しすぎて、なんでなんだろう。どうしてこうなったんだろう

 瑞希がいなくなってから詩音はとても大変な状態になったのだ。死体が平気になった桐子も異常であるが、詩音も異常に怒りっぽくなったり、泣いたり、沈むようになった。

犯人の心を追ってみるのはどうかな?

 自殺をしようとして柵に手をかけた詩音に桐子はそう言った。当時、詩音は演劇部に所属していて演技が上手だったのだ。役になりきる詩音は堂々として輝いていたのだ。

野川 詩音

心を追う?

うん。ああいう犯人はね、普通の人じゃないの。私や詩音みたいに複雑な事情を持っている人の場合もあるって、海外のサイコパスを追うドラマでやっていたけど……

 詩音の自殺を止めるために桐子は説得する。犯人を見つけるためにできることからやろうと。瑞希のことについて悲しみ続けるよりも、心を知っていこうと桐子は詩音に語り掛ける。

私は、死体を見て、詩音は心を追う。それをすれば何か見つかるかもしれない

野川 詩音

……瑞希のためになるなら、私やるよ

 こうして詩音の自殺を止めることに成功した。それから私たちの今が始まったわけだ。

詩音、早く寝ようか。もう、疲れちゃった

野川 詩音

うん、私も。予想外のことが起きて疲れちゃったよ

 桐子と詩音はマンションに入った。明日のテレビのニュースに流れるのだろうと予想した。7件目の殺人事件が起きたことを知らせる不穏なものが。

 桐子は寝る前に感謝する。詩音がまだ生きていることに。そして明日は詩音が生きているよう、願った。

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