お爺様の住んでいる地下室。

そこは、私にとっての楽園。

気味悪がって、あの人たちは近づいて来ない。










あの人たちはお爺様が嫌いだ。
お爺様もあの人たちが嫌いだ。




あの人たちはお爺様が嫌いなのに、
お爺様の大きなお屋敷に住んでいる。










ほとんど帰ってこないけど、「住んで」いる。
















「爺さんは、もうすぐ死んでしまう……

それまでの辛抱だ」


………って話していた。









お爺様が亡くなったら取り壊して

新しい屋敷を建てたいみたい。





そんなお金なんてない癖に。









曰くつきとはいえ、
この広大な土地は手放したくないのだろう。




なんて愚かな人たちなのだろう。









この屋敷の主であるお爺様の地下室。

ここだけが、平穏な場所。







屋敷の中は汚いけれど、
ここだけはキラキラとしている。

エルカ、何を描いているのかね

……絵本だよ

何年も、いや何百年もそこにあるような机の上。




白紙の日記帳を広げて、パステルと木炭を握りながら、思い浮かんだ世界を描いていた。

これは、王子様かね

そうだよ。この王子さまはね、プリンを食べると笑顔になるんだよ

そういえば、あれが大量に作っていたなぁ。じじぃの分はあるかね?

昨日作ったプリンは全部食べられちゃったよ

ハハハハハ育ち盛りだからねぇ。
食べたかった………高い卵を買ってやったのに、少しも食べられないとは……ションボリ

私も食べてないから、落ち込まないで

じじぃは孫娘の妄想に耳を傾けるよ。お前の妄想は甘美だからな、絵本を見せておくれ

はい

私は書きかけの物語をお爺様に渡す。

あるところに、
緑に愛された国がありました。



鮮やかな緑の草原と
青い空に見守られた
平和な国です。




国の真ん中には
大きなお城がありました。






お城には男の子が住んでいました。
この国の王子様です。

皆は王子さまをプリン王子と呼んでおりました

それはどうしてだい?

それはね

この王子様は、すぐに怒ります。

———イライラするんだ……だけど、何がイライラするのかわからない

みんな困っていました。
王子様も、困っていました。


王子様は、本当は、
怒りたくないのです。

———どうしたら良いのだろう

どうすれば良いのか……わからないから、
王子様は、いつも怒っていました。

怒れば、周りの人たちが
困ることは分かります。

———どうすれば……

考えているうちに、
道に迷ってしまったみたいです。

———なぜ、道に迷うんだ!イライラする!!

怒りたくても誰もいません。
誰も聞いてくれません。

———どうしたの?

現れたのは知らない女の子でした。

道に迷ったではないか、どうしてくれる

わたしに怒っても意味ないでしょう

それは、いつもとは違う反応でした。

お城の人たちは、
王子様が怒れば謝ります。

だけど、この女の子は
少しも謝るつもりがないみたいです。

……そうだな

当然です。
女の子には謝る理由なんてないのですから。

そんなときでした。

………なんだ? この音は

……………この音って

……また、だ……魔物でもいるのでは

あなたのお腹の音よ

………

王子さまはビックリしてお腹を抑えます。



だけど、お腹は鳴きやんでくれません。

女の子は言いました。

心が泣いているのね。わたしは、まほうつかいなの。あなたの心を元気にするわ

心を?

お腹も、心も満腹にしてあげる

女の子の手には杖がありました。


それをクルクルと回します。

プルリンプルリン
プルンプルンプリン

おいでませ、プ・リ・ン

すると、プルプルとしたプリンが
目の前に現れました。

これは?

初めて見る食べモノから
目がはなせません。





プリンという食べ物は
知っています。




ですが、
食べたことがありません。



これは、本
当に食べモノなのでしょうか。

王子様にはわかりません。

食べてごらん、元気になれるよ

女の子が言いました。
食べモノのようです
王子様は、恐る恐る口に入れます

………

……どう?

うまい!!

でしょ!

王子様はプリンをペロリと
食べきってしまいました。

元気になった、王子様。
その日は元気にお城に帰りました。

王子様は
プリンが大好きになりました。

王子様の
プリン好きは国中に広まりました。

毎日のようにプリンが献上されました。

相変わらず、
王子様はすぐに怒ります。


不機嫌になります。



だけど、


プリンを一口食べれば
笑顔になります。

怒っていたことも
忘れて美味しそうに
プリンを頬張ります。

そんな彼をみんなは

プリン王子

と呼ぶようになりました。

プリン王子は
プリンを食べることができれば幸せでした。

ですが、それだけでは
満足にはなれませんでした。

第3章 そして王子はプリンとなる4

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