やっとこの時が来た。
そろそろ向こうから来てくれる頃だろう。

私はこのために生きてきた。
私は人間を人間を蘇らせることに成功したのだ。不可能を可能にした人間である。

称賛も報酬も私には必要なかった。
学問のタブーなどを気にする倫理などは最初から持ち合わせていない。

誰かに認めてもらおうとなんて考えは既にて去っている。

私は私にために生きた。
私がやりたかったことは長い月日を経てようやく成就する。

何だこの感覚は

「もう充分だろ。お前の役目はここまでだ」

おかしい、昨日まで馴染んできた相棒の存在が明らかに強くなっていた。。

役目?

「お前の身体は俺の器になるんだ」

「楽しかっただろう。殺して、殺して、殺して、今まで出来なかった、我慢してきたことを思い切りやって楽しかっただろう」

楽しかった。今思えば、その感覚でさえもこいつのものだったのかもしれない。

「やっと100%。お前の役目は終わった。とっとと俺に体を渡して消えてくれ」

ここにきて自分のしてきた罪を自覚した。
誰かを助けたいという思いは自分のものであったこと、自分を奪われるときになってやっと気づいた。

そして気付いた時には手遅れってね

薫の意識は完全に消え去り、いまここに立つのは薫の姿をした高柳準その人となった。

これが転生ってやつかな。うん、まぁ悪くない。

改めて新しい体の感触を確かめる。

来ましたね

刑事二人は薫を尾行して彼の動向を探っていた。

行方不明となっている杉本薫を調べたところ、彼のドナー提供者の詳細が不明であることが分かった。

どうしてすぐに確保しないんですか

ちょっと思うとこありってやつだよ。彼の動機を探ってみないと、僕の疑問も解消しないからね

疑問ですか、あなたのことですから深くは聞きません

宮本の気遣いに佐々木は内心感謝する。
今回の事件で高柳の件を終わらせることができる。教え子の仇をとれる。そう確信していた。

何かあったら自分が彼を追いますから、あなたはあなたのことに専念してください

ほんと、良い相棒だよ君は

そして、彼らが見張る場所に杉本、もとい高柳がやってきた。

お久しぶりです、坂本先生。博士って言った方が適当ですか今は

本当に来てくれるなんてねぇ、ずっと待っていたよ。10年間首をながくしてね

自分でも驚きですよ、本当に死人を生き返らせるなんて、人間の技術の最先端だ

そういうコメント、ホント何年待ったかしら

初めて自分のことを認めてもらえる人物に出会えたことにホッとする真冬。

褒めてくれる相手が君みたいなシリアルキラーじゃなければもっと嬉しかったんだけどね

そうですね

まるで友人同士のように笑いあう二人。
その顔はお互いの願いを叶えた満足感にあふれていた。

これからどうするんだい、外にはもう警察がいるよ

時間もないんで僕は最後の遊びに行きますよ

私ももう十分だよ。私の研究は成功だった。
でも表だって評価されることなんてない。

だからもう終わりにしよう、何もかも。神様に喧嘩売った私は先に地獄で見守っていることにするよ

まだまだこれから楽しもうとは思わないんですか

君は子供のまま十年間を過ごしたからと思うけど、大人の世界はとても非常で疲れるものなんだよ。

そういうものですね

素っ気ないコメントを残して出ていこうとする高柳。

僕はそんなものに興味はないんで、もう行きますね

そう、君には一生わからない感覚かもね

互いに認め合い、相容れない人間だということも確認できた。

そして2人は別れた。

辺りが暗くなると同じころ、病院内の明かりが消えた。

変です、突然明かりが

しょうがない突入しよう

佐々木の決断で高柳のいる院内に駆け込もうとする。

病院内で爆発が起きた。

爆発?

急ごう。このまま自決逃がすわけにはいかない

駆け込もうとすが、同時に駆けていく高柳が見えた。

あれは、どうします佐々木さん

くっ

あの獣を追いたい、しかしその秘密も暴きたいという思いに一瞬足が止まる佐々木。

・・・あなたは彼を追ってください。僕が中に行きます。

決断に迷うなんてあなたらしくない。
早く行ってください。あなたはあなたの過去に決着をつけるんでしたよね

宮本の言葉で目が覚める。
刑事としての自分、人間佐々木秀郷を見失うことを恥じた。

すまん、死ぬんじゃないぞ

あなたよりは幸運な人間だと思っているので

いつもの嫌味な一言が聞こえて笑いがこぼれる。

ありがとう、宮もっちゃんはそうでなきゃ

そんじゃ行こうか

はいはい

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