グラド様、ジオット様……え、エルドラゴ将軍。侵入者を捕らえました

隠し通路をくまなく捜索しましたが、この二人以外には見当たりません

グラド

よし、お前等は持ち場に戻れ

はっ!

し、失礼します!

魔獣軍の兵士は妙に堅い敬礼をした後、司令室の扉に向かって歩いていく。

その途中、俺にすれ違った瞬間、

……やべぇ可愛い……

可愛いよな……

アリサ

あぁっ!!? 今なんつった!?

すっすいません! なんでもないです!

二人は慌てて司令室を出ていく。扉が閉まった後、グラドとジオットが宥めるように近付いてきた。

ジオット

お、落ち着いて下さいよ、エルドラゴさん……

グラド

アイツらだって、悪気があって言ったわけじゃないでしょう……

アリサ

うるっせーーー!!! そんな憐れむような目を俺に向けんなーーー!!!

ありったけの声で吠え立てる。しかし司令室の壁を震わすには到底足りず、自分自身子供が駄々をこねているようにしか聞こえなかった。

グラド

もう一度お聞きしますよ。貴方はエルドラゴさんなんですよね?

ジオット

あの糞魔王に魔法陣を踏まされて、そんな姿にされてしまったと

アリサ

何回言わせりゃ気が済むんだよ!! このボケナス共がっ!!

グラド

いやだって……信じられないっすよ……

ジオット

あのエルドラゴさんが……こんなロリに……

アリサ

次ロリっつったらぶん殴るぞ……!!

ジオット

わ、分かりましたよ……

ジオット

けど参ったな、さっきの話全部聞いてたってことですよね? 辞めるのはもっと後で言うつもりだったんですけど……

アリサ

そうだな。女体化されている苦しんでる上司に、店持ちたいから辞めますなんて言ぇねぇよな

ジオット

そ、そんな怒んないで下さいよ……クーデターはちゃんと手伝いますから……

グラド

とりあえずこの話は後にして……まずはあの二人、なんとかしますか

そう言うとグラドとジオットは、部屋の隅に縛ったまま転がしておいた、『二人の』侵入者に目を向ける。

ミューリス

……う、うう……

泣きそうな顔で呻いているミューリスと、もう一人。

ヒーチ

…………

彼女とは対照的に、縛られながらも冷静に部屋を見渡している、エルフ耳の少女……ヒーチ。
どうやら一緒に隠し通路を通り、俺の後を追いかけてきたらしい。


あっさり掴まった俺達とは違い、ヒーチを捕まえるのには中々に手こずったようだ。最後にはミューリスを人質にして誘い出したが。

向こうは知らないだろうが、
俺は二人とも面識があった。

グラド

エルドラゴさん、本当にあの二人は連れてきたとかじゃないんすね?

アリサ

あぁ……多分、あの糞野郎から逃げてる途中に、俺が地下通路に入るところを見て追いかけてきたんだろう

ジオット

それで気付かずにここまで連れて来てしまったと……上司に物言うのもなんすけど、ちょっとは警戒して下さいよ

アリサ

悪ぃ、最近は気が滅入っててよ……

グラド

とりま殺すか、地下牢に放り込んどくか……まぁ口封じの為だったら、喉と手切って追い出す程度でも充分か

ジオット

い、いやいや、まずいだろそんなんやったら……アイツらの親が騒ぎ立てるぞ

グラド

あのなぁ……誘拐やってんじゃねぇんだ、戦争なんだぞ。ここで躊躇ってどうすんだよ

怖じ気付いているジオットに、
グラドは半ば呆れながら説教する。

グラド

いいか? アイツらには俺達の基地に繋がる隠し通路を発見された。それはまだいい。問題なのは俺達がぷよぷよテトリスしてるところを見られたってことだ

グラド

人間界側に俺達の科学技術が伝わってみろ、あっという間に吸収して発展して、今までの何倍も厄介なことになるぞ。だからこそ俺達はわざわざ銃やミサイルを使わず、時代遅れの方法でちまちまやってんだ

ジオット

それは分かってるよ……けどよぉ……

グラド

お前よぉー、そういうとこが甘ちゃんなんだよ。こちとらエルドラゴさんと一緒に二万年ドンパチやってきたんだぞ?

グラド

経費使って楽させて貰ってる分、こういう時こそ仕事に徹さなきゃ駄目だろうが。それともなんだ、もう辞めるからおっかねぇことはしたくねぇってか

ジオット

いやオレは経費使ってねぇよ……そうじゃなくてさ……

歯切れの悪いジオットに業を煮やしたグラドは、俺にも話を降ってくる。だが……

グラド

エルドラゴさんどうします? 殺っちゃいますかアイツら

アリサ

…………

アリサ

……いや、お雨には悪いけどよ……見逃してやってくんねぇか

グラド

えー!?

グラドが素っ頓狂な叫び声をあげる。司令室の空気が震え、ミューリエが小さな悲鳴を漏らした。

グラド

なんでっすか! エルドラゴさんも日和っちゃったんすか!?

アリサ

そ、そうじゃねぇよ…………いや、そうかも知れねぇけどよ

アリサ

実はよ……アイツら、顔見知りなんだ。二人とも、俺が連れてきた奴隷だったんだよ

グラド

奴隷って……あれすか? 糞野郎が数日で飽きたとかで人間界に帰らせた……

アリサ

あぁそうだ……最も、あの二人は俺があの時の竜だとは、気付いちゃいねぇだろうがよ……

糞野郎にこき使われていた頃の記憶を思い出し、俺は二人に語り始めた。

用済みになった奴隷を殺さずに、わざわざ家まで送り届けてやった理由。

それはもちろん善意などではなく、糞野郎への反抗心からに他ならない。

せめて俺は、人間界にあの糞野郎の悪評が広まればと思い、丁寧に一人ずつ帰してやったのだ。

エルドラゴ

……これであと二人か。よし、また飛ぶぞ。しっかり掴まってろ

ミューリス

う、うん……分かった……

二人が俺の背中にしがみついたのを確かめてから、俺は翼を広げ、大空を舞う。人間共に見付からないよう、雲の上まで上昇する。

ミューリス

あ、あの……えっと……ドラゴンさん……

エルドラゴ

なんだ

ミューリス

その……本当にありがとう、あの気持ち悪い人から逃げさせてくれて……

エルドラゴ

ふん……ただの気まぐれだ

ファーーーーwwwガキにもキモがられてやんのwwwざまぁwww

ミューリス

金貨もこんなにくれて、美味しい馬刺しも食べさせてくれて……ドラゴンさん、魔物なのにとっても優しいんだね。あの気持ち悪い人と違って……。そうでしょ、ヒーチちゃん?

ヒーチ

……うん、そうだね……

エルドラゴ

気まぐれだと言っているだろう。それよりお前……ミューリスとか言ったか。お前の家はどこにある?

イケメンのくせにここまで嫌がられるとかwwwマジ事案wwwマジ事案www

ミューリス

えっとね……王国の真ん中の、一番おっきぃ街

エルドラゴ

……城下町か? お前、そんないいところに住んでたのか?

内心pgrしていた俺だが、家が城下町だと言うこの子供に疑問の念を抱く。

エルドラゴ

そんなところで暮らしてて、どうして奴隷なんかに墜ちちまったんだ?

ミューリス

……その……家出、したの……

エルドラゴ

……家出?

ミューリス

うん……お父さんは仕事で忙しくて、お母さんはお兄ちゃんのことばっかり構ってて……私のことは、少しも見てくれなかった

ミューリス

お前はめかけの子だって、周りの大人から何度も陰口を言われた。それがいやで、寂しくなって、それで……夜中に、家を出て……

ミューリス

一人で路地裏を歩いてたら、いきなり怖い人に首を絞められて……ここまで……

エルドラゴ

ふぅん、そうか……

ミューリスの説明には一応筋が通っているが、疑問はまだ残る。

エルドラゴ

無理矢理誘拐して奴隷にするなんざ……貧困地域ならともかく、王国の首都でそんな悪どい商売が通用するか? 情勢だって安定してるし、帝国だってまだ本格的に攻め込んだりはしてねぇのに……

もちろん、誘拐したのは俺ではない。彼女達は部下に命じて適当な奴隷商人から買い上げたのだ。

なかなかの買い手市場でしてね。上玉を安く手に入れられましたよ

自慢げに話す部下の顔が浮かぶ。思えばその時から、奴隷ビジネスが盛んだった。糞野郎のようなたちの悪い好事家でもいるのか、それとも……

ミューリス

あの……ドラゴンさん、もうすぐ城下町です

エルドラゴ

ん、あぁ、そうか

ミューリスに言われて、俺は高度を下げていく。雲の間を縫い、警備兵達に見付からないよう、着地に最適な場所を探す。

城下町を囲う防壁の外側に、古びた廃村があった。時代と共に、村人達がより安全な町の方へ移り住んだのだろう。

俺は静かに降り立ち、ミューリスを降ろす。

エルドラゴ

夜が明けるまでここに隠れてろ。昼間になりゃ悪党共も大人しくなるだろ

ミューリス

うん……わかった

ミューリス

あの……ドラゴンさん、本当にありがとう。魔物にも、優しい人っているんだね……

エルドラゴ

俺は魔物じゃねぇ、魔族だ。魔物はお前等で言う動物だ

エルドラゴ

それに、何度も言っているだろう。お前等を助けてやったのはほんの気まぐれだ。俺の機嫌がもう少し悪けりゃ、全員丸呑みにしてやった

ミューリス

それでもいいの……お兄ちゃん以外に、わたしに優しくしてくれる人は、今までいなかった

ミューリス

例え気まぐれでも……わたしは、あなたに優しくしてくれたことを、一生忘れません

エルドラゴ

……今時、義理堅い奴だ

エルドラゴ

……これからどう生きるんだ。母親がそんな調子じゃ、お前だって出来れば帰りたくねぇだろ

ミューリス

しばらくは、この金貨で……お兄ちゃんが、もう少し大きくなったら家を出て二人で暮らそうって言ってくれてるから、それまで一人で、なんとか……

ミューリスは俺が渡した金貨の袋を見せてくる。一応彼女一人なら、数年は生きられる量の金額は入っている。

エルドラゴ

とはいえ所詮は子供だ。一人で生きられるかは怪しいところだ……

ヒーチ

あの、ドラゴンさん

エルドラゴ

……どうした

今までずっと黙っていたヒーチが、俺の背から飛び降り、ミューリスにそっと寄り添う。

ヒーチ

私もここで降りる。ミューリスがお兄さんと暮らせるようになるまで、一緒にいる

ミューリス

え……

エルドラゴ

いいのか? お前の家は東部の森林地帯だろう? ここからじゃかなり遠いぞ

ヒーチ

大丈夫。元々私は一人で暮らしてきましたし、故郷に未練はないから

ヒーチ

それにこれだけ金貨があるなら、森よりも町で暮らした方がずっと楽だし

エルドラゴ

中々しっかりしてる奴だ……まぁエルフは魔族と一緒で長命だし、こいつも中身はいい大人なんだろう

ミューリス

ほ、本当にいいの? ヒーチちゃん……

ヒーチ

正直、貴女のことは放っておけないから。色んな意味で

ミューリス

うぅ……どういう意味なの……

馬鹿にされたと感じ取ったのか、しょんぼりとするミューリス。しかし目元や口の端から嬉しさがにじみ出てきていた。

エルドラゴ

そこまで言うなら構わん。精々二人で仲良く暮らすんだな

ミューリス

うん! ドラゴンさん、本当にありがとうございました

ヒーチ

どうかお元気で。また会える日を楽しみにしてます

エルドラゴ

ああ、じゃあな

エルドラゴ

また会える日、か……人間にそんなことを言われたのは、始めてだ……

俺は廃屋の屋根に上がり、翼を広げて飛び立つ。雲に入り下界が見えなくなるまで、ミューリスはずっと手を振り続けていた。

グラド

……で、結局エルドラゴさんがその後城下町を襲撃したせいで、お兄さんと暮らすも糞も無くなり、今に至ると

アリサ

言うなよ、それを……今更申し訳なくなってきたんだからよ……

ジオット

一度ならず二度も捕まるなんて、不幸な子達っすね。で、どうするんすか結局

アリサ

……正直、甘いのは分かってるけどよ……こうしてガキの姿になって、初めてアイツらが感じてる怖さや無力さってのが分かったんだ

アリサ

竜の姿じゃ想像も及ばなかった苦しみがな……勇者や兵士ならともかく、あんなか弱い奴らを手にかける気は、今の俺には無ぇ

アリサ

頼む、グラド……

俺がグラドに小さな頭を下げると、ジオットがそれに習う。深く唸った末に、肩をすくめるグラド。

グラド

分かった、分かりましたよ! 見逃してやればいいんでしょ!

アリサ

ありがとな

グラド

そりゃジオット一人ならともかく、エルドラゴさんに逆らってまで意見通す気はないっすよ。自分だってそんな血も涙もないわけじゃありませんから

ジオット

悪いな。後でから揚げたっぷりおごってやるからよ

グラド

何年後の話だよ! それより、自分だって仕方なく目をつぶるだけですからね

グラド

これ以上人間なんかに甘くしたら、自分だって許しませんよ!

グラド

そぉれっ! 高い高~い!

ミューリス

あはは! やめてよもぉ~! わたしそんな年じゃないもん!

口では嫌がりつつも、グラドの巨体を使った豪快な遊びに、ミューリスははしゃいでいる。

まるで単身赴任から帰ってきた父と子のような雰囲気。

グラド

そうだミューリスちゃん、ドーナツ食べるか!? 美味しいのがいっぱいあるぞ~!

ミューリス

うん! 食べるー!

ジオット

……お前が一番甘やかしてるじゃねぇか! さっきまでの厳しい態度はどこ行きやがった!

グラド

ははは、そんな昔のことは忘れたさ! ほら、ヒーチちゃんも食べなさい!

ヒーチ

……ありがとうございます

ミューリス

ゴーレムさん、これすっごいおいしい! わたしこんなにおいしいドーナツ初めて!

グラド

そうだろうそうだろう! 魔界の食べ物は人間界よりずっと美味いんだ!

グラド

ゲームやるかゲーム! こんなの人間界にはないぞ! 滅茶苦茶面白いからな!

ジオット

ちょ、おま、そこまで見せるのはまずいだろう

ジオットが止めるのも聞かず、
グラドはタンスに仕舞っていたテレビとNintendoSwitchを引っ張り出してくる。
もはや隠す気など一切見られなかった。

種族の垣根を越えて触れ合う二人を、ヒーチは微笑むように眺めている。彼女から更に離れた場所で、俺はジオットとこそこそ話し合う

アリサ

まぁいいよ、好きにやらせとけ……そういや、糞野郎からの連絡来ねぇな

ジオット

あ、それについてなんですが、さっき偵察隊から連絡ありました。城塞都市から応援の部隊が駆けつけ、現在も戦闘が続いているそうです

アリサ

ふぅん。で、それ聞いてお前はどうした?

ジオット

もちろん、そのまま偵察隊を引き上げさせましたよ。あの野郎だってオレ達の協力なんかいらないでしょうし

アリサ

よしよし。それでいい

ジオット

けど、一人でそのまま城塞都市に攻め込みそうな勢いだったらしいです……適当なところで止めに行かないと、計画に支障が出るんじゃ無いですか?

アリサ

あいつにそんなやる気なんてあるわけねぇだろ。戦争中だってのにデートにうつつを抜かすような糞野郎だぞ? 海岸に居る奴らを追っ払ったら終わりだ

ジオット

そうですか……まぁ、そうですよね

ジオット

で、結局二人はどうするんですか? いつまでもここに置いておくってのはできませんよ

アリサ

また城下町に帰しゃいいだろ

ジオット

帰すもなにも、貴方が綺麗にぶち壊したじゃないですか……だから難民のキャンプにいたんでしょう……

アリサ

……そうだった……どうすっかなぁ、城塞都市に送ってやるか

ジオット

いやそれも……オレエルドラゴさんがいなくなった後もちょいちょい偵察してたんすけど、あそこは他の魔王軍がしょっちゅう攻め込んでますよ。とても安全とは言えません

アリサ

……ヒーチが暮らしてたっつぅ森は?

ジオット

現在帝国軍が侵攻中です

アリサ

……じゃあ、また難民キャンプに

ジオット

今この瞬間も、糞野郎がずたずたにしてんじゃないですか

出す案がことごとく潰されていく。総合すると、今の王国に安全な場所はない、ということだった。

ジオット

ミューリスちゃんの兄貴の元に連れてくのが一番でしょうけど……今の情勢じゃ、場所はもちろん生死すら分からないでしょうね

アリサ

はぁ~俺等くっそ荒らし回ってるじゃねぇか……こんな血も涙もないことやってたんか……

ジオット

四天王が何言ってんですか今更……

俺は頭を抱える。中途半端に同情してしまった手前、今更ほっぽり出すこともできない。

同じ目線で遊んでいるミューリスの姿を見ていると、奇妙な近親感を覚えてくるのだ。この身体が、憎くて憎くてたまらないというのに……

ヒーチ

すみません、お願いがあります

ふいに、ヒーチが俺達の元に歩み寄ってくる。

ジオット

ん? どうした

ヒーチ

私とミューリスを、魔界に置いてくれませんか

アリサ

ま……魔界ぃ? いや、流石にそれは……

突然の申し出に俺は驚く……いや、嘘だ。見た目不相応に冷静な彼女なら、こう言い出すであろうことは薄々予想していた。

ヒーチ

前にも言った通り、私はずっと一人で暮らしてきたから。元の世界に未練はないし、戦争が続くのなら、ミューリスだって帰りたいとは思わないはず

アリサ

まぁ、それはそうだけどよ……アイツは兄貴と一緒に暮らしたいんじゃねぇのか?

ヒーチ

……それは無理。ミューリスのお兄さんは、もう死んでる。あの子はまだ知らないけれど……

アリサ

……ま、マジか……

ヒーチ

うん……一緒に暮らせる目処が立って、私も一緒に住まないかって誘われていた時に、城下町が四天王とかいう奴に襲撃されたの。姿は見ていないけど……

ヒーチ

逃げる途中で、ミューリスと離れ離れになって……レンガの建物が崩れた時に、お兄さんは私をかばって、潰れた

ヒーチ

その後、ミューリスとは再会できたけど……お兄ちゃんを探そうとするあの子に……私は、何も、言い出せなかった……

気丈にこらえていたヒーチが、初めて俯く。彼女の涙声が、俺の心に突き刺さる。

ヒーチ

せめて、あのドラゴンさんに会わせてくれないかな。あの赤い体の……

ジオット

な、なんでだい?

ヒーチ

あの人なら、きっと私達の話を聞いてくれるはずだから。城下町を襲撃した四天王に、もうあんな酷いことは止めてって、お願いしてもらうの

ジオット

い、いやぁ、それは……あの人、ちょっと今は帝国の方行っててな……

ヒーチ

それならせめて、城下町を襲った魔族がどんな奴かだけでも教えて。ミューリスのお兄さんの、仇を取りたいの

ジオット

そ、それも無理だ……流石に仲間は売れないし、教えたところで君みたいな女の子が敵うはずがない

ヒーチ

……そうだよね……無理を言ってごめんなさい。ただでさえ今、こんなに親切にしてもらってるのに

ヒーチ

ご迷惑だと言うのなら、私達は出て行きます。もちろん今日のことは、誰にも言いませんから――

アリサ

いや! 待て!

罪悪感に耐え切れなくなり、俺は声を張り上げた。マイクラを楽しんでいたグラドとミューリスも振り返る。

グラド

ど、どうしたんすかいきなり

アリサ

お、俺が……じゃなくて……アタシが、二人を引き取る

一応女の振りをして、俺はきっぱりと宣言する。言った直後から、痛んだ生ものを食べてしまったように、じわじわと後悔が湧き上がってきた。

アタシが引き取るっ!!

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