ほう、母親になるか……

 と現当主は麻希を見る目を鋭くさせる。麻希はその視線の圧力に負けぬように眉間にしわを寄せる。桐子たちは麻希の発言の続きを待った。

こんな若造が子供を見ることができるのかと言われるのは仕方ありません。ですが、ひなを守りたいという気持ちはあります。

 麻希の元に紅茶が運ばれた。執事に軽く会釈をしてから話を続ける。

それに私もひなと同じ目に遭ったことがありまして、親の愛情というものを知りません。子供を育てる資格なんてないかもしれない。でも……

 と一呼吸入れる。腹の内から思いをぶちまける。

ひなには悲しい思いをさせたくありません。ひなを助けられなかったら私みたいに……その、ひねくれていてもいなくてもいい存在になったりいつでも死ぬ準備をする悲しい心を持ってしまうかもしれない。

だから私は母親になってひなを幸せにしたいのです

 現当主は首を縦に振る。

 君が母親になるなら大歓迎だ。今までの自分を捨てていくその潔さが気に入った。

今までの自分?

実は君がギャルであること、それに愚息と一緒に仲良くしていることを知っている。

親父にのぞき見、盗撮盗聴の趣味があるとは、最低だ……

 現当主は将也を睨む。執事に頼んでこっそりと将也の様子を探っていたらしい。

いや、それ犯罪だから。ストーカーじゃねえか

まあ、それは置いといて。大塚さん、君は本当に大丈夫なのか?学校とか家とかいろいろ抱えていると思うが。

いいのです。家族なんていませんし、学校も学費がなくなって行けなくなりましたから

そうか……

と現当主は考え込む。そしてすぐに妥協案を出した。

母親になるなら、将也の嫁にならないか?

親父、それは俺のセリフだ。とうとう泥棒になってしまったか

え、その……いいのですか!?こんな私でも

 何やら結婚話になってきた。現当主が言うには母親になるならひなと一緒にいる環境がなくてはならない。そのためには将也と結婚して家族になってひなを守っていけばいいのではと言った。

大塚麻希さん、私は歓迎する。君たちが仲良い恋人同士というのも知っているからな。運命の人同士なのだろう

……

 将也は父である現当主に対するツッコミをやめた。どんなに隠し事をしても露見されてしまうのだ。親というものは恐ろしい。

ただし、問題がある。

 どんな問題なのだろうとみんなは頭にはてなマークを浮かべる。

私の呼び名だ。ひなからはお父さんと呼ばれたいのだが……

 これから起こりうるだろう複雑な手続きのこと、もし、ひなが大きくなったらひなの過去を知らさなければならないという義務のことかと思ったらそうでもなかった。

あ、その手続きとかいろいろと複雑なことではなかったのですか?

 桐子が現当主の可愛い悩みにずっこけてしまったみんなの代表として質問する。現当主は真剣に悩んでいた。

あんな天使みたいに可愛い子からお父様と呼ばれたいんだ。桐子さん、わかるだろう?本当は私がひなの父親になりたいが、愚息に奪われるなんて思うと……

 現当主は顔が怖いが、意外と優しい人である。この人ならひなを任せることができるなと桐子は安心した。

おじいちゃんでいいじゃないか。どうせあと何年かしたらそう呼ばれるだろう?

将也……なんてことを言うのだ。私はまだ気持ちは若いのだぞ

じゃあ、どっちがお父さんと呼ばれるか勝負する?

 と話をしているところにひなの世話をしていたメイドがやってきた。ちょうど起きたところらしい。ひなを食堂に連れるよう現当主と将也がメイドに頼んだ。

お父さん?

 ひなには麻希が母親になること、そしてこれからここで暮らすことを伝えてから、本勝負であるどっちをお父さんと呼ぶかということだが……

……

 ひなは戸惑いながら二人を見る。突然どっちをお父さんと呼ぶかなんて言われたら困惑するだろう。将也と現当主はひなに微笑みかける。お父さんと呼んでくれと二人は無言の圧力と笑みを浮かべた。

お父さんと呼ぶ。お兄ちゃんもおじちゃんもお父さん!

 ということになった。でもどっちもお父さんというのは間際らしいため、現当主はかっこいいお父さん、将也はお父さんと呼ばれることになった。

ああ、なんていい子なんだ。私をかっこいいお父さんと呼んでくれるなんて

 と現当主は感動のあまり涙を流したのであった。

 桐子と詩音は現当主らと別れて帰路に就く。とてもいいものを見た。家族っていいなあと素直に言い合った。

野川 詩音

おじさまってけっこうすごかったわね

あの人はむかしからああいう人だからね。けっこう人から好かれているのよね。

 そして彼女たちは日常に戻った。現当主らのこれからの幸せと、自分たちの幸せを願いながら……。

お父さんって呼ばれたい!!

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