エアボードと呼ばれる、空中を滑るスケートボードのような乗り物で人の合間を縫って《学区》の道を駆けながら憂鬱そうに呟いたのは葵香子であった。
今にも雨が降り出しそうな灰色の雲が立ち込め、空は陰鬱な模様を呈していた。吹く風も気持ち悪いくらい生暖かい風で、確かに嫌な天気であった。
だが香子には普通以上に憂鬱な天気に思えた。
それは香子の心の中で渦巻く焦燥と不安。
約10分前、蘇芳雅から真相を明かされた香子は父親の宗二郎と今後どのような方向性で蘇芳親子の関係を修復していくかということについて話し合うため、学園に向かおうとしていた。
しかし、香子がこのエアボードに足をかけた途端、その宗二郎から連絡が入ったのだ。
香子のもう一人の観察対象であった緒多悠十が御縞学院の中に入ったあと、のMINEの執行システムが起動したのを確認した、と。
基本的に学園の生徒の位置情報は学園のメインシステムによってMINEを頼りに常に観察が可能となっている。
もちろん日常的にはそのデータは即刻削除され、プライバシーの保護が徹底されているのだが、今回の場合、悠十と怜だけは位置情報を保存されている、というわけである。