ひなと母親が住むのは古いアパートである。ギシギシと軋む階段を上って扉を開ける。鍵はかかっておらず、ギイっと重い音えおしながらドアを引く。

おじゃまします……

 恐る恐る入る。将也の次に麻希と桐子が入る。中は狭いため詩音はひなと共に外で待った。電気をつけるとテーブルの上に手紙がある。

ねえ、なんて書いてあるの?将也

 先に見つけた将也が手紙を読む。次第にだんだんと顔が険しくなる。心配になった麻希が将也に声をかけた。

……ひなは捨てられたんだ。母親にな……。

 と手紙を見せた。手紙にはこう書かれていた。

 自分はこれ以上、ひなを育てられる自身はないこと。

 この先に対して希望を持てないこと

 悲しんでばかりの自分ではひなを幸せにできないから……

自殺ってこと?

わからないな。本当に死んだのか、死んでなくて今もどこかをさまよっているのか……

 空気がよどみ、静まり返る。麻希は手紙を読み終えて返す。複雑な状況に対する憤りの表情に染まっていた。

将也……。なんとかしないと

 麻希が一番早く行動する。家の中を探り始めた。まず最初にやるべきことはひなの着替えなどを用意することだ。麻希に続いて将也と桐子も動き始めた。

親父、悪いが今日は頼む。女の子を保護した。

 将也は家に電話をかけて、今あった出来事を話している。桐子は詩音に手紙のことを話した。ひなは麻希と一緒に持っていく物を選んでいる。

野川 詩音

そう……だったの

なんかね、ひどいよね

野川 詩音

ひなちゃん……

 ひなを見ると今からお泊りをするということでワクワクしている。本当のことを伏せているため、これからのことを思うとつらい。

桐子、代わってくれないか

 と将也からスマートフォンを受け取る。将也の父親から盛大な挨拶を受けてから話を続ける。

すみません。今晩はお世話になります。友達もその、すみません

 準備が終わって、桐子たちはアパートに着いた車に乗り込む。麻希は家が近いからということで断った。

 翌朝、桐子らは小邑家の現当主に礼を言った。

突然のことで申し訳ございませんでした。

 ひなはまだ寝ている。夜遅い時間は、子供にとって大変な時間だった。桐子たちは現当主と話をするために早く起きた。

いえいえ、こちらこそ愚息がお世話になりました。

いえ、私の方こそちゃんとした手順で訪れなくて申し訳ございません。

 と謝罪合戦になった。将也が現当主に声をかけて、謝罪合戦を終らせる。話を続けた。

手紙を見た。女の子を保護ということだが、これからどうしようかということだな?

親父、俺はひなを引き取る。こう会った以上、無視できない

ほう?

 将也と現当主は将也が夜出歩くようになってから面と向かって話をしていなかったらしい。現当主は会社経営で忙しい身だったので家にあまり帰らなかったこともあるが、将也自身が反抗期であったため話をすることがなかった。

 二人がにらみ合う間にチャイムが鳴る。執事がやってきて来客だという。昨日のひなの保護に関わった者が来ていると。

 桐子と詩音は麻希だろうとすぐに察する。食堂の部屋の扉が開くとそこには、清楚な少女がいた。麻希とは違って、髪は黒色で肌も黒から色白になっている。

はじめまして、大塚麻希と申します。

 麻希だった。あのギャルの麻希だ。昨日の今日で彼女は変わった。現当主は麻希を座るように促して執事に茶の用意をさせた。

私は将也さんに助けられた者です。突然ですがお願いをしに伺いました。

 麻希は覚悟を決めていたのだ。誰よりも早く気持ちを切り替えて行動していた昨日の彼女の行動を見て、桐子は麻希がこれから言うことを予想していた。

私がひなの母親になります。

 麻希は現当主にそう、宣言したのだった。

夜の紳士は姫を守る騎士になった

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