涅槃のように、静かな霜の深い夜
寂しい雪原に
しんしんと降る足音


王管轄の森、フォールフロウストに
訪れる人など、ほぼ皆無、

密猟を取り締まる為に
彼が巡回を行うぐらいだ


アート

―――?

冷鷹の眼は、森の奥で
蠢く人影を捉えた。



――――――


見るに、酷く衰弱している
獣人の婦人である。

一人の子どもを抱えて、
吹雪を耐えていたのだ

着ている服も破れているのだが、

――少しでも子どもに暖を、と

その衣服で子供を包み込んで
倒れこんでいる

彼は、森奥へと、
足の速度を変えずに近付く

アート

おいこら、起きんか

!?

少量の毒を孕んだ、力のある声に
婦人は飛び起きる

は、は、は、はぃ……

急いで、居住まいを繕うのだが、

「はい」と答える声も、
震えと寒さで
歯の音が合わない

アート

「はい」ではない
此処は立入禁止だ、出ていけ

あ、え……そんな……っ!

アート

疾く行け、なんという醜態だ

はい!恐れ入りましてございます!!!

反射的に大きな声で謝罪する。
――が、

慟哭、赤子の喚き

それは、森を揺らす

飢えと疲労もあるのだろう。

その声は龍の咆哮よりも
独善的で、轟々としており、
冬を燃やす程の声だった

―――!

婦人は慌てて、乳房を含ませる。
一目など気にしている場合ではなかった

夜分のことでございますから、
なにとぞ旦那様
お慈悲でございます。

大眼に御覧あそばして

アート

規則に夜昼はない

此処は
立入禁止だと言ったが?

ひとりきり、吹き荒ぶ寒風は
婦人の肌を裂いて
千切ってしまいそうなほどだ

小刻みに身を震わせる

たまりません、
もし旦那、
どうぞ、
後生でございます

しばらくここに
お置きあそばしてくださいまし。

私は獣人、城下で寝てしまっては
この子共々、狩られてしまいます。

城仕えをしておりましたが、
災難に逢いまして、
途方にくれてしまい…

アート

いかん

………っ、

アート

いったん
いかんといったら
なんといっても
いかんのだ。

アート

例え、貴様が、
観音様の化身でも、
居てはならない

……ひっ……ひっく……

アート

こら、行けというに

冷酷巡査の恋末路(夜行巡査②)

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