家に帰ってふて寝し、起きた時にはもう夜だった。眠気覚ましに熱いシャワーを浴びる。

エルドラゴ

どうすっかな、明日から……

風呂上がりに扇風機の風を浴びながら、俺はふぅ、と溜息をついた。

三週間前に糞虫が即位してから、今日のような出来事はしょっちゅうだった。

四天王の中で、俺だけが理不尽かつ重過ぎる仕事を任され、何度も人間界に向かわされた。

魔王

あぁ~奴隷欲しいなぁ~。朝から晩までお世話してくれる可愛い奴隷欲しいなぁ~

エルドラゴ

お言葉ですが魔王様、現代魔界に奴隷制度は存在しません

魔王

じゃあ人間でいいじゃん。お前ちょっと行って3、4人ぐらい買ってこい。お釣りはやるからさ

エルドラゴ

……学食のパンじゃねぇんだぞ……

魔王

馬車かっこいいな! スポーツカーなんかよりよっぽどいいわ! 生きてるし!

エルドラゴ

お言葉ですが魔王様、現代魔界に馬車は売っていません

魔王

だからそういう時は人間界行ってこいっての。白馬ね白馬。あーやっぱ黒もいいかも。あ! やっぱレインボー!

エルドラゴ

……いる訳ねぇだろ……

魔王

あー人間界の金貨堪んねぇ~! ぺらぺらのお札なんか目じゃねーな~!

エルドラゴ

それはAmazonで売ってますし、自分でお買いになられたらどうでしょうか

魔王

こういうのは実際に使われてるもんじゃなきゃ駄目だろ! ほら早く行ってこい!

エルドラゴ

あー、焼きてぇー。消し炭にしてぇー

三日後

魔王

よく考えたら奴隷とかめっちゃ可哀想じゃん。無理矢理連れてくるとかお前鬼なの?

魔王

それにあの馬何? ヘアカラーで染めてるとかふざけんなよお前。世話めっちゃめんどいし

魔王

金貨もさー、どこの店で出してもなんにも買えねーじゃん。先に言えよそういうのよ

魔王

もういいや、全部捨ててこい。燃えないゴミの日にでも出しとけ

エルドラゴ

……分かりました……

エルドラゴ

人間に優しくしたのは、あの時が初めてだ。金貨を全員に配って、一人一人元の家に帰してやったんだよな。馬は馬刺しにしたけど

エルドラゴ

毎日毎日、しょうもねぇ理由で人間界に行かされて……この身体で見付からずに行動するのが、どれだけ大変か分かんねぇのか、ったく……

思い返すほど、糞虫への怒りは消えるどころかますます膨れあがっていく。昨日まで日増しにストレスが溜まっていた。

だが……それはあの三人も同じだろう。こき使いこそしないものの、他の四天王に対しては、糞虫はセクハラを何回も繰り返していた。

魔王

ソフィーヤさぁ、結構年いってるんでしょ? 結婚しないの?

ソフィーヤ

はは……あ、あいにく相手がいませんから……

魔王

なら俺が貰ってあげようか? 魔界一の玉の輿だぜ!

ソフィーヤ

い、いえ、仕事に影響したらいけませんし、職場の人とは……

魔王

紅音ってさ、東方の生まれなんだよね? 巫女さんやってよ巫女さん!

紅音

いや、別にアタシは氏子ってわけじゃ……

魔王

固いことゆーなよー! コスプレでもいいからさ!

紅音

いやいやいや! ホントそういうのは勘弁して下さい……

魔王

はいいくよー、すりーつーわん、はいアクション!

アイヴィアス

「くっ! 殺せ……!」

魔王

いーわいーわその表情! ホントそそるねー!

アイヴィアス

は、はぁ……そうですか……

エルドラゴ

他にも王様ゲームやらされたり、えんえんとモテ自慢を聞かされたり……いつ行ってもアイツらは、糞虫の相手をさせられてたな……

息抜きが出来ない分、三人の方がしんどかったかもしれない。

そして明日からは、俺で遊べなくなった分だけ、ますますあの糞虫は彼女達にセクハラを繰り返すのだろう。

エルドラゴ

しかも、元々嫌われてた俺と違って、アイツらはそう簡単に辞めさせてくれないだろうからな……

エルドラゴ

精々できることっつったら、新しい四天王にアイツを気に入りそうな女を連れてくるくらいか。そんな女、魔界にも人間界にもいやしないだろうがな

エルドラゴ

済まねぇな、ソフィーヤ、紅音、アイヴィアス……俺は一足先に去らせてもらうぜ

身体の火照りが無くなってきた頃、
俺のXperiaにLINEの着信が入った。

ソフィーヤ

今家?飲みに行かない?

エルドラゴ

なんだアイツ……もう仕事終わったのか?

まだ七時半だ。人間界に宣戦布告した上、俺が辞めてしまったというのに、あの糞虫がこんな時間に帰らせるとは到底思えない。

俺の考えを予想していたのか、
続けてメッセージが入った。

ソフィーヤ

流石にアレも多少反省したみたいで、早めに上げてくれたの。ゆーて七時だけど

エルドラゴ

今更反省したって遅いっての……

エルドラゴ

……最近、飲みにも行ってねぇな……腹も減ってきたし……

エルドラゴ

……いや、止めとこう。四天王も辞めちまったんだ、もう関わらない方がいい

揺らいだ気持ちを振り切って、
俺は嘘のメッセージを送る。

エルドラゴ

すまん、もうダチと飲んでる

ソフィーヤ

分かった

やりとりはそこで終わった。
俺はXperiaをテーブルに置いて、再び飲み始める。

……が、数分経った後、再び着信が入った。

ソフィーヤ

ごめん、ちょっとでいいから会えない?遅くなってもいいから

エルドラゴ

……何かあったのか?

どうしてここまで……何か借りているものでもあっただろうか。俺が思案を巡らせている間に、また新着メッセージが。

ソフィーヤ

二人が謝りたいって言ってるの

エルドラゴ

……紅音とアイヴィアスか? そういえば、俺はアイツらともID交換してなかったな……

ソフィーヤは今、二人の橋渡しになっているということか。しかもここまで食い下がるということは、相当頼み込まれているらしい。

エルドラゴ

……まぁ、最後に一度だけ、会ってやってもいいか。別にアイツらが謝る必要はねぇんだけどな……

エルドラゴ

分かった、行くよ

返事を送ってから、
俺は扇風機のスイッチを切った。

エルドラゴ

……何が飲みに行くだよ、たくっ……こんなところで飲めるかっての……

俺は文句を叩きながら、こじゃれたレストランの扉を開ける。カランコロンと軽やかなベルが鳴った。

いらっしゃいませ。一名様ですか?

エルドラゴ

あぁいや、先に来てる人がいるんで……

近寄ってきた店員を制止して、俺は店の奥へ向かう。なんで居酒屋じゃないんだ……
と来るまでは思っていたが、今更になって気付いた。

エルドラゴ

紅音とアイヴィアスは、まだ未成年だったな……酒も飲めねぇのに四天王か、凄ぇなぁ

エルドラゴ

俺なんか就任した時にゃ10000歳越えてたっつぅのに……まぁ、もうどうでもいいことだけどな

店の一番奥、個室席の扉を開ける。
次の瞬間、

出口側に座っていた紅音とアイヴィアスが、面食らうほど勢いよく立ち上がった。そのまま俺に駆け寄ってきて、直角90度に頭を下げる。

アイヴィアス

きょ、今日は本当に済まなかった!

紅音

許してくれとは言わねぇ、ただ謝らせてくれ! この通りだ!

エルドラゴ

別に、お前等が謝ることじゃねぇよ

アイヴィアス

いや違う……あんな屑の命令など聞いた私達が悪かったんだ

紅音

無視して助けに行ってれば、お前がそこまで傷つくことも無かったし、辞めることも無かったんだ

エルドラゴ

だからいいってもう。あの野郎はどうせ、遅かれ早かれ俺を始末しようとしてたさ。それか俺が切れてぶん殴ってたから

エルドラゴ

そうだ、俺がお前等の分まで闇討ちしてやろうか? もう俺は怖ぇモンねぇからよ、ははっ

二人を宥めようと、俺は冗談を言った。
もちろん本当に闇討ちしたところで、
あの糞虫には太刀打ちできない。
腹立たしいが、奴の実力は確かだ。

だが、紅音もアイヴィアスも、妙に渋い表情を浮かべた。いつもなら一緒になってああしたいこうしてやりたい等と愚痴を言い合うのだが。

ソフィーヤ

それについては、もうちょっと後に話しましょ

エルドラゴ

……? どういう意味だよ

ソフィーヤ

とりあえず座ったら。まずはご飯にしましょ

アイヴィアス

あ、あぁ……

紅音

分かった……

ソフィーヤに促され、俺達はテーブルに座る。彼女の前にはサラダが乗っていたと思わしき空の皿が。

しかし、紅音とアイヴィアスの前にはコップしかない。どうやら俺が来るまで、
食事すら我慢していたようだ。

ソフィーヤ

友達はいいの?

エルドラゴ

ありゃ嘘だ。まだ何も食ってねぇよ

アイヴィアス

どんどん食べてくれ

紅音

ソフィーヤの分も含めて、アタシ達が払うからよ

エルドラゴ

いいのか、ここ結構高ぇんじゃねぇの? お前等まだ給料入ってねぇだろ?

紅音

うっ……

アイヴィアス

も、もちろん痛くないわけじゃないが……

ソフィーヤ

いいわ、ここは私が払うわよ。後で経費で落としとくわ

エルドラゴ

あざーす

ソフィーヤの軽い溜息。テーブルの前の二人がにわかに焦る。

アイヴィアス

い、いや、これを落としたらマズいだろう……!

ソフィーヤ

何慌ててんのよ? 魔王省からの侵略予算は、毎日毎日アレが湯水のごとく使ってるのよ。今更何万か増えたって変わんないわよ

肩をすくめてソフィーヤが吐き捨てる。一体、あの糞野郎は一日で何十万金をドブに捨てているのだろうか。

人間界への侵略活動の費用は、年金やエネルギー対策と同様、一般会計とは別に設けられた特別会計によって賄われている。


それが人間界侵略特別会計、通称侵略予算だ。中央省庁の一つである魔王省が管理している。


俺達の給料や経費もここから支払われるが、所詮貰う側の為詳しい財政事情は分からない。


だが、あれほど散財を続けてもお咎めひとつないということは、相当ずぼらな管理がなされているのだろう。俺達が多少経費を頂いても文句はあるまい。

紅音

分かってるけど、マズいよなそれ……国にバレる前に、なんとか止めさせねぇと……

エルドラゴ

それをあの糞野郎に言って、大人しく聞き入れてくれると思うか?

紅音

……思わねぇけどよ

ソフィーヤ

なら素直に受け入れなさい。アイヴィアス、メニューを……っと、その前に

立ち上がったソフィーヤは、隣に座っている俺の顔の前に右手をかざす。

暖かな光が俺の身体を包み、今日の戦いで負った傷跡は一つ残らず消え去った。

彼女が得意とする回復魔法だ。最も、この程度ならば多少心得があるものなら誰でも使える。俺はからきしだが。

ソフィーヤ

これでおっけ。全く、怪我も治さないで出てっちゃうんだから……

エルドラゴ

あの後病院行ったから大丈夫だよ……つぅか、あの糞野郎の頭が燃えた時にも、叩いてねぇで水魔法でも使ったら良かったろ

ソフィーヤ

アレに使う魔力なんかあるわけないでしょ。いいストレス発散にもなったし

ソフィーヤ

アイヴィアス、メニュー取って

アイヴィアス

あ、あぁ……

エルドラゴ

はー食った食った。やっぱ高いところの肉は違ぇな

ソフィーヤ

デザートも美味しかったわ。ごちそうさま

満腹になった俺とソフィーヤは、満足げに手を合わせる。しかし前の二人は相変わらず硬い顔。

ソフィーヤ

さて……それじゃ、本題に入りましょうか

エルドラゴ

あぁ、そうだな

エルドラゴ

俺は戻んねぇぞ。あの糞虫が魔王でいる限りはな

ワインを飲み干した俺は、きっぱりと言い切った。二杯目を注ごうとしてきたウェイターを制止する。

ソフィーヤ

やっぱり分かってた?

エルドラゴ

そりゃそうだろ。俺がお前等の立場でも引き留めるわ。これ以上自分の負担増えんのはごめんだ

ソフィーヤ

なら分かってるでしょ。辞めたりなんかしないでよ

エルドラゴ

つったってあの糞虫が許さねぇだろ。人間共に殺らせてまで俺を追い出そうとしたんだぜ?

ソフィーヤ

そう言ってくれるってことは、戻る気自体はあるの?

エルドラゴ

無ぇよ。だから言っただろ、糞虫が魔王でいる限り戻るつもりはねぇって。お前等にゃ悪ぃが、こればっかりは無理だ

ソフィーヤ

そう……分かったわ

沈んだ顔で、ソフィーヤもワインを飲み干した。

アイヴィアス

……私は、貴方達に憧れて、魔王軍に入ったんだ

俺の目をまっすぐ見据えて、ソフィーヤが口を開く。話し方が、四天王に入ったばかりのかしこまった頃に似ていた。

アイヴィアス

教科書で貴方達の活躍を読んで、テレビのドキュメンタリーで貴方達の勇姿を目に焼き付けて……空席だった四天王の座を目指して、私は努力を続けてきたんだ

紅音

あ、アタシだって同じだ。地元を離れて上京して、魔王軍の記念式典で初めて二人を目にした時……その……

ソフィーヤ

惚れちゃった?

紅音

そっそんなんじゃねぇよ! けど、なんて言うか、ぜってぇあそこまで辿り着くんだって、そう心で誓って……それで、必死にここまで頑張ってきたんだ

アイヴィアス

貴方は私達……いや、魔王軍全員の目標なんだ。ようやく同じ立場になって、これから共に人間界の侵略ができると喜んでいたのに……

本気で落ち込んでいる二人。まさかそこまで尊敬されていたとは夢にも思わなかった。

魔王軍への入隊方法は、大きく分けて二つ。

一つは通年募集しているノンキャリア枠。ほとんどの兵士がこの枠だが、ここから四天王になるには最短でも数千年はかかる。俺も元はノンキャリアだ。

もう一つが、魔王軍の幹部候補生を養成する
魔王学校の上位成績者のみが入れるキャリア枠。年間数人しか選ばれないが、
出世が約束されているエリートコースだ。

完全にドカタ感覚で魔王軍に入った俺とは違い、二人は苛烈な競争を勝ち抜き、憧れの四天王の地位をつかみ取ったのだ。

熱意も俺とは比べものにならないのだろう。

ちなみに、ソフィーヤはどちらでもない。普通に大学を卒業し、腰掛けのつもりで事務職に入ったところ、

ソフィーヤ

魔法が使えるからって現場に回されたの。いい人が見つからないままずるずる続けてたら、ここまで来ちゃった

……というのを以前本人から聞いていた。その時俺は大笑いし、直後に氷漬けにされた。

エルドラゴ

そんな思いで入ってきたなんて、知らなかったわ。悪ぃな

アイヴィアス

だ、だったら――

エルドラゴ

それじゃ二人に聞くがよ。お前等が努力を積み重ねて手に入れた今の生活に、果たして満足してるか? お前等の青写真通りの職場だったか?

俺がそう尋ねた途端、
紅音とアイヴィアスは黙りこくった。

もちろん、聞かずとも答えは分かっている。自分で聞ききながら、沈黙の時間がなんとなく気まずくなった俺は、ウェイターを呼び止める。

エルドラゴ

すいません、やっぱお代わり下さい

かしこまりました

アイヴィアス

……ソフィーヤ、一つ聞かせてくれ

ふと、アイヴィアスが口を開く。

ソフィーヤ

なに?

アイヴィアス

先代や、先々代の魔王も、あの男のような性格だったのか?

ソフィーヤ

そんな訳ないじゃない。二人とも途中で辞めちゃったけど、いい意味で魔王らしくない素敵な人達だったわ

ソフィーヤ

あんなロクでもない腐れ外道が魔王になるなんて、ある意味奇跡よ。これまでもそしてこれからも、二度と現れることはないでしょうね

ソフィーヤ

……最も、このまま放っておいたら、アレが最後の魔王になるわね。きっと……いえ、間違いなく

ソフィーヤ

私も四天王の端くれよ。このまま魔界が滅びるのを黙ってみている訳にはいかないわ……

ソフィーヤの瞳が、
じんわりと決意の色に染まっていく。

エルドラゴ

お前、まさか……

ソフィーヤ

ええ、そのまさかよ

ソフィーヤ

始末しましょう。アレを。私達で

ソフィーヤの口から、
穏やかならぬ言葉が飛び出した。

誰かに聞かれないようにか、ささやくような小さな声で。しかし、そこにはしっかりと、決意、そして殺意が含まれていた。

紅音とアイヴィアスは、驚きもせずに
いまだ沈んだまま。どうやら俺が来る前に、二人には話していたらしい。

エルドラゴ

だから、俺が冗談を言った時も、真に受けたような顔してたのか……

ソフィーヤ

どうかしらエルドラゴ? アレがいなくなりさえすれば、貴方だって戻ってきてくれるんでしょ?

アイヴィアス

ま、待ってくれ。流石にそれはまずいんじゃないか。魔王が倒されたら……

ソフィーヤ

あら、別になんてことはないわよ? そんなの貴女だって知ってるでしょ

ソフィーヤ

例え魔王が死んでも、蓄えられていた闇の力が魔界や人間界に拡散するだけ。何百年か経てばまた一カ所に集まって、新しい魔王が生まれるわよ

紅音

だ、だけどよ。その間勇者にはどうやって立ち向かえばいいんだよ?

ずっと黙っていた紅音が、
不安そうな顔で問いかけてくる。

ソフィーヤ

私達四人で対処すればいいじゃない。貴女達が入る前なんか、私とエルドラゴの二人で戦ってきたのよ。魔王なんかいなくたって充分人間共の相手は出来るわよ

ソフィーヤ

もちろん、私だってこんな計画は立てたくない。失敗したり警察にバレたりなんかしたら、私達だっておしまいだもの

ソフィーヤ

だからといってこのままアレを野放しにする気も無いわ。今まではあれでも魔王なんだからって口に出さないではいたけど、もう限界よ

ソフィーヤ

このまま魔界を滅茶苦茶にされるくらいなら、私がアレを倒す。魔界史上最初で最後のクーデターよ

ソフィーヤの語気が荒くなってくる。ここまで真剣な顔を見るのは久しぶりだった。

エルドラゴ

落ち着けよ……他の客やウェイターに聞かれたらどうする……お前の発言は、完璧に共謀罪の範囲内だろ……

ソフィーヤ

それもそうね……全く安部ったら、余計な法律作ってくれちゃって……まぁ悪いのはこっちだけど……

ソフィーヤ

仕方ないからテレパシーで話すわ。アイヴィアス、紅音。貴女達は私についてきてくれる?

ソフィーヤ

悔しいけれど、私一人では無理。アレの力は強力だわ。魔力では到底敵わない。だからみんなの力を借りたいの

ソフィーヤはテーブルの向こうの二人に問いかける。最初は考え込んでいた彼女達だったが、お互いが顔を見合わせた後、力強く頷いた。

アイヴィアス

……あぁ、分かった。覚悟を決めよう

紅音

このまま我慢したって、いずれはあの糞野郎に潰されるだけだしな。こうなりゃやってやんよ

ソフィーヤ

ありがとう、二人とも

ソフィーヤ

それで? 貴方はどうするの、エルドラゴ

ソフィーヤ達の視線が、再び俺の元に集まる。三人が三人とも、決意と懇願が入り交じった、すがりつくような目をしていた。

無言(?)の時間が続き、
耐えきれなくなった俺は、

エルドラゴ

……分かったよ、やりゃあいいんだろ、やりゃあ

その途端、
全員の顔がぱあっと明るくなった。

ソフィーヤ

……貴方なら必ず引き受けてくれるって、最初から信じてたわ。本当にありがとう……

エルドラゴ

よせよ恥ずかしい。それより始末するったってどうする? 具体的な計画は考えてんのか?

ソフィーヤ

……それは、まだ何も……ごめんなさい、偉そうなこと言っておいて

喜んでいたのもつかの間、
彼女は再び表情を曇らせる。

アイヴィアス

労基に訴えてしまえば、案外すぐに失脚させられるんじゃないか?

紅音

それか、アイツのパワハラとかセクハラとか、全部マスコミにぶちまけちまうとか

ソフィーヤ

上手くいくとは思えないわね。魔王省がもみ消すに決まってるわ

エルドラゴ

上手くいったとしても、やけになったアイツが破滅の呪文でも唱えちまったら、魔界は終わりだぞ

アイヴィアス

そうか……やはりそう簡単には上手くいかないか

紅音

本人も滅茶苦茶強ぇってのに、国にも守られてんだもんな。あぁ腹立つ

紅音は憎々しげにノンアルコールのシャンパンを一気飲みする。

ソフィーヤ

……やっぱり一番いい方法は、勇者に倒させる、ね

エルドラゴ

あぁ……天上の女神から退魔の力を与えられた勇者なら、破滅の力を持つ魔王を退け、打ち斃すことも出来る

エルドラゴ

俺達が裏から手を回してやれば、魔界の険難を切り開き、アイツの元まで向かわせられるだろう

エルドラゴ

だがこれこそ、マスコミにすっぱ抜かれたら一巻の終わりだ。俺達は史上初の外患誘致罪に問われるだろうな

紅音

が、がいかん、ゆうち……?

ソフィーヤ

外国と通じて自分の国に攻め込ませようとする罪のことよ。WikipediaのURL貼っておくから、詳しくはそっちを見て

ソフィーヤ

幸いアレは、勇者との戦いになんかこれっぽっちも興味が無いわ。エルドラゴに襲わせたのだって、深い意味は無いでしょう

ソフィーヤ

私達が構い続ければ、もっともっとどうでも良くなるでしょうね。その間にも人間達は着々と反撃の準備を進めるはず……

エルドラゴ

機が熟したところで、一気に勇者を誘い込む、ということか

ソフィーヤ

ええ。細かいところはもっと詰めていく必要があるでしょうけど、今考えられる最善の計画はこんなところかしら

エルドラゴ

問題は山積みだがな。まず勇者の居場所が知れねぇ。見つけても今現在既に糞野郎に対抗できる力を持っているかは分からん

紅音

誘い込むにしても、魔界の被害を最小限に、かつアタシ達の工作に気付かれないようにする必要があんだろうな

ソフィーヤ

それに魔王がやられたっていうのに、部下の私達が無傷じゃバッシングは避けられないわ。自然な形で被害を装わないと

アイヴィアス

一番大変なのは……

ソフィーヤ

アレの相手をしなくちゃいけない……憂鬱だわ

3人の深い深いため息。流石にこれはテレパシーでも抑えきれない。

エルドラゴ

まぁ、頑張れやお前等。勇者を探したり確保したりってのは俺がやるからよ。どのみち俺は人間共にマークされてるし

ソフィーヤ

悪いわね……時間が空いたら、私達も手伝うから

エルドラゴ

あぁ、頼むわ

ソフィーヤ

とにかく頑張りましょう。魔界のためにも、部下達のためにも……何より、私達の人生のためにも

アイヴィアス

あぁ、そうだな

紅音

見事抹殺できたら、またこの店に集まろうぜ。そんときこそ奢らせてくれ

エルドラゴ

景気づけに、乾杯でもするか?

ソフィーヤ

そうね……それじゃ、皆グラスを持って

ソフィーヤ

アレの抹殺を誓って……

………………

高いですね、ここは

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