何、不法投棄か

おかしな方ですね

お花は、ゴミではないですよ?

何故、花を流す

母の命日には、
こうやって

お花を母のもとへ
届けているんです

それは、母の元へ届くのか

はい、届くに決まってます♪

届く、に、決まって……ます…

そうか。
それは、届くのか

――――!

それなら、
これは…不法投棄…
……ではないのか…?

何を仰ってるんだか

何か、可笑しいことでも言ったか?

心がない
なんて言われている貴方が

こんな人だなんて
思わなかったわ

こんな人?

けれど、困ったわ

名前は知りませんの。
教えて下さる?

……僕は、

――

――

シオン

叔父様、危なくってよ?

なに、大丈夫だ
あれだけの酒に
酔ってたまるものかい。

夜は更々と色を増していく

星だけが、冷ややかに
冴さえ渡っている

シオン

――……この時間は、

美人は人ほしげに振り返る。
百歩遠くから、黒い影が見える

靴を鳴らしておもむろに来たる

――!

―――――――――っ

シオン

あら、巡査さんが来ましたよ

巡査がどうした、
おまえなんだか、うれしそうだな

シオン

そのようなことは、
ありませんわ

しばらく無言で歩いていた為、
静寂を裂くのは響く足音のみである

酔っている足は、
ゆったり進むが

対照的に聞こえてくる
その規則的な靴音は
早や近づいていく

シオン、
今夜の婚礼はどうだった?

シオン

たいそうおみごとでございました

いや、おみごとばかりじゃあない、

おまえは
あれを見て
なんと思った

シオン

………………

シオン

なんですか

さぞ、うらやましかったろうの

老人は、嘲笑う

少女は、答えない。
しかし、老父の言葉に
酷く心が痛み、眼を伏せてしまう

シオン

―――


少女は、答えない。
しかし、老父の言葉に
酷く心が痛み、眼を伏せてしまう

どうだ、うらやましかったろう。

おれが今夜、この婚礼の席へ
おまえを連れて行った本当の意味を
知っとるか。

シオン

………は…い

ナニ、はいだ。はいじゃない
その主意を知ってるかよ

シオン

…………。

少女は黙って、首を垂れる
老夫は、ますます高調子

分かるまい、
こりゃ
おそらく
分かるまいて。

式のマナーを覚える為でもない、
別に御馳走を喰わせたい訳でもない

ただうらやましがらせて、
情けなく思わせて、
おまえが心に泣いている、

シオン

――――

その顔を
見たいばっかりよ。

酒の入った荒い息を吐く老人
少女は悄然として、横を向く。

しかし、老いぼれた手は、
彼女の顎を持ち上げる

シオン

―――っ

お行儀が悪いじゃないか

話を聞くときは、
人の顔を見るべきだろう?

どうだシオン、
あの花嫁の美しさ、
さすがは一生の大礼だ。

あの美しいドレスを纏った女性の
恥ずかしそうに座った恰好といったら、
二度とない美しさだ。

シオン

………っ

花嫁もさ、
美しいは美しいが、
おまえにゃ完敗だろう。

花婿もりっぱな男だが、

あの巡査にゃ一段劣る。

シオン

――叔父様、

もしこれがおまえと
巡査とであってみろ。

さぞ目の覚めるだろうなぁ

なあ、シオン、
巡査が
「おまえをくれろ」と
申し込んで来た時

覚えているだろう?

おれさえ
「はい、どうぞ」と言えば、

人をうらやましがらせて
やられるところよ

しかも、おまえが
「生命いのちかけても」
という男だもの、

どんなに
おめでたかっただろうな?

しかし、人生なんてモンは
早々うまく回らないだろう?

おれという
邪魔者がおって、
小気味よく断わった

あいつも
とんだ恥を
掻かいたな。

はじめからできる相談か、
できないことか、見当をつけて
聞けば良いものを

ライタスも
目先の見えないやつだ

ばか巡査!

シオン

……あ……の……叔父さん

少女は声が震える。


老父は、後ろの巡査になど
聞こえていないと
安心して、振り返るが――


眼に映つるその人は、

……夜目でも、どうして
見間違えることがあるだろうか。

アート

―――――っ

………おや!

冷酷巡査の恋末路(夜行巡査③)

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