出されたばかりの茶が氷のように冷たい。

そう……どうしても抗えないのね


万里(バンリ)という女は目を僅かに伏せた。

霊深度

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00





ただでさえ深い山の中だ。



何度も鳥居を潜り抜けたはるか奥、普通の者には近づけないような領域だ。

そこまで踏み込んでしまえば、




幽玄


その語がなにか実体をもって現れてくる。

神体に近づいたのか……




私は小さく膝を打った。

なるほど、よっぽどの者でなければここまで踏み入ることができないだろう

それで私か。


あの男――男か女か知らないが、あいつは、
それで私を寄越すことにしたのか。








穢れの入り込んでしまったここを神域などと、お恥ずかしいことです


何かを感じ取ったかのように、バンリが言った。

あなたのお話、お受けするしかないのです。私たちは

……

気になさらないで、カガミさん

……あなたが売られるわけでもないのに、泣いてくださるのね

……

心配なさらなくても、涙は表には出ていませんよ。
私の言う意味、お分かりになる?

……さあ




バンリは一瞬、私を見つめた。



それから逸らし、笑顔を作り上げる。

流れるように横を見やると、襖の裏へ声を掛ける。

カゲツ、ご飯にしましょう?

……飯?


どういう意味だ、そう聞こうとしたとき。

りーちゃん……盗み聞きしてごめんなさい

その少女が、現れた。

死んだ眼だ。

そう、思った。

……私は何を考えている

当たり前ではないか。



だって彼女はもう死んでいるのだから。

+00「私だったもの」二

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