そう呼びながらセーラージャケットの胸元をほぼ全開にして、入学したての高校一年生とは思えない立派な谷間を見せつけながら彼女は教室に入ってきた。

そう答えたのは栗原麻衣子。
ゲーム学科CG(コンピューターグラフィックス)科の一年生。


麻衣子の前の机の上に腰掛けて、短いスカートから太腿を露出させて愚痴をこぼす。

彼女は石田琴絵。麻衣子の中学時代からの友人だ。
同じ学校の同級生ではあるがクラスで一緒になったことはない。たまたま近くのゲームセンターで出会い、女子で格闘ゲームをプレイしているのは彼女たちだけだったので、自然に学校帰りはゲームセンターでおちあって一緒に遊んだりするようになった。

もっとも麻衣子はキャラから入ったぼっちなオタク少女だったのに対し、琴絵は男に勝ちたいといった目的で格闘ゲームを始めたガチゲーマーではあったが。

いや・・・私は元々ゲーマーじゃないんだし。あんたに対戦付き合ってたせいで、結果的に上手くなっただけだってば

ま、そうはいってもお前だって友達なかなか出来ないじゃん?もっとも出来たところで私が気に入らない奴だったら・・・

うぇ・・どうするってのよ?


ジトッとした目で机に座っている琴絵の顔を見上げる。

いやまあ、マイコの弱みはいろいろ握ってるからな~それをばらせば普通に引くんじゃね?www


言葉にならない悲鳴を上げそうになるが、それをこらえて反論する。

くっ・・・いや、この学校に居るのは同類ばかりだ・・多少バラされたところでかえって親密になれるかもしれないわよ!


そういいつつも、そんな危険な賭けをしたくないとは思う麻衣子だった。
(・・・・そういやこいつの秘密とか弱みは思い当たらないなぁ。というか自分でもう非処女とか言っちゃうぐらいだし)

さて、ここでこの学校の説明をしておこう。
ここは今年度発足の私立の工業高校。私立緑工業高校だ。

工業高校とはいっても一般的な”マニュファクチャー”としての工業ではなく、いわゆるオタク文化のマンガやアニメ、ゲームといった産業のコンテンツを作ることを目的にした日本でも初めての工業高校として電気、機械、化学といった学科のある普通の工業高校からリニューアルした。

もっとも少子化や公立の高校無償化などで私立の工業高校の人気がなくなってしまったとか、近隣の就職先になるはずの町工場が生産の拠点が海外に移ったせいで、近年めっきり減ってしまったといった側面もある。
普通科から大学に行っても就職は難しいし、日本のTPP参加で農業の将来無不安だし、福島原発で水産業も不安といった心理も反映していているのかもしれないが、若者の人気のある職業を学べるといったことで初年度としては入学の競争率はなかなか高かったようだ。

学科としてはアニメ、マンガ&ライトノベル、ゲームを制作する人材を育成するということを目的に設立された。
とはいえ校長には別の思惑があったようだが・・・・

ようやくスタートしましたね。梶原校長。

そう黒髪のロングヘアをふわりとなびかせながら振り向いた彼女はオークリーのメガネの奥にアイスブルーの瞳を持った女性だった。
実は彼女お気に入りのカラーコンタクトなのだが、このカラーコンタクトをしたいが為に、メガネをかけてるらしい。

そうだな。まあうまく行かなかったらそれでいいんだが、まずは高校の授業で教えることに意味があると思うからね。

答えたのは校長・・というには若い印象の男性だった。少し甲高い声の印象がそうさせるのか。
梶原竜司。彼はゲーム業界に置いては一目置かれた存在だった。大手メーカーでディレクターを務めていたが、ふと会社をやめて新しい新会社を立ち上げたかと思えば売れる保証のないモバイル端末向けのゲームをいち早く手がけ、大きな利益を得ていた。
だがそれもあっさり会社を手放し、今度は学校経営に乗り出したのだ。

まあ最初に連絡を頂いた時驚きましたけどね。
CG学科の教員になってくれだなんて。

富永くんにも苦労をかけたね。初年度のカリキュラム作成などかなり手伝ってもらったしなぁ。

あ、でもあれはうちにいるニートが結構やってくれたので。
でもあれでよかったんでしょうかね?この業界は移り変わりが激しいのにあんな基本的なことだけで。


頭をかきながら答える富永に、校長はニヤリと笑いながらこう答えた。

ゲーム業界ってのはもうすでに我々には手に負えないんだよ。巨大になりすぎた。
それを従業員のサービス残業で巨大な世界があるように見せかけるだけにすぎない。まあ少しづつアップデートが可能なオンラインゲームであればまだ可能性はあるが、基本無料がこれだけ多くなれば、利益構造にも問題が生じる。
それは君やそのニートさんもよく骨身にしみているんじゃないかな?

あはは・・・まったくそうですね。

苦笑いしながら答える。彼女も校長が過去に経営していたゲームメーカーで働いていた。
女性で独身、それも30歳近くにもなってゲームメーカーで働くのはなかなかにつらいものがあった。

ところでそのニートさんはどうしてるかな?彼も元気かい?

ま、相変わらずですよ。最低限の家事は主夫としてこなしてくれてますけど、こそこそゲームもやってるみたいだし。まあ私専属の漫画家ってところですかね。ほっとくと私をモデルにエロいマンガでも描いて売りそうなんで・・・

苦笑いしながら答える富永だったが、単なるノロケ話のように見える。

一応、籍は入れたんだろ?彼もかなり働いてこの業界に限界を感じて引退したわけだし・・・もう楽しむ側でいいんじゃないかな?

そうかもしれませんね。

ああ、楽しむことを忘れちゃいけないよ。
ゲームの専門学校などを卒業してきた新入社員などはクビにならないようにただ働いてるって感じだったしね。そういう状況にならないように、この学校の卒業生は趣味として簡単でもいいからゲームやアニメを作れるようになってほしいと思ってるんだ。

pagetop