よーし、そんじゃそろそろ帰るか

 時刻は午後五時を回っていた。桜子の両親が心配しだす前に家に着かねばならない。

帰れ帰れ。…癪だが玄関先まで送ってやろう。こんな広い屋敷、君が迷ってしまわないようにんな

はいはい…

麗花お嬢様って最近すっかり変わっちゃいましたね

……?

 玄関まで麗花と向かっている途中、とある部屋から扉越しにそんな声が聞こえた。

使用人が休憩する場だ…何を話しているんだ?

 俺と麗花は扉に耳をピッタリとくっつけて、使用人たちの会話に耳を傾ける。

ほんとにね。一体どういう風の吹き回しかしら?

ですよねー。お礼なんて今まで言われたことなかったし、いつも話しかけても無視か軽く睨まれるだけだったし

頑固親父、みたいなっ!

頑固親父って……

でもそうね。そんな感じだったわね

ま、今は色んな表情を浮かべて、お食事もきちんととられておかわりまでして……

まるで人が変わったみたい!

うっ

――それでも、とてもいい変化だわ

――やっと子供らしくなってきたのですから

ですね!

なぁ、桜子

ん?

さっきのメイドたちの話を聞いて確信したよ

麗花は――素直になれなくて、人と関わるのが苦手で…そして実際すごくさみしい思いをしていたんだ

両親が常に不在だから、自分がしっかりしないと…なんてことも考えて大人のように振る舞おうとしていたかもしれん

クラスで孤立していたのも…そういったことからかも……

だから、転生なんて道を選んだのか――。

かもしれない。
……もし――

もし?

――もし、麗花をこの身体に戻した後、僕がまだ少しでも現世にとどまれるなら、一番に両親に会わせてやりたい

両親に、か……

現実、そんなことできないがな

……なんでそこまで、両親に会わせたいって思うんだ?

…………

パソコンのログインパスワード、君ちゃんと見てたか

そんなのちゃんと見てないからわかんねぇけど……

――『parents』

なんかわからないか?僕がそう思うのも

 俺はただ頷いた。

じゃ、もう帰るわ。いつまでも立ち話もなんだしな

あぁ、また明日

 麗花の転生するきっかけは…『さみしさ』からだったとするなら、桜子の方はどうなのだろう。

 帰り道ずっと考えていたが、何にも知らない俺は、何にも思い付かなかった。

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