リーズンの魔法で下におりる。肌の白い女の子が倒れていた。リーズンの妹なのだろうか?

リーズン

着きましたわよ。

ミヤコ

ぐごー

リーズン

起きなさい。

 あらいけない。寝ちゃったわ。リーズンさんの背中、暖かいから。

 ミヤコは下ろしてもらい床に足をついた。

リーズン

マーズン! なぜ魔物に変身なんてしてましたの?

マーズン

私にふれるな、姉!

 マーズンはのばされたリーズンの腕を強くはらう。

リーズン

いったいどうしたというの……。

 困惑するリーズン。

マーズン

殺せ! どうせ私を殺しにきたんだろう? 好きにするといい!

 マーズンは声を荒立てて「殺せ」を連呼する。

ミヤコ

いったいどうしたの? おばあちゃんに話してごらんなさいな。

マーズン

おばーちゃん? 何を言ってる。お前も姉の仲間なんだろう? 殺せばいい!

ミヤコ

まだまだ若いんだから、そんなことを言ってはだめよ。甘いものでも食べて落ち着いて。

 ミヤコはマーズンを膝枕してやる。

 モンゴリアンチョップのダメージが残っているのか、マーズンは動けない。

マーズン

何をするつもりだ!

ミヤコ

お口を開けて。あ~ん。

マーズン

口を開けるだと? あ~ん。

 意外と素直に口を開けるマーズン。

ミヤコ

はい。金平糖。

マーズン

ウゴッ!? ウゴゴゴゴッ!? オゴォォォォォォォォォォォォォ!!!!

 ミヤコはマーズンの口めがけて金平糖を流し込む。小さな口の端からあふれ出ていた。魔法で大量に作り出せたようだ。

リーズン

ミヤコ!? それ金魚に餌をあげるやり方ですわ! あとやりすぎ!!

 マーズンが苦しむ姿を見て、リーズンがたまらず腕を押さえる。

マーズン

モグモグ……。甘い。お前は信用してやってもいい。

ミヤコ

うふふ。やったわ! リーズンさん。

 ガッツポーズするミヤコ。

 マーズンを飴で手なずけてしまった。変なおじさんに餌を与えられたらついて行くタイプである。

リーズン

あっあなたねぇ……。

 リーズンはあきれた。

ミヤコ

それでは話してくれる? どうして塔に閉じこもっていたの? ポチに変身していたのはなぜ?

リーズン

ミヤコ。ポチから離れなさい。

マーズン

塔に閉じこもる? 何言ってんだ。私は姉に閉じ込められたのだ。

 衝撃の事実だ。

リーズン

はあっ!? 何言ってますの? 塔に閉じこもったのはあなたでしょう?

マーズン

違う。犯人はお前しかいない。つまり、お前は私を殺そうとした。だから魔物に変身して、やられるまえにやっちゃるけぇのぉと思ったのだ。

 マーズンは自分の意見を譲らない。

 なぜ広島弁に?

ミヤコ

……あっ。

 思い出した。

リーズン

どうしましたの? 漏らしちゃった?

ミヤコ

失礼ですね。私はそこまで進んでません! 閉経はしましたけど。ってそこじゃなくって。塔の扉の構造ですよ。

リーズン

扉の構造って?

ミヤコ

聞こうと思って忘れてましたけど。この塔の扉って、内側と外側から鍵をかける二重ロック構造になってるんです。つまり外と中から鍵をかけるようになってるんですよ。

マーズン

そうだ。季節を突然変化させないように、扉は二つの鍵がかかっている。結界がはられているので、《季節者》は窓から外に出ることもできない。冬の季節が終わったので、外に出ようと鍵を開けたが出られなかった。鍵は姉、お前が持っていたはずだ。

 つまり、リーズンが鍵をかけたのはいいけれど、植木鉢の下に鍵を隠していたのを忘れていたのだ。マーズンは塔に出られない恐怖と孤独で被害妄想をふくらませていたのだろう。お姉さんを恨む気持ちもわかる。

リーズン

なんてこと……なんという悲劇……。

マーズン

いや、お前が鍵かけたまま忘れてただけだろう?

リーズン

マーズンをここまで追いつめるなんて! 私は犯人を絶対に許しませんわ!

マーズン

だから。犯人はお前だっつってんだろ。姉。

 リーズンは最後まで自分のうっかりを認めなかった。

 塔の屋上に到達。空気がとてもおいしい。風が花飾りを揺らしてくる。

ミヤコ

う~ん、終わったぁ。異世界って気持ちいいですね。

リーズン

春の女王がもうすぐ来ますわ。ありがとう、ミヤコ。犯人は結局わからずじまいでしたけど。

マーズン

姉ぇ……。

ミヤコ

まあまあ。それでは仕事は終わりということで。私を元の世界に帰してくださいな。

リーズン

無理ですわ。だって、私があなたをここに呼んだわけではないですもの。

ミヤコ

……へえ!?

 驚きすぎて、今日あったことが真っ白になって忘れてしまった。

リーズン

私はたまたまあなたを見つけて、声をかけて、仕事を手伝ってくれって頼んだだけですわ。あなたが何しに異世界に来たのかなんて、知るわけないでしょう?

ミヤコ

そっそんなぁ~。久しぶりに孫に会えると思ってたのにぃ。

 確かにリーズンは異世界に呼んだとは、一言も言っていない。勘違いしてしまった。別の誰かがここに召喚したのだ。

リーズン

ミヤコったら。ボケちゃった?

ミヤコ

まだそこまで進んでません! 朝ご飯何食べたか忘れるぐらいです!

 しばらく異世界に、お世話になりそうだ。

 男が1人、森のなかで、太い木の根っこに座っていた。かかえているのは背丈ほどある大剣。鎧を着ているところからして剣士だろう。

にゃあ。

 小さな猫がやってきた。

 男はそれを見つけると、ニコリとほほ笑む。

良夜

やあ。ミヤコは元気だったかい?

 猫はジャンプするとクルリと回転し、女性に変身した。

圓谷

ええ。とても丸くなっていたわ。

 女性はほがらかに笑う。

良夜

そっか。

 男は空を見上げた。なつかしい何かを思い出すように。

良夜

圓谷。……殺そう。ぼくたちの復讐を果たすために。

 男は立ち上がって墓に向かう。そこで剣を抜いた。刃が凶悪な光を放つ。

 女は何かを言おうと口を開いた。だが、そこから言葉が出てくることはなかった。

圓谷

ええ。行きましょう。良夜。

 赤い炎のように復讐心を燃え上がらせる男を、女はただ目を閉じることしかできなかった。

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