リザードマン

優しくしてほしかったらさわぐんじゃねぇぞ……。

ミヤコ

じゅるり……。

リザードマン

へっ? じゅるり? お前、何を舌なめずりして……。

 リザードマンに悪寒が走る。肉食獣が草食獣を狙うような殺気。大家さんが失業中のサラリーマンに家賃をせびりにくる恐怖。

リザードマン

こっ、こいつは危険だ。何か嫌な予感がする……。

 剣を持つ腕が震えている。獣の本能。天敵がどこからともなく狙ってくるような感覚。

 リザードマンは勘を信じることができなかった。目の前にいるのは若い人間の女だ。弱い者に背を向けたら、生きてきて構築し続けた何かを失うことになる。

リザードマン

野郎!!

 がむしゃらに突っ込んでいく。剣を振り上げる。視界からミヤコが消えた。

リザードマン

なんだとっ、ふげっ!!

 後頭部に痛みが走った。その場に倒れる。腕や手足が動かない。

リザードマン

ぐううう……。

 足音がする。何か異様な者が近づいてきている。閉じようとする意識から、別の光景に切り替わった。

 にゃん。にゃんにゃにゃにゃんにゃんにゃん。にゃ、にゃんにゃにゃにゃん。(リザードマン:過去の回想)

リザードマン

はあ……。

 1人草原で寝転がる。今日から失業者だ。金ももらえずどうすればいいのか、路頭に迷う。

魚人

やあ、傭兵団にいた人だね。

 見上げると、魚人がのぞいていた。

リザードマン

なんだ。お前も傭兵だったのか?

魚人

そうだよ。となりいいかい?

 承諾を得ずに魚人はとなりに座る。生臭さには慣れているので嫌な気はしなかった。

魚人

その様子だと、給料はもらえなかったみたいだね。

リザードマン

そうだ。魔王軍が勇者に負けて、逆に借金が増えて、傭兵団がつぶれるなんて考えもしなかったぜ。

魚人

魔王が軍資金を負担する約束だったからね。反故にするとは思わなかったよ。

リザードマン

魔王も神の一族だからな。信用取引で戦争なんてするからこうなるんだ。金の切れ目が縁の切れ目。戦争がなけりゃ、俺たち傭兵は金にもならない。

 傭兵団は魔王からお金をもらえるということで、武器や防具をそろえていた。それが魔王惨敗により仕入れ先にお金を払えなくなった。団長は逃亡、元請けは行方不明。給料なんてもらえる状態じゃない。

魚人

ねえ。この戦争。おかしくないかい?

リザードマン

うん? 何が?

魚人

勇者は異世界から来たとうわさで聞いた。だけど、戦争中は、ぼくたちはそんなこと聞いたこともなかった。まるで、魔王が異世界の人間なんて知らなかったみたいに。

リザードマン

……確かにな。勇者なんていつから出てきたんだ?

魚人

穏健派の神々が呼び出したことになっているけど、魔王を倒したあとの勇者たちの消息がつかめない。煙のように消えてしまった。

リザードマン

元の異世界とやらに帰ったんだろ? 穏健派のやつらが魔王を倒したから、謝礼を渡して帰したと思うぜ。もしくは隠れているのかもな。

魚人

なんで? なんのために?

リザードマン

知らんよ。とにかく、話は終わりだ。仕事はなくなったんだ。

 勇者の存在など興味はない。それよりも明日の飯だ。どうやって食っていこうか考えなくてはならない。腹が減ってしかたがない。

魚人

……すまない。よけいな詮索だったね。これからどうするつもりなんだい?

リザードマン

さあな。

魚人

ぼくは故郷に帰って魚屋をやるつもりさ。ちょうど親父が引退するからね。傭兵をやめるのにちょうど良かった。

リザードマン

魚屋? 同じ種族を売るのか?

魚人

違うよ。ぼくら魚人は普通の魚より高尚な存在なんだ。彼らはぼくらを神のように崇めて近よってくるから、そこを一網打尽にして売り飛ばすのさ。女子供関係なくね! ガッポリ稼げるよ!

リザードマン

えげつねぇ……。

魚人

それじゃ、元気でね。

リザードマン

ああ。じゃあな。

 魚人は立ち上がると行ってしまった。仕事が実家にあるやつはうらやましい。親すら知らない俺はどうすればいいのか。

魚人

アウチッ!!

 悲鳴が聞こえた。起き上がると、魚人が倒れている。足をけがしたのか土の上でもだえている。

リザードマン

どうしたんだよ?

魚人

すまない。転んで足をねんざしてしまった。町まで運んでくれないか?

 めんどくさいことを言い始める。そういえば腹が減った。

リザードマン

わかった。おぶれ。

魚人

すまない。

 魚人をおぶると、町とは逆方向に向かって歩み始めた。お腹がグーグー鳴ってくる。ちょうどいい。

魚人

おや? 町とは反対の方向じゃないのか?

リザードマン

こっちの方が近道なのさ。じゅるり……。

魚人

今舌なめずりしなかったかい?

リザードマン

まさか。喉をうるおしただけさ。なあ。熱いお風呂に入りたくないか?

魚人

いいね。湯治ってやつか。

リザードマン

そうそう。薬草を入れた方が、味が良くなるからな。

魚人

えっ? 聞こえなかったけど?

リザードマン

ねんでもねぇよ。楽しみにしてろ。

魚人

ああ。久しぶりにのんびり風呂に入らせてもらうよ。そういえば昔、親父と一緒によく入ったものだよ。なつかしいな――。

リザードマン

いくら香辛料をふっても、生臭くて食えなかったぜ……やっぱり塩が……。

 塔内部にあるお花見場。

ミヤコ

みなさーん。新鮮なお魚が手に入りましたよ。焼きましたからお酒のおつまみにしましょう!

なぎさ

きゃああああ! 串刺しにして丸焼きにしているわ! 細かく砕いているから原型をとどめていないわ!

リーズン

これからお花見ってときに、不気味なこと言わないでちょうだい。魚の形をしてないけど?

ミヤコ

巨大魚だったんですよ。塔にのこのこ上ってきたので、捕まえて食べやすいように切り刻みました。

なぎさ

春ねぇ。魚も陽気な気分だったのかしら。

リーズン

アホな魚ね。まあ、おいしくいただきますけども。

マーズン

うん? 魚というものは、塔をのぼってくるものだろうか?

 一抹の不安を残しながら、お花見が始まった。

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