ミヤコ

う~ん……洗濯物終わったぁ。

 ミヤコは背伸びして異世界を見渡した。白い雲は元の世界と変わらない。遠くでは町が見える。

リーズン

私も終わりましたわ……。

 リーズンは建物の陰で倒れていた。ミヤコを運び、洗濯物を運び、さらに手伝わされたのだからたまったものではない。干された衣類が、バサバサと応援している。頭の上に小さな雪だるまが乗っていた。

マーズン

ミヤコ。ミッションは完了した。例の物を……。

ミヤコ

ご苦労様。三回回ってワンと言いなさい。

 マーズンはクルクルと五回転ほどする。

マーズン

わん!

ミヤコ

いい子ですね。ほら、金平糖をあげます。取っておいで!

 ミヤコは金平糖をおもいっきり投げる。マーズンは四つん這いになって走り出し、

マーズン

ひゃっっはぁぁぁぁぁ!!

 金平糖を口でくわえる。青い糖がボリボリ砕かれた。おかわりがほしいのか、マーズンは「はっ! はっ!」と興奮しつつミヤコの元に戻る。

ミヤコ

よしよし。ポイントオーバーで高ポイントをたたきだしてやりましょう。

マーズン

わん!

リーズン

この世界に犬の大会なんてないから。あと家の妹をペット扱いしないでくださる?

 リーズンがふらふらと日陰から出てくる。

なぎさ

やっほー。お前たちぃー。乗ってるかぁいー。

 やたらテンションの高いなぎさが、塔の屋上の扉を蹴りつけてあらわれた。昼寝はどうしたのだろうか。

ミヤコ

まあ、なぎささん。悪霊に取り憑かれたの? 恐山行く?

リーズン

春だから感情の変動が激しいですのよ。躁状態ね。

ミヤコ

鬱の反対になっているのね。

リーズン

だいたい春になると、新しいことをやらなきゃという思いと、自分は何も成せていない絶望に、揺り動かされるのですわ。

ミヤコ

冬は寒いから、何かと用事を春に持っていこうとしますしね。

なぎさ

人の分析しないでくれる。あー何も成せてないわよ。こうやってグダグダグダグダして年取っていくのよ。老いていくのよ。

ミヤコ

生きてるだけで幸せじゃありませんか。

なぎさ

みつをみたいなこと言わないで! 一時は癒やされても、すぐ不安に押しつぶされるんだから! 言葉はまやかしよ!

ミヤコ

この世界にいるんだ、みつを。

なぎさ

あ~むしゃくしゃする! 鼻がむずむずする!

ミヤコ

花粉症でイライラしてるだけじゃないかしら?

リーズン

じゃあどうしたいのよ?

なぎさ

お花見しましょう。お酒飲んで、うまい食べ物を食べるの。服を脱いで、厳しい社会から解放されるのよ。

ミヤコ

導入部分が長かったわね。あと露出はいけません。家で1人でしなさい。

マーズン

基本的にあいつはわがままなんだ。

なぎさ

はい決定! 食べ物を用意しなさい! 私はお酒持って行くから。例の場所は知ってるわね?

リーズン

あなたがかってに作ったあそこね。はいはい。行きますわよ。

なぎさ

いえぇぇぇいっ!! ギズモォォォ!!

 なぎさは飛び跳ねて塔を下りていく。片腕を上げてワンパンしていた。

リーズン

真夜中に食べものを与えたら変身しそうですわね。さてと。私はお野菜を取ってきましょうかね。マーズン手伝ってくださる?

マーズン

だが断る。

 リーズンはほほ笑みながら、マーズンの服をつかむと持ち上げた。人間でいうと五歳ぐらいなので、力持ちのリーズンにとっては、羽を持ち上げるぐらい軽い。

リーズン

姉の言うことは聞きましょうね?

マーズン

ふんっ! ふんっ!

 マーズンは短い手足をバタバタさせて抵抗しているが、扉の奥に消えた。

ミヤコ

……私はどうしましょう。

 両手を合わせて背筋をのばす。この美しい空の下で何ができるだろう。風が花飾りを揺らしてくる。

リザードマン

どーもしなくていいぜ。俺と一緒にくるのならな。

ミヤコ

えっ? 誰?

リザードマン

へへっ……。思ってた以上に美人じゃねぇか。俺たちを失業に追いやった異世界の人間。売り飛ばす前に遊んでやるか。

 リザードマンは剣を抜くと、ミヤコに近づいていった。

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