第4章
物語の続き
テーブルの上に並べられたのは手作りプリンだった。
今日のおやつはプリンだぞ
やったー
おいおい、落ち着いて食べろって………ってなんだよ、もう食べたのか
お前のプリン貰ってもいいか
いいよ
三皿目に取り掛かる。
その三皿目も、もう少しで平らげそうだ。
足りない…………もっと、欲しい
仕方ないな………明日の分だったけど、やるよ。これじゃあ、全部、お前に食べられちまうよ
夢の内容を思い出して苦笑する。
取り戻すことが出来ない過去の思い出だった。
……
おはよう、ナイト
寝れた?
………まぁまぁ、かな
豪華なベッドは落ち着かない。
だから、変な夢を見てしまったのかもしれない。
こんなことで、心配をかけたくない。
何でもないように、ナイトと挨拶を交わす。
起きたのなら朝食にするか?
そうだね
おう
そういえば……王子は?
本棚から料理の本を選ぶナイトの背中に問いかける。
ここの家主の姿が見当たらない。
一応は起こしに行ったけど………何度も呼んだけど起きなかったよ。寝言でプリンって呟いていた。
きっと幸せな夢を見ているのね。寝かせてあげよう
そうだな
………あれで満足したのかな
あんなに食べたんだぞ………それがどうしたんだ
満足出来なかった、その王子様は……もっと美味しいプリンを食べたいって願うの
物語を思い出したのかい?
ナイトにそう問われて、私は首を横に振る。
思い出したのはそこまで。だから満足できなかった王子様が何をするのか、それを思い出さないと
こっちの王子も、まだ満足していないのだろうか………
どうだろ? とりあえず毎日プリンを食べさせて観察するしかないね。もしかすると変化が見れるかもしれない
……観察か
(昆虫か植物扱いしていないか………?)
プリンを食べる彼を観察していれば思い出せるかもしれない。
気が遠くなる作業だよね。一緒に食べるけど食べるのは王子だけ、私の分もあげるのよ。私は食べないの
どうして?
そうしないと、いけないからね
なんとなく、そんな気がする。
?………嫌いってわけじゃないのだろ?
どちらかと言えば好きよ。でも物欲しそうに見られるのなら、先に食べさせた方がトラブルは減る
トラブル?
私の想像した王子様と同じなら、あの人はすぐに怒って、まわりに迷惑をかける。彼は自分が怒っている理由がわからないの、だから突然前触れもなく怒り出す。理由のない怒りを発散したいから
そんな会話をナイトと交わす。
すると、背後からドタドタと駆け込んでくる姿があった。
何をしているのですか
何って、朝食を食べながら物語を思い出しているのよ
……
……
どうして、僕だけ放置されているのですか
プリンは怒っている。
そんなに目を血走らせなくてもいいのに。
王子は寝ていたから
僕が寝ていたからって、どうして……どうして僕はイライラしているのだろうか
…………
話をしていると、自然に思い出せると思ったの。だから、私たちは会話をしながらプリンを食べているの。王子も一緒にどう?
誰が……
ほら
………っ
視線を止める。
そこにはプリンがあった。
私たちはプリンを見て今後のことについて話し合っていた。
プリン好きの王子様。
その気持ちを理解するためにプリンと向き合っていた。
プリン食べても良いよ
ほ、本当ですか
王子が目を輝かせる。
どうぞ
食べてもいいぞ
私とナイトはそれぞれプリンののせられた皿を彼の前に差し出す。
何と言う、幸せ
目を輝かせてうっとりとする王子。
その笑顔が嬉しい。
もっと出そうか?
そこまで食い意地はありません。落ち着きましたよ
……
そう言って席につく。
視線はナイトに向けられた。
彼に不機嫌を投げかける。
むー
どうした?
ナイトの目的、探し物は見つかったのですか
いや……今はエルカの手伝いをするよ
むむむ……
どうやら、二人は仲が悪いらしい。
一方的にナイトを嫌っているように見えた。
ナイトの方は、よくわからない。
なんとなく楽しんでいるようにも見える。
どうしてナイトが苦手なの?
私は安心できるけど
それは、有難いな
こんな状況だもの。年長者が……大人がいるとね、とても安心できるの
(そうだよ……私は大丈夫)
ふと、ソルのことを考える。
ソルは大人で男だけど、たった一人で密室の中にいる。
不安なはずだ。
時間をみつけて様子を確認した方が良いだろうか。
……
ニコリとナイトが微笑んだ。
この笑顔には安心感がある。
僕は、苦手です
………オレも王子様は苦手だなぁ
そう言いながらも、ナイトは王子のことを気にかけている。
今朝だって様子を見に行ってくれている。
喧嘩はしないでよね